独行法反対首都圏ネットワーク

学長インタビュー 鹿児島大学田中弘允学長
2001.8.11.he-forum2380?

『文部科学 教育通信』第33号(2001年8月13日号), pp.4-9.

シリーズ・学長インタビュー
鹿児島大学田中弘允学長

「世界的に存在価値のある総合大学を目指して改革を進める」

――去る六月十四日に開かれた国立大学長会議で、文部科学省が経済財政諮問会議で示した「大学の構造改革の方針」について文部科学大臣および高等教育局長の説明がありました。構造改革の方針では、国立大学の再編・統合を大胆に進める、国立大学に民間的発想の経営手法を導入する、大学に第三者評価による競争原理を導入するといった大きな三つの柱が示されていますが、どのように受けとめておられるか伺います。
  国際競争力は大切だが国の文化や地域活性化など幅広い視野も必要
学長 この方針は、経済財政諮問会議に文部科学省から提出されたものでありますので全体として、日本経済の立場から大学を見たものです。日本の国の力を論ずる際には、国際産業競争力は大切ではありますが、それだけではなく、広く国の文化や人間の精神の問題、社会、人材育成、地域の活性化など広い視野から考えねばなりません。国立大学はこれらの各分野について教育・研究・社会貢献を通じて国の力を高めることに貢献できるものです。大学のあり方を極めて限られた視点からしか見ていないことは、極めて残念であります。
 具体的にみますと、六月十四日の学長会議でも発言しましたが、方針の第一に「国立大学の再編・統合を大胆に進める」すなわち県域を超えた大学・学部間の再編・統合などが示されています。これが政策として決定されることになれば、一つの県に最低一つの国立大学が存在するという最低線が崩れることになります。地方の国立大学は、地域の文化や産業、人材育成などの中心としてこの五十年間充分な成果をあげてきました。もし国立大学がなくなるとその地域に極めて重大な影響が生じるものと思います。
 新世紀となって、日本の国の力をどうやって高めていくかという問題が提起されているわけですが、地方を含めて国土全体が活性化しなければ日本の将来はないでしょう。大都市集中化と地方の過疎化を改善する必要があるのですが、「地方の活性化なくして日本の活性化なし」と考えています。
  国立大学の存在なくして地方の活性化なし
 地方国立大学は、地域のあらゆる面においてなくてはならない存在であることは間違いないと思います。
 もし国立大学がなくなればその地域に大きな影響が出るものと思います。「国立大学の存在なくして地方の活性化なし」と思っています。
 次に「国立大学に民間的発想の経営手法を取り入れる」については、利潤最大化という企業の論理をそのまま教育研究の手法に取り入れてよいのかという問題です。これは市場競争原理が世界を席巻する中で、教育面にも効率性が、多くの大学人が知らないうちに浸透して来ているように思います。教育・研究の本質に立ち返って大学のあり方を考えていかないと国の力は低下するばかりではないでしょうか。国立大学の法人化の問題は、文部科学省調査検討会議で検討されていますが、大学のあるべき姿を形づくる制度設計の最終段階にあります。行政改革から出された独立行政法人制度を大学改革に役立つ制度に変えなければなりませんが、高等教育・学術研究には最低限、自主・自律が守られなければなりません。文部科学大臣による中期目標の指示、中期計画の認可や
教育研究の達成度評価に基づく文部科学省からの予算配分という仕組みを残すようなことになれば、先進諸国に類をみない国辱的制度となるでしょう。大学人が正論を述べなければならない時でしょう。
 第三に「大学に第三者評価による競争原理を導入する」については、特にトップ三十大学に資金の重点配分がなされることが話題の中心になっています。大学には確かに競争原理が必要な部分もありますが、そうでない部分あるいは過度の競争によってむしろ発展が阻害される部分が非常に多いことを考慮に入れなければならないでしょう。
  教育者・研究者としてあるべき大学の姿を明確にすべきだ
 特に注目すべきは、ここでは国際産業競争力が論点の中心でありますが、これは大学の機能のごく一部に過ぎないということです。また、トップ三十を決めるにあたっては、始めから予算が重点的に配分されているため、すでに充分な教育研究体制を持っている大学と地方国立大学との間では競争の帰すうは明らかです。産業競争力という一つの評価尺度だけではなく、それぞれの大学がその機能に応じて活性化されることこそが国の力を高めることになるでありましょう。科学技術のみでなく、文化が極めて大切であり、中央だけでなく国の均衡ある発展が大切であり、そして大規模で国際競争力に力を入れている大学だけでなく人材育成、地域活性化から世界的研究まで行える地方国立大学も大切であります。
 私たち大学人は、この「遠山プラン」に対して、高等教育・学術研究の現場に責任を持つ教育者・研究者としてあるべき大学の姿を明確にすべきであると思います。(以下、略)

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