[科学技術予算]「国際競争に勝つ成果を目指せ」
2001.8.20 [he-forum 2404] 読売新聞08/20
『読売新聞』社説2001年8月20日付
[科学技術予算]「国際競争に勝つ成果を目指せ」
政府の来年度予算の概算要求作りが、本格化している。目玉のひとつが科学技術予算だ。
だが、その取りまとめをめぐって不協和音が生まれている。応用研究に比べて基礎研究がなおざりにされかねない、という声が、関係者の一部から出ているのだ。
科学技術は、政府予算の重点七分野のひとつだ。削減を求められる一般分野と比べて追い風の状態にある。関係者は協力して恵まれた環境を生かすべきだ。
科学技術予算は、今年一月に発足した総合科学技術会議(議長・小泉首相)が基本方針を決定し、その趣旨を関係府省の予算に反映させる方式で作られる。
先月まとまった基本方針は、重点的に予算配分すべき分野として、〈1〉生命科学〈2〉情報通信〈3〉環境〈4〉ナノテクノロジー・材料――の四つを掲げた。
これに対して、国立天文台など大学共同利用機関の所長有志が「基礎研究の強化なしでは、科学技術創造立国の芽が出ても、大きく育たない」と、同会議に異例の要望書を提出した。
今月に入って、文部科学相の諮問機関の科学技術・学術審議会も、基礎研究への十分な投資を求める建議を行った。
経済的な即効性が期待できる分野に資金が集中し、基礎分野を担う研究機関、なかでも大学系研究機関がしわ寄せを受けかねない、との懸念が背景にある。
元々、応用研究を中心とした特殊法人や独立行政法人(旧国立研究機関)と比べて、大学系の研究機関の予算額は小さい。意欲と実績のある機関でも、必要な資金が得にくい面があった。
旧文部省系の大学関連予算には、資金を各研究機関に広く浅く配分せざるをえないという“宿命”があり、旧科学技術庁系の特殊法人予算のような大胆な資金配分をしにくかったこともある。
文部省と科技庁が合体した今は、改善の好機だ。旧省庁のそれぞれの予算枠を打ち壊し、基礎、応用を問わず、意欲的で国際的な成果が期待できる機関に、柔軟に予算配分をすべきだ。
研究機関や研究者にも、望みたいことがある。政府は現在、年間三千二百億円規模の競争的資金を、倍増する計画を進めている。これは基礎研究にも大きく門戸が開かれており、積極的に応募して研究の活性化を図るべきだ。
厳しい経済情勢下にあって、将来の国力増進につながる可能性を秘めた科学技術への期待は大きい。それが、例外的に予算増を認められた理由でもある。
予算の重点化、効率的運用を当然のこととして、応用分野も基礎分野も、国際的な競争に勝ち抜く活力を養いたい。
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