独行法反対首都圏ネットワーク


統合問題に求められる視点
2001.8.4 [he-forum 2351] 北陸先端科学技術大学院大学長の発言

北陸先端科学技術大学院大学長の発言 JAIST News 2001年8月号


http://www.jaist.ac.jp/~kouhou/2001/200108/president.html


統合問題に求められる視点


示村 悦二郎 


 今、世間は国立大学の統合問題の成り行きに注目しています。国立大学の統合再編の動きはこれまでにもいくつかあったのですが、ここに来て俄かに騒がしくなったのは、言うまでもなく6月に突然示されたいわゆる「遠山プラン」によって、いわば聖域なしに統合問題を検討するように指示されたことに端を発しています。
 国立大学の数が多すぎるという議論もこれまでに何度か交わされてきました。しかし、単に国立大学を減らせというのではなく、公私立大学も含めて、どのくらいが適正な規模なのかという議論は残念な事についぞ聞いた事がありません。そのような経過の中で、国立大学の数を減らすことを目的として動き始めた「遠山プラン」に対して各大学が対応しなくてはならないのは、まことに不幸な1頁をそれぞれの歴史に残すことになりはしないか、危惧されるところです。それも話の発端が教育政策の議論からではなく行政改革の見地から始まったために他ならないのです。
 勿論、数を減らすという表面的な事とは別に、意味のある統合もありえます。それは第一に統合によって学生がより広い学習の機会を得る場合です。例えば、単科あるいは単科に近い小規模の大学が相互に補完的な分野を持った大学と統合すれば、双方の学生にとって学習の機会が拡大し、学生が利益を受けることになります。この場合二つの大学が地理的に近ければ、一層統合のメリットが明確になるでしょうが、これからは進歩する情報通信技術を取り入れることによって遠隔授業がやりやすくなりますから、地理的な障害はある程度克服する事ができるでしょう。
 統合の第二の形は、同種類の大学同士の統合です。同分野あるいは近接する分野の教員が増える事によって、大学が厚みを増して、総合的に教育研究に力を発揮しやすくなります。この場合、学生にとっても従来と同じ分野でもより厚みのあるカリキュラムから受けるメリットはあります。ただし、この場合には単に二つを足して一つにするというのではなく、重複する分野について再編成をしないと、単に形だけ整える結果で終わってしまいます。
 いずれにしても、理念も目的も歴史も違う大学が一つになろうというのですから、簡単な事ではありません。殊に、特別な理念で作られた大学や極めて鮮明な特色ある教育や研究をやってきた大学が統合を考えるときには、それぞれの理念や特色を統合後にどう引き継いでいくのか、いかれるのか、あるいは軌道修正をしなくてはならないのか、非常に大きな問題が当事者にのしかかってきます。この問題はさし当たっての当事者である大学が最初に直面する困難であるばかりでなく、設置者である国の文教政策の根幹にも係わる問題ですから、国も共に苦しむ当事者になるのです。
 大学は単純に経済的観点で生き残りを争うものであってはなりません。大学には文化を継承し、育てそして次の時代に豊かな文化を引き継ぐ使命があります。大学で学生を育てる観点もここに求められなくてはなりません。であるからこそ、国が大学に一定の財政的責任を持つ理由も必要性もあるのです。統合の問題も、大学の本来の使命に照らして後世に悔いの残らない判断が求められます。

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