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科学技術予算―「社会」が軽視されている
2001.8.3 [he-forum 2343] 科学技術予算―「社会」が軽視されている(朝日新聞)

科学技術予算―「社会」が軽視されている

朝日新聞ニュース速報

 首相を議長とする政府の総合科学技術会議が、02年度の科学技術予算を「実益」に重点を置いて配分する方針を決めた。
 それでは困ると、大学共同利用機関の研究所長や博物館長らが、基礎研究を重視するよう首相に要望書を提出した。
 総合科学技術会議は今年1月に発足した。科学技術政策の司令塔として期待されており、予算の配分方針をあらかじめ明らかにするのは当然だろう。
 重点として示されたのは、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の4分野である。
 国の政策としていま必要か、明確な実現目標を設定できるか、研究成果を迅速に社会に還元できるか、といった観点から絞り込んだという。
 基礎研究の重視を求めた学者たちは、この方針を「当面の産業競争力の強化のための研究の総動員」と批判し、短期的な視野で予算配分を決めては科学技術の長期的な発展を阻害する、と主張した。
 産業競争力の強化こそ大事と考える政府・産業界。それとは無縁に、知的好奇心に導かれて研究するのが科学の本道だと考える学者たち。予算をどう配分するかが表舞台で議論されるようになって、両者の溝が改めて明らかになったといえよう。
 だが、いわゆる「基礎」と「応用」に研究を二分する考え方は、現実に合わなくなっている。基礎研究が応用に直結する分野が増えてきているからである。
 いまや「知識のための科学」「産業のための科学」だけを考えるのではなく、「社会のための科学」というあり方を大きな柱とすべき時期のように思う。
 元国立衛生試験所長の内山充さんが十数年前に「科学技術の進歩を人の健康や生活のために調整し活用する科学」として「レギュラトリー(規制、調整)サイエンス」という言葉を提唱した。同じころに、欧米でも同様の考えで新しい科学のあり方を主張する研究者が出てきた。
 たとえば、地球温暖化問題や環境ホルモンなどは、従来の研究手法では対応しきれないが、社会は対応を迫られている。
 科学だけでは答えの出ない、それでいて科学抜きで答えを出してはならない、こうした課題は増える一方だ。それらには、社会科学なども取り込み、新たな体系を生み出す必要がある。
 そんな研究にこそ、政府が積極的に資金を投じていくべきだろう。
 今年3月に決まった科学技術基本計画にも「科学技術が社会に与える影響を解析、評価し、対応していく新しい科学技術の領域を拓(ひら)いていく必要がある」というくだりがある。必要性を認識しているなら、そうした領域が育つように手を打つべきだ。
 科学者には、文化としての科学を育てると同時に、社会が求める新しい領域に挑戦していく意欲を高めてほしいと思う。
[2001-08-03-00:16]


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