遠山プラン 大学の視点から練り直せ
2001.7.30 [he-forum 2319] 毎日新聞社説 07/29.
『毎日新聞』社説2001年7月29日付
遠山プラン 大学の視点から練り直せ
「国立大学の数の大幅な削減を目指す」「国公私の『トッブ30』大学に資金を重点配分し、世界最高水準に育成する」
こんなドラスチックな目標を掲げた文部科学省の「大学(国立大学)の構造改革の方針」が、波紋を広げている。
「削減」対象となりかねない地方の国立大学は、戦々恐々。「トップ30」に入るか否かをめぐる思惑もからんで、「後は切り捨てになるのか」との戸惑いも広がる。まさに「深刻な問題」(長尾真・国立大学協会会長)だ。
遠山(敦子文部科学相)プランと銘打たれたこの方針は、(1)国立大学の再編・統合を大胆に進め、地方移管等も検討(2)国立大学に民間的発想の経営手法を導入、新しい「国立大学法人」に早期以降(3)第三者評価による競争原理を導入、評価結果に応じて資金を重点配分―の3点を柱とする。
基本的には、従来の路線の延長線上にある。「スクラップ・アンド・ビルド」「トップ30」など、刺激的な表現が目につくが、小泉純一郎首相のいう国立大学民営化に踏み出したわけではない。首相の聖域なき構造改革に合わせて、わさびを利かした方針を打ち出したということだろう。
方向として間違っているわけではない。しかし、「活力に富み国際競争力のある国立大学づくりの一環として」と副題のついたこのブランを、大学の将来像、グランドデザインとしてみるならば、問題が多い。何より唐突であり、強
圧的であり、そして財政経済面の視点に偏りすぎている。
遠山プランは、小泉首相の構造改革提言を受け、経済財政諮問会議に向けて、急きょ策定された。21世紀の高等教育をどうするか、との問題意識からではなく、外部から強いられる形で出されたのである。国立大学の独立行政法人化論議と同じテツを踏んでいると言わざるを得ない。
これまでの政策に対する評価、反省のないまま、大学側にのみ負担を強いる文科省の姿勢も気になる。もちろん大学改革は急務であり、また大学側に緊張感が欠けているのも確かだが、がんじがらめに大学を縛ってきた文科省の責任も大きい。国内総生産に対する高等教育への公財政支出が、欧米の半分程度という現実に目をつぶったまま、トップ30に重点配分といっても説得力に欠ける。
さらに、経済財政諮問会議向けとはいえ、財政面での改革偏重の色彩が強いことが、プランを薄っぺらなものしている。
大学は、教育研究機関であり、地域の学術文化の拠点でもある。特殊法人などと同列には論じられない。民営化すればいいというものではなく、また、国が管理、統括しきれるものでもない。重要なのは、大学の自主性、自律性であり、それが生かされ、積み上げられてはじめて、21世紀の大学の展望が開け、「活力に富み国際競争力のある大学」も可能になる。
文部科学省は、そうした視点からプランを練り直し、大学の将来像を明示すべきである。
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