独行法反対首都圏ネットワーク


千葉大学文学部教授会の見解
2001.8.2 [he-forum 2342] 千葉大学文学部の見解.

「経済改革」に従属した「大学の構造改革」は日本の大学を危うくする


―国立大学の独立行政法人化に改めて反対を表明し、長期的な見通しにたった着実な政策の提言を要求する―


2001年7月26日 千葉大学文学部教授会


http://www.l.chiba-u.ac.jp/jp/communique01jul26.html

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<全文貼付け>

「経済改革」に従属した「大学の構造改革」は日本の大学を危うくする


―国立大学の独立行政法人化に改めて反対を表明し、長期的な見通しにたった着実な政策の提言を要求する―


2001年7月26日 千葉大学文学部教授会


 千葉大学文学部教授会は、1999年7月22日に「国立大学の独立行政法人化に反対する」声明を発して以来、同法人化が日本の高等教育の将来に憂慮すべき事態を招く可能性を強調し、翌2000年6月8日付で国立大学協会への意見書を提出するなど、関係各機関への働きかけを進めてきた。私たちはそのなかで、大学を一般的な行政の業務と同一視することの不適切さや、大学自治への外部からの統制をはじめ、国立大学の独立行政法人化に関して数多くの疑問、予測される問題点を指摘してきた(以上詳しくは千葉大学文学部ホームページを参照されたい)。

 2001年6月11日文部科学省は「大学(国立大学)の構造改革の方針」(いわゆる「遠山プラン」)を発表し、27日には「国立大学等独立行政法人化調査検討会議中間報告事務局原案」(「中間報告のとりまとめの方向(案)」)をまとめた。

 「大学(国立大学)の構造改革の方針」は、もともと経済財政諮問会議への報告としてごく短期間に作成されたものであり、限定された視点しか持っていない。この方針は「大学を起点とする日本経済活性化のための構造改革プラン」という表現が示すように、日本の高等教育と大学システムをもっぱら「経済改革」に従属させるものに他ならない。「スクラップ・アンド・ビルドで活性化」、「新しい『国立大学法人』に早期移行」、「国公私『トップ30』を世界最高水準に育成」の三つのスローガンは、全てそうした文脈で語られている。

 「大学(国立大学)の構造改革の方針」を強く反映した、27日付の「中間報告のとりまとめの方向(案)」は、「検討の前提」として「大学改革の一環としての法人化」「大学としての自主性・自律性の尊重」をうたいつつも、従来から私たちが指摘してきた疑問や問題点に応えるものとは言い難い。ここで掲げられている事項のうち「国民や社会への説明責任の重視」や「大学運営全般にわたる透明性の確保と情報公開の徹底」を推進することには私たちは積極的に応じていきたい。しかし他方で、中期目標への主務大臣の強力な関与や、大学の直接的な運営に「相当数の」外部者を含める点、大学構成員の意向を反映しにくい学長選考方式、教員人事に関する教育公務員特例法の事実上の棚上げなど、全般的な統制の強まりと、さらに、運営費交付金算出の不明確さ、学生納付金の増大と差別化など、総じて大学の「自主性・自律性」を脅かす要素が数多く存在しているのである。

 しかも文部科学省は、自らが設定した「スケジュール」に従い、「大学間の統合・再編の推進」を図っている。しかしその「スケジュール」は、2001年12月までに、各大学が「再編・統合」のプランを作り、2002年度ないし2003年度の概算要求で「再編・統合」の実施要求を行うという、あまりに拙速なものである。このような「スケジュール」で、日本社会の共有財産である国立大学についての理念的な議論をしないままに、国立大学を「スクラップ・アンド・ビルド」「再編・統合」することは、文部科学省の責任放棄であると言わざるを得ない。

 千葉大学では、6月27日磯野学長より急展開する大学情勢についての所感が「学長メッセージ」として発表された。事態が激しく動くことに危機感をもち、大学としてこれへの対応を強めようとする点でその姿勢は私たちも共有するが、この中で、「2. 今年中に千葉大学の改革案を作らねばならない」「3. 全学的な規模で千葉大学改革のうねりを起こそう」という方針は、第一に文部科学省の「スケジュール」をそのまま受容している点で、第二にともかく「改革」をという主張は、「大学(国立大学)の構造改革の方針」を批判的に検討することなくそのまま受け入れることになっている点で、問題を残していると思われる。

 現在、必要とされているのは、経済改革の視点しか持たない「大学(国立大学)の構造改革」と拙速な「スケジュール」によるその実施などではなく、日本社会、東アジア、そして世界の将来を見据え、長期的な見通しにたった着実な大学ならびに高等教育政策であり、学術政策である。

 6月11日付の千葉大学理学部教授会見解や同8日付の全国国立大学農学系学部長会議見解が示すように、高等教育と大学制度の根幹に関わる問題がいま問われている。また、3月に閣議決定された科学技術基本計画をもとにして、内閣府総合科学技術会議が決定した「科学技術に関する資源配分方針」(6月11日付)に対し、即日遺伝学研究所など14の国立研究所長が共同で首相に提出した要望書が述べるように、産業競争力の強化と経済活性化に従属させた「資源配分方針」では、「わが国の『科学と文化』および『科学と技術』の土壌を損ない、回復できない傷を残すこと」になりかねないのである。

 私たちは、短期的経済効率では計ることのできない基礎的・根底的研究こそが社会の長期的発展に資するとの視点から、「経済改革」に従属させられた「大学の構造改革」はもとより、そういう視点を欠く国立大学の独立行政法人化に改めて反対を表明するとともに、関係各機関に長期的な見通しにたった着実な政策の提言を要求するものである。

 そして私たち自身も、広く社会から付託された責務を自覚して、この問題に対処していくことを改めて表明する。



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