独行法反対首都圏ネットワーク


第55回地学団体研究会総会(山形)決議.
2001.8.21 [he-forum 2410] 第55回地学団体研究会総会(山形)決議.

川辺@山形大教育地学です.


 2001年8月3〜5日に,山形大学小白川キャンパスを会場にして開かれた地学団体研究会の第55回総会において,以下の決議・声明が決議されましたので紹介します.


○「大学の構造改革の方針」に反対する
○憲法・教育基本法にもとづく教育改革を求める
○「地域の自然を学ぶことのできる教育条件の整備を訴える」声明


 これらは,http://kescriv.kj.yamagata-u.ac.jp/agcjy/p2001/

に置いてあります.


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「大学の構造改革の方針」に反対する


 国立大学独立行政法人化(独法化)計画に関しては、6月に発表された文部科学省による「大学(国立大学)の構造改革の方針」(いわゆる「遠山プラン」)の強要に伴い、新しい重大な局面にはいった。この「大学の構造改革の方針」は、「大学を起点とする日本経済活性化のための構造改革プラン」とともに、1)国立大学の再編、統合を大胆に進め、2)独立行政法人化を超えた民営化の導入、3)第三者機関の評価に基づく選別を行おうとするものである。そして、国公私立大学の研究分野ごとの「トップ30」に対してのみ重点的に投資して、それらを新産業創出機関へと変化させ、残りの大学は、民営化や地方移管を目指すとみられる。これは、小泉内閣の「痛みを伴う改革」という経済政策に大学を従属させるものである。
 もしこの「大学の構造改革の方針」が遂行されるならば、地方に貢献してきた地方国立大学の切り捨てにつながる。特に、見過ごすことが出来ないのは、この計画が地域を拠点とした大学における研究・教育を著しく困難にする可能性が高いことである。基礎科学に属する地球科学関連分野は直ちには新産業に結びつきにくく、予算配分等で圧迫を受けることが懸念される。とりわけ、地球科学関連の研究は、地震や火山研究を例にとってもわかるように、全国に満遍なく分散する大学、研究機関が各地域ごとに分担しあう共同協力によって、全国をカバーする研究が成り立っている。国立大学の統合再編・規模の縮小によって独法化・民営化された場合には、地域の調査・観測・研究を担ってきた大学や諸研究施設が切り捨てられ、こうした地道な全国をカバーする研究が成り立たなくなる。
 一方、「トップ30」以外の大多数の大学における研究・教育の弱体化は、初等中等教育、社会教育分野にも深刻な影響をもたらすことは必至である。特に1県1教員養成系大学・学部の統廃合は、地域の特性に精通した小・中学校教員の養成が困難になり、さらには博物館学芸員や社会教育に貢献する人材の育成に大きく影響を与えることにもなる。
 21世紀の資源問題、有珠山・三宅島の噴火や地震などのさまざまな自然災害や環境問題に直面して、地球科学がますます重要になることは、既に多くの国民が感じ、指摘しているところである。もし、短期的な経済政策、それも試行錯誤の域を出ない政策に大学を従属させるならば、地球科学関連の研究・教育が弱体化することは避けられず、後世の日本社会全体に深刻な打撃を与えるであろう。こうした現実的危険性が想定される以上、本会は、文部科学省による「大学の構造改革の方針」に強く反対するとともに、同計画遂行を保証する独法化に改めて反対する意思を表明するものである。
 以上決議する。


2001年8月4日

地学団体研究会第55回総会


憲法・教育基本法にもとづく教育改革を求める


 第151回通常国会最終日の2001年6月29日,参議院本会議で教育三法(学校教育法,地方教育行政の組織及び運営に関する法律,社会教育法)の改悪がおこなわれた.その主たる内容は,@「奉仕活動」の義務化(学校教育法・社会教育法の一部改正),A「問題生徒」の出席停止要件の明確化,B大学及び大学院への入学年齢の緩和(学校教育法の一部改正),C高校通学区域の撤廃,D「不適切教員」の転・免職措置(地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部改正)である.
 教育三法改正の国会審議の過程では,三法改正の持つ重大な問題点や拙速な改正による矛盾が明らかになった.一例をあげると,現行法のもとでも,さまざまな社会自然体験や奉仕活動を教育に位置づけること,問題生徒の対応などは十分にできる.また,「不適切教員」の転・免職措置については,昨年度から人事考課制度を導入した東京都の例からも,生徒・教職員・保護者相互が信頼関係を築きながら教育活動に取り組むことに対して,きわめて有害であることは明らかである.
 これらをはじめ多くの問題点が指摘されているにもかかわらず,「21世紀教育新生プラン」にもとづいて教育三法の改悪が拙速におこなわれたことは,いじめや不登校,校内暴力などの増加の問題,学力低下の問題など,日本社会の未来に関わる教育問題の本質的な解決をかえって阻害することになるであろう.
 我々地学団体研究会は,これまで地域や学校,職場で,「国民のための科学を」を合い言葉に,市民や子供たちととともに科学運動を実践してきた.この経験に照らしても,教育問題の解決に必要なことは,教育三法改悪によって「選別と排除の論理」や「競争と強制」を徹底することではなく,日本国憲法,教育基本法にもとづいて真にゆとりある教育に改革していく事こそ解決の方向であると考える.
 我々は,教育三法を改悪したことに強く抗議するとともに,憲法,教育基本法にもとづいて教育改革がおこなわれるよう求める.さらに,最近の小泉首相の発言に象徴される憲法や教育基本法を改悪しようとする動きにも断固反対する.

 以上決議する。


2001年8月4日

地学団体研究会第55回総会


「地域の自然を学ぶことのできる教育条件の整備を訴える」声明


 近年、有珠山・三宅島の噴火や各地の集中豪雨による洪水、鳥取や広島・愛媛の地震などの相次ぐ災害や、諫早湾干拓やダム建設などによる環境破壊が大きな問題となっている。こうした中で自然・環境への市民の関心は高まっており、自然科学、特に地学を通して、地域の自然とそのしくみを学ぶことの必要性はますます大きなものとなっている。
 しかしこうした中、教育現場では子どもたちの「理科離れ」・「学力低下」が懸念されている。新教育職員免許法では教職科目や実習期間などが増えた反面、教科専門科目は大幅に減少した。これでは、学生が専門教科の内容や楽しさを知る機会・経験を十分得られないまま小・中学校の教員にならざるを得ず、野外観察を充実させ、生きた自然を教えることは難しい。教員の学ぶ機会を保障し、地域の自然に根ざした理科教育のできる教員を養成することこそ、子どもたちの学習意欲に真に応える道である。
 また、高校では地学の教員採用数は全国的に極めて少ない。「受験に直結しない」、「地学専門の教員が少ない」などの理由から、地学が開講されていない学校も多く、生徒の希望があっても選択することが困難な状況がある。
 新学習指導要領では授業時間数が削減され、学習内容も“3割”削減される。内容は制限項目によって細かく規定され、検定を通してそれが徹底された教科書は「薄く」なる。地域の自然やそれを生かした野外観察の重視をうたっている点は評価できるが、制限項目によって扱う岩石の種類や数を決めてしまうなど、学習の可能性を大幅に狭めてしまっている。それらは、あるがままの自然に触れる中から幅広く興味を発展させていく子どもたちの自然認識のあり方からはずれたものである。
 さらに、野外学習や体験学習の重視が謳われる中、地域の情報センター・自然学習センターとしての博物館等社会教育施設の役割はますます大きくなってきている。しかし、多くの博物館等では、それに十分対応できるような人的体制や予算面などの諸条件が整えられていない。
 以上、これらの状況を解決するのは、教育行政機関の責務である。われわれは、すべての児童・生徒が地域の自然を学習する機会を保障するため、各教育委員会に対し、理科教員の確保と授業を行うにあたっての諸条件の整備、各地域の博物館等社会教育施設の充実を強く訴える。

2001年8月4日

地学団体研究会第55回総会

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