緊急要する三つの課題 まず財源、若者の社会参加の機会を奪うな.
2001.7.20 [he-forum 2295] 東京新聞07/19夕刊.
『東京新聞』2001年7月19日付夕刊
佐藤学(東京大学大学院教育学研究科教授)
真の改革とは 2 教育
緊急要する三つの課題 まず財源、若者の社会参加の機会を奪うな
「米百俵」の逸話は、未来を築く教育を最優先する政治の良識を意味していたが、小泉首相の解釈によって、現在の痛みを我慢する物語にすり替えられてしまった。事実、「構造改革」(規制緩和と地方分権化)の大合唱のもとで、教育の民主主義と公共性の危機は深まるばかりである。今すぐ着手すべき緊急の政策を三つ挙げておきたい。
第一は、学校と教師の創意を促す教育財源の確保である。現実には、地方分権化によって学校は硬直し存亡の危機に直面している。その要因は、都道府県でも市町村でも教育費が大幅に削減されている点にある。
(中略)
緊急に改革すべき第二の課題は、子どもと若者の生存権と学ぶ権利を保障することである。子どもの保護と養育の装置である家庭の崩壊は加速度的である。
(中略)
若者の最大の危機は若年労働市場の解体にある。
(中略)
社会参加の機会の喪失は、子どもと若者の未来への希望を奪っている。
(中略)
第三の緊急課題は、国立大学の独立行政法人化に対する財政基盤の充実である。国立大学の法人化は、国家公務員の三割削減を一手に担う装置として断行されている。実際、国立大学の法人化によって国家公務員の二割近くを削減することができる。ここでも教育は「構造改革」の犠牲の標的である。
しかし、日本の大学は、もともと民間に依存するかたちで発展してきた。欧米諸国を見ても、大学は国の財源に依存することなしに維持することは不可能である。大学の法人化(民営化)と競争原理の導入は、地方の国立大学を存続の危機に陥れ、一世紀以上にわたって蓄積してきた学問の資源と装置を崩壊させてしまう危険がある。法人化にあたって国立大学の財政基盤を確保し、各大学の自主的な改革を推進する政策は急務である。
◆ ◆
「聖域なき構造改革」と言われるが、その実態は、もっとも「聖域」となる
べき子どもと若者の未来と教育を最大の犠牲とする改革として進行している。
その他、前回の参院選で自民党以外のすべての政党が掲げた三十人学級を実現
する政策、国際的な孤立をまねく「歴史教科書問題」の解決など、国際的な規
準に照らしてお粗末な教育の現状を克服する政策も急務である。
未来の日本に希望をつなぐとすれば、子どもや若者に学びの意味を提示し、
教師たちの献身的な努力を励ます改革が必要であり、教育を最優先に掲げた政
策を検討すべきである。それ以外に日本社会を再生させる道はない。
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