独行法反対首都圏ネットワーク

「遠山プラン」を考える 山本眞一
2001.8.20 [he-forum 2408] 文部科学教育通信:「遠山プラン」を考える

            「遠山プラン」を考える
                山本眞一
        (筑波大学教授・大学研究センター長)

     文部科学教育通信 No32 2001年7月23日号
    http://www.kyoikushinsha.co.jp/books/kt_0032.html
      p38−39 連載:高等教育システム26

      ◆「反対なし」のプランをどう考えるか◆

先般、大学(国立大学)の構造改革に関し、「活力に富み国際競争力のある国公私立大学づくりの一環として」という副題をもつ方針、いわゆる「遠山プラン」が公表された。その骨子は、・国立大学の再編・統合を大胆に進める、・
国立大学に民間的発想の経営手法を導入する、・大学に第三者評価による競争原理を導入する、の三点である。文部科学省では、これをもって「世界を相手に勝でる大学」、「国民から信頼される大学」づくりを目指すとしている。
従来と異なるのは、これを各国立大学長に説明する前に、経済財政諮間問議において文部科学省の方針として示したことである。果たして、六月十四日の国立大学長会議では地方大学を中心に反発の声が続出したそうであるが、その後日を追うにつれて、国立大学改革の基本方針として定着しつつある。また、新聞等の報道姿勢も概ね文科省方針に賛成のようである。先日見た「内外教育」七月六日号では「遠山プラン」に反対なし、とマスコミ論調を伝えている。
しかし、「誰も反対のない計画は実施に慎重であれ」というのはビジネス・マネジメントの鉄則と聞く。このプランに落とし穴がないかどうかは、政策担当者を含めて関係者が今一度注意深く吟味してかかる必要があるだろう。いくつか気づいたことを以下に記す。

     ◆政治の現実を冷静に受け止め、然るべき能動的対応を◆

第一に、国立大学長会議での文部科学大臣の挨拶にあるよるように、経済財政諮問会議において、大変なスピードで「骨太の方針」が固まりつつある状況が、このプランの背景にある。
つまり、このプランは政治の急速な流れという現実の中から生み出されたものである。政治の世界とは、言葉を変えれば国家の政策遂行のための資源配分、あるいはそれらの優先順位をめぐる争奪戦であり、構造改革という政治の大方針の下で、教育の世界にも応分の負担が求められたものだと捉えることができるだろう。
従って、大学とくに国立大学の学長さんたちは、この方針をただただ恐れ入って受け取るのではなく、政治の現実として受け止め、そして自ら責任を負っている(はずの)大学の将来プランと巧みに照らし合わせて、然るべき能動的対応をとる必要がある。この連載の第二回に書いたことだが、国立大学に対する逆風は、受身の姿勢では決して収まることはないのである。

         ◆手段と自的を取り違えるなかれ◆

第二に、このプランでは国立大学の再編・統合や民間的発想の経営手法導入がうたわれている。しかし、政策科学を多少とも専攻した私の目から見れば、それらがどのようなプロセスを経て国立大学の活性化につながるものかは、今後の検討課題として残されているような気がする。例えば、民間的発想と言っても、現実の日本社会においては、大企業を中心にバブル経済崩壊以降一向に活性化しないものがいくらでもあるBまた、再編・統合という多大のエネルギーを要する事業は、本来縮小・廃止されるべき負の部分を清算するには有効だろうが、各国立大学がこれまで積み上げてきた教育・研究基盤をかえって弱体化することにはならないだろうか(本連載「第二十一回」五月十四日号参照)。
六月二十四日付け朝日新聞社説は、大学関係者の関心が、教育と研究の活性化ではなく「削られるのはどの大学か、などと再編や削減の形にばかり集まるのは建設的でない」とし、本当に必要な制度の改革をなおざりにすることのないよう、政府や大学関係者に求めているが、まさに正論である。

    ◆大学の教育・研究基盤は守り育てなければならない◆

第三に、「遠山プラン」では競争原理の導入により、国公私「トップ30」を世界最高水準に育成するとある。私も大いに賛成である。しかし、トップを高くするには、裾野を十分に広く育てる必要がある。このことは、明治以来わが
国の先達たちが、真剣かつ慎重に取り組んできたことがらであるが、国際的に見ると大学に対する公的資金の投入はかなり見劣りがする。対GNP比もそうであるが、他の資金源と比較した政府支出研究費の割合も、わが国は欧米主要国に比べて小さい。かの米国でさえ、国家戦略の一環として大学に多大の研究費投入を行っている。また、トップの大学に資源を重点的に配分することは結構だが、科研費を見る限り、図表2に示すようにすでに現実は米国並みの重点配分になっている。教育・研究基盤が未熟なままに、競争的環境を強調し過ぎることは、反って害をもたらすことにならないか。政府に望むべきは、十分な資金量の確保と、大学の自由活発な活動を助ける規制緩和策なのではないだろうか。
政策担当者は、大学の教育・研究基盤の充実が、わが国の未来を左右するという使命感を持って、国立大学を叱るだけではなく、霞ケ関や永田町さらには財界を舞台に、外向きの戦いを大いに繰り広げてもらいたいものである。
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図表1 大学への資金源別研究費の割合(%)                       
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資金源     日99   米00   独99   仏99   英99
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政府      63.8  65.6  90.1  91.5  70.6
産業       3.4   7.4   9.9   3.5   7.9
大学      32.5  19.8   0.0   4.6   4.4
民営研究機関   0.3   7.3   0.0   0.4  17.1
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計      100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
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(注)平成13年版科学技術白書から筆者の計算。外国からめ資金を除く。              

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図表2 競争的研究費の分配状況総額に占める割合(%)

日本(科学研究費補助金2001年)
   上位10校   48.0%
   上位20校   58.7%

米国(連邦政府研究費199フ年)
   上位30校   45.1%
   上位60校   65.4%

(出典)文科省調査データから筆者の計算
(注)上位大学数は、日米の大学数の差異を考慮。
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