独行法反対首都圏ネットワーク


すそ野あっての高峰
2001. 7.24 [he-forum 2303] 東京新聞社説07/23

『東京新聞』社説2001年7月23日付


すそ野あっての高峰


 東大を頂点とする日本の堅固な教育社会構造。その山頂をさらに高くしようと、文部科学省。しかし、これを支えている広大なすそ野のことをお忘れなく。
 「暴走族をやっていたような少年が、ある日突然改心して、おれも大学へ行ってみようかなと思ったとき彼らのイメージに浮かぶ大学」と、十余年前に出た「東京の私立大学」という本の最初に紹介された大学がありました。
 それは日本大学で、本の腰巻きには「OBを怒らせる本」と書いてありました。
 日大法学部OBの故・川手泰二さん(名古屋放送社長−会長)は、母校について「日大ってのはキミ、ひと口で言やあ、チャンチキオケサだよ」と。
 つまり、路地裏の居酒屋的な、庶民性、大衆性の濃い、あまり敷居の高くない大学という意味で、そう表現したのだと思います。
平社員から社長は至難
 日本大学にはまた別の顔があります。企業概要データベース(COSMOS2)に収録されている全国約百十二万七千人の社長について、毎年、帝国データバンクが調べているのですが、出身大学では、日大が一位なのです。
 それも二位以下をかなり引き離してのトップ。ちなみに昨年の場合、(1)日大二万九千二百九十二人(2)早大一万七千八百六人(3)慶応(4)明治(5)中央(6)法政(7)同志社(8)関西(9)立教(10)近畿。東大は十三位でした。
 うち女性社長だけの順位でみますと、(1)日大二百二十二人(2)日本女子大百九十九人(3)青山学院(4)慶応(5)共立女子大(6)外国の大学(7)早大(8)明治(9)学習院(10)聖心女子大。
 まあ、会社といっても、ピンからキリまで多彩。東大出の社長数は十三位の五千人とはいえ、有名企業が多いのです。
 それも、社員から重役に、そして社長になった人が多く、出世競争に勝ち抜いた実力者。このことは十八位の京大、三十三位の北海道大、三十六位の東北大などの出身社長にもいえることでしょう。
日本は堅固なシステム
 日大の場合、「明日があるさ」の歌詞にある「会社を起こしたやつが居る」の例がかなりあるのです。
 自分がつくった会社の社長、つまり、創業社長。ヒラ社員から社長にまで上りつめるのは、確率からいっても大変なことですが、自ら企業を立ち上げることも、これまた容易ではありません。
 そのことに関連してですが、日本は、ベンチャー企業が生まれにくく、育ちにくい三つの国の一つと、米国ではみているそうです。
 三つの国とは、(1)日本(2)シンガポール(3)ドイツで、日本はうれしくないトップ。これらの国は堅固な社会システムが出来上がっていて、長野県知事の田中康夫さん流に言うと「しなやかさが足りない」んですね。とにかく柔軟ではない。
 一流大学を出て、一流企業に就職することが最善。そういう社会ではいったんシステムの中に入ったらもう冒険をしようという気持ちは起きなくなります。
 二十一世紀は、大競争の時代といわれ、競争原理の導入を、小泉純一郎内閣の構造改革も掲げていますが、この場合の競争は二十世紀型レースではありません。
 新しいことに挑戦し、創造していくゲーム。だとすれば、ベンチャー企業が生まれにくい、育ちにくいシステムは変革しなければならないわけですが、文部科学省がこのほどまとめた「大学の構造改革の方針」は、そういった時代の要請にこたえるものなのかどうか。
 国立、公立、私立を含めて、上位三十校に対して予算を重点的に配分し、世界最高水準に育成するというのです。
 選抜のモノサシは研究業績ということになるのでしょうが、大学は研究機関であると同時に、人材を養成する教育機関でもあるわけで、その場合、研究者・学者の養成と企業人の養成とは、違うと思います。
 上位三十校に入る大学はどこか。関心を持っている人に聞いてみますと、「まず、旧帝国大学の後身、それから…」と、国立大学をあげる人が多いようです。
 戦後の学制改革は、真理探究のドイツ型から実用主義教育の米国型になったはずでしたが、大学の場合、医大、教育大、商船大などは別として、旧制もどきの新制でした。
職業教育も重く見たい
 しかも、かつては職業人としての即戦力養成に優れた実績を誇った旧制の専門学校まで、その個性や特色を失った旧制大学もどきの新制大学になってしまったのです。
 官僚のキャリア組とノンキャリア組みたいに、六百校近い国、公、私立大学を、三十のエリート校と、そうでないその他大勢校に分けることが、これからの日本にとってプラスなのかどうか疑問です。

目次に戻る

東職ホームページに戻る