国立大学の設置形態と労使関係(下)
2001.7.19 茨城大職組からの投稿=深谷先生原稿.
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独行政反対首都圏ネット事務局です。
茨城大学教職員組合から深谷先生の論文の投稿がありましたので紹介いたします。
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『労働法律旬報』一五〇五号(二〇〇一年
『労働法律旬報』一五〇五号(二〇〇一年六月一〇日)
国立大学の設置形態と労使関係(下)
●茨城大学
●茨城大学 深谷 信夫
目次
は じめに
一 設置形態問題と労使関係問題
二 特定独立行政法人と労使関係(以下、本号)
三 国立大学教職員組合の課題
おわりに
二 特定独立行政法人と労使関係
労使関係構造は一八〇度の転換を見るといったが、そのことの意味を、具体的に確
認していこう。ここでは、国営企業等労働関係法の適用を受ける特定独立行政法人に おける労使関係をモデルとして検討を進めていく。なぜモデルとなるのか。通則法に
よって身分関係は国家公務員型とされる特定独立行政法人は、その労使関係を国営企 業等労働関係法によって規律されているからであり、国立大学の設置形態変更後の労
働関係も、身分関係を国家公務員型とする特定独立行政法人が想定されているからで ある。
なお、以下で述べることは、すでに、いくつかの論考*1のなかで明らかにされて いる。ぜひそれらを参照していただきたい。
1 労使関係構造の基本的な変化
@変化の基本的な内容
憲法二七条と二八条を頂点とする現代日本の労働法制は、その出発点においては、
官民を問わずすべての労働者を対象として構想されていた。しかし、周知のように、 マッカーサー書簡と政令二〇一号を契機として、憲法の基本権保障を否定する公務員
労働法制が制定され、公務員労働者は、その労働基本権を剥奪された。公務員労働法 制は、@職員団体の登録制に象徴される団結権の否認、A団体交渉とはことなる「交
渉」制度設置による団体交渉権の否認、B労働協約締結権の否認、C争議権の否認を 内容としている。憲法二八条の実質的な否定を内容とする法律制度である。
国営企業等労働関係法の適用下に移行するということは、これらの制約が争議権禁
止規定を除いて消滅し、労働組合が、文字通りの労働組合として、法律制度上の位置 を与えられことになる。
その変化の第一は、「通則法」により、給与法定主義と勤務条件についての人事
その変化の第一は、「通則法」により、給与法定主義と勤務条件についての人事院委 任規定の排除を確認したことである(通則法第五九条)。
第二は、労働組合法・労働関係調整法・労働基準法・船員法・じん肺法・労働安全
衛生法などの労働法規が、特定独立行政法人の職員に原則的に適用されることである (「国営企業等労働関係法」第四〇条による国公法附則第一六条の適用除外)。全面
的にといわずに、原則的にといったのは、適用下に入る「国営企業等労働関係法」が 争議権禁止規定を内容としているからである。
労働法等が適用されるに至る法規定の関係を確認しておこう。@まず、「独立行政
法人通則法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」(以下、「整備法」という) により改定された「国営企業等労働関係法」が特定独立行政法人の労働関係をその適
用下におく。Aそうすると、特定独立法人の労働関係については、同法が適用される。 同法四〇条には、国公法附則一六条を適用除外とすると規定されている。B国公法附
則一六条には、国家公務員の一般職への労働組合法・労働関係調整法・労働基準法・ 船員法・じん肺法・労働安全衛生法などの労働法規の適用除外が規定されている。C
労働法規を適用除外とする規定を適用除外とすることによって、特定独立行政法人の 職員に労働法規が適用されることとなる。
第三は、国公法の職員団体についての規定が適用除外となり、団結権・団体交渉権・
労働協約締結権が保障されたことである(「国営企業等労働関係法」第四〇条による 国公法第一〇八条の二から第一〇八条の七までの適用除外)。結果として、労使自治・
労働協約自治が承認される。しかし、特定独立行政法人には、仲裁裁定の無条件実施 義務が課せられることとなった。「整備法」は、「国営企業等労働関係法」第三五条
に第二項を新設した。同項は、「特定独立行政法人とその職員との間に発生した紛争 に係る委員会の裁定に対しては、当事者は、双方とも最終決定としてこれに服従しな
ければならず、また、政府は、特定独立行政法人が当該裁定を実施した結果、その事 務及び事業の実施に著しい支障が生ずることのないように、できる限り努力しなけれ
ばならない。」と規定する。
A変化への評価
この変化をどのように評価するか。評価が分かれるであろう要因は、二つある。一
つは、国営企業等労働関係法が争議禁止規定を含んでいることである。争議権禁止法 制が存続するということをもって、本質的な変化の意味はないと評価するか。団結権・
団体行動権・労働協約締結権の保障をもって、一歩前進と積極的に評価するか。二つ の評価があり得る。私は一歩前進と評価したい。
二つには、全国一律の労働条件を保障した人事院勧告体制がなくなることである。
しかも、独立行政法人の運営についての規制が加わると、労働組合の主体的な取り組 みと効果的な成果が上げられなければ、リストラと雇用調整のなかで民間企業労働者
が受けている権利の剥奪と労働条件の切り下げと同様の環境のなかにおかれることに なる。このような現実になりうる可能性をもって、制度改悪と評価し、人勧体制への
回帰を要求すべきということになるのか。それは、あまりにも労働者・労働組合の主 体性を放棄し、その可能性を否定する姿勢というべきではないか。突き詰めて考えれ
ば、憲法の労働基本権保障の基本を否定するに等しいといえよう。しかし、法制度に よる庇護から離脱し、官民を越えた連帯への道が拓け、真価が問われるという意味で、
労働者と労働組合が主体となるのである。これは、本質的な意味で、前進といえよう。 繰り返すが、もとより、現実的には、バラ色の展望が拓けているわけではないのであ
るが。
2 労働条件とその決定システムの変化
@労働条件規制の内容
ここでは、「通則法」と「整備法」によって、特定独立行政法人の職員(ここでは
「役員」は検討から除く)の労働条件が、どのような制度枠組みのなかに置かれるよ うになったのか、を確認しておこう。
@職員の身分については、「通則法」第五一条は「特定独立行政法人の役員及び職
員は、国家公務員とする」と規定し、特定独立行政法人の職員が国家公務員であるこ とを明示する。
Aその採用及び昇進等の任用については、国公法第三三条から第六〇条までの規定
が適用される。法人の長には、職員を採用する独自の権限はない。しかし、法人の長 の判断によって採用することのできる範囲を拡大することが予定されている(中央省
庁再編推進本部「中央省庁等改革の推進に関する方針」Vの二五)。
B職員の給与については、「通則法」第五九条によって、国公法の給与に関する規
定(第一八条、第二八条、第二九条から第三二条まで、第六二条から第七〇条まで、 第七二条二項並びに第一〇六条)と、「一般職の職員の給与に関する法律」などが適
用除外とされた。したがって、職員の給与は、給与法定主義の原則(国公法六三条) から離脱することとなる。
ただし、「通則法」第五七条は、職員の給与について、@給与の根本基準について
の規制(通則法五七条一項「特定独立行政法人の職員の給与は、その職務の内容と責 任に応ずるものであり、かつ、職員が発揮した能率が考慮されるものでなければなら
ない」)、A給与基準の作成手続についての規制(同条二項「特定独立行政法人は、 その職員の給与の支給の基準を定め、これを主務大臣に届け出るとともに、公表しな
ければならない。これを変更したときも、同様とする。」)、B支給基準についての 規制(同条三項は、給与法を適用される国家公務員、民間企業の従業員の給与、当該
特定独立行政法人の業務の実績及び中期計画の人件費の見積もりその他の事情を考慮 して定められなければならないと規定)を定める。実質的には、給与法定主義と人事
院勧告体制を維持しようとする意図がみられる。しかし、それは上限規制であって、 下限規制ではないことに注意を要する。高給過ぎるのは困る、世間並みにせよという
ことである。
C労働時間などその他の労働条件については、「通則法」第五九条一項が、国公法
一〇六条(勤務条件についての人事院規則への委任規定)と、「一般職の職員の勤務 時間、休暇等に関する法律」との適用除外を規定する。
しかし、労働時間などについての労働条件を決定するにあたっての規制を加える。
すなわち、「通則法」第五八条は、@)職員の勤務時間等についての規程の作成を規 定する(同条第一項「特定独立行政法人は、その職員の勤務時間、休憩、休日及び休
暇について規定を定め、これを主務大臣に届け出るとともに、公表しなければならな い。これを変更したときも、同様とする。」)。A)その基準は「一般職の職員の勤
務時間、休暇等に関する法律」の適用を受ける国家公務員の勤務条件その他の事情を 考慮しなければならないと同条第二項に規定する。
D注意しなければならないのは、「通則法」第七一条が、許可・承認義務違反や、
届出違反と虚偽の届出、そして公表義務違反と虚偽の公表について、二〇万円以下の 過料に処するとの罰則規定を設けていることである。行政の労働条件決定への過度の
介入を強制する間接的な根拠となるといえよう。
E以上のような特殊な制度枠組みが存在するとはいえ、原則的には、労働基準法を
はじめとする労働法が適用されることとなる。法人の長は、労働基準法などが規定す る使用者の義務を履行しなければならないことになる。
なお、公務員労働法制のなかで、国家公務員災害補償法、国家公務員退職手当法、
国家公務員共済組合法、国家公務員宿舎法は、特定独立行政法人の労働関係に引き続 き適用される*2。
A労働条件決定の仕組み
労働法の適用下にはいるということは、労働条件が、@まず、国家が制定する法律
としての労働基準法や労働組合法などの労働法、Aつぎに、労働基準法によって労働 保護法上の位置を与えられ、使用者に作成が義務づけられた就業規則、Bそして、法
規範的効力を承認された労働組合と使用者の合意としての労働協約、C最後に、使用 者と労働者との一対一の関係で結ばれる労働契約、というレベルも内容も異なる四つ
の規範によって規律されることを意味する。これらが、社会的な経済的な弱者である 労働者に、労働条件の集団的決定による実質的な労使対等の実現を保障しているので
ある。
その四者の具体的な関係を確認しておこう。@まず、労働基準法などの労働保護法
が最低労働条件を保障する。労基法一三条は、「この法律で定める基準に達しない労 働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効
となった部分は、この法律で定める基準による。」と規定し、労働契約を労働法の水 準にまで強行的に引き上げる。
Aつぎに、使用者に就業規則の作成を義務づけ(労基法第八九条)、過半数代表者
の意見聴取を踏んでの作成手続を定め(同九〇条)、その就業規則に労働契約に対す る法的拘束力を認める(同九三条)。すなわち、労基法九三条は、「就業規則で定め
る基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。こ の場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」と規定する。
敗戦直後の労働組合が組織化されていない時代状況のなかで、就業規則に法規範的な 効力を認めたことは、機能的には、労働組合による集団的労働条件規制への過渡的な
労働者保護を担保するものと評価できる。そうした就業規則に対しては労基法第九二 条が、法律と労働協約の関係について、「就業規則は、法令又は当該事業場について
適用される労働協約に反してはならない。」と規定し、就業規則の中間的な性格を確 認する。
Bそして、労使合意の結実である労働協約に労働条件決定の主導的な位置を与える。
当然にも、使用者が最終的には一方的に作成・変更できる就業規則よりも、労働協約 が規範的に優位する(労基法九二条)。さらに、労働契約に対しても強い拘束力を承
認する。すなわち、労組法第一六条は、「労働協約に定める労働条件その他の労働者 の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無
効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定めがない部分について も、同様とする。」と規定し、労働契約は労働協約に一体化される。
Cこうした労働条件内容を引き上げるシステムのなかで、労働契約が位置づけられ
る。もとより、どのような使用者と労働契約を締結するかなどの契約自由の原理は、 労働者の手のなかにある。
B労働条件決定と労使協定・労使委員会決議
労働基準法などは、法律制度の選択と導入について、労使協定の締結と労使委員会 の決議という二つの方式を採用している。
●労使協定方式
労使協定方式とは、使用者が「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合
がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合 においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定」を締結するということ
である。ここで、法律問題の第一は、「当該事業場」という事業場単位という原則で ある。いくつかの事業場をもつ企業は、その事業場ごとに労使協定を締結しなければ
ならない。第二は、過半数労働組合というのは事業場単位に過半数を組織しているか どうかが判断されることである。企業総体では多数組合であっても当該事業場単位で
は過半数組合でない場合や、逆に、企業総体では少数組合でも当該事業場では過半数 組合である場合、さまざまであろう。第三は、過半数代表者の資格要件である。当該
事業場に、労働組合がない場合やあっても過半数労働組合でない場合は、過半数代表 者を選出して、労使協定を締結することになる。問題は、過半数代表者の資格要件で
ある。それは、労基法施行規則六条の二は、過半数代表者はつぎのいずれにも該当す る者でなければならない、と規定する。@労働基準法第四一条第二号に規定する監督
又は管理の地位にある者でないこと。A法に規定する協定等をする者を選出すること を明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出された者であ
ること。わかりやすく表現すれば、管理職でなく、選挙で選出された労働者というこ とである。なお、同条第三項は、使用者の過半数代表者への不利益取扱いの禁止を規
定する。
また、労働安全衛生法による安全・衛生委員会(同法第一七条・第一八条)の設置 にも、過半数代表者による委員の推薦が必要である。
●労使協定の対象制度
この労使協定は、労働基準法に限定しても、貯蓄金の管理(労基法第一八条第二項)
、賃金控除(第二四条第一項ただし書)、一ヶ月単位の変形労働時間制度(第三二条 の二第一項)、フレックスタイム制(第三二条の三)、一年単位の変形労働時間制
(第三二条の四第一項及び第二項)、一週間単位の非定型的変形労働時間制(第三二 条の五)、休憩時間一斉付与の例外(第三四条第二項ただし書)、時間外休日労働
(第三六条第一項)、事業場外労働の見なし労働時間(第三八条の二第二項)、専門 業務型裁量労働制(第三八条の三第一項)、計画年休制度(第三九条第五項)、年次
有給休暇の賃金(第三九条第六項ただし書)、就業規則の作成(第九〇条第一項)と いう重要な制度に関連して、規定されている。
●労使委員会方式
企画業務型裁量労働制(第三八条の四)導入にあたって、労働基準法に規定された
制度である。労使委員会の半数の労働者代表委員は、@労使協定方式で説明した過半 数代表者が指名した者を、A投票による選挙(施行規則第六六条の二により読み替え
て適用する第二四条の二の四第二項)によって、B当該事業場の全労働者の過半数の 信任をえなければんらない。また、この委員会は、全員の合意による決議によって、
労使協定に代えることができる(第三八条の四第五項)。
労働者・労働組合は、こうした労使協定と労使委員会の仕組みを正確に理解しなけ
ればならない。とくに、少数組合である場合には、これらの制度を活用する方法に習 熟しなければならない。
3 重層的労働条件規制の課題
こうした労働法の構造と労働条件決定の仕組みについては、二つの問題を提起して
おく。第一は、最低労働条件保障の現実という問題であり、第二は、労使自治・労働 協約秩序の脆弱性という問題である。
@最低労働条件保障の現実
労働基準法などが設定する最低労働条件保障は、その範囲は狭く、その水準は低く、
実態的保障に欠けるという弱点をもっている。例えば、狭いとは、配転などの人事に 関する規制がないことや、解雇などの労働契約の終了についての充分な規定を欠くこ
と、低いとは、最低賃金法が保障する最低賃金は月給でいえば12万円余にすぎない こと、実態的保障に欠けるとは、一日23時間労働や連続365日労働も可能となる
労働時間規制でしかすぎないこと、である。
A労使自治・労働協約秩序の脆弱性
最低労働条件保障の現実は、その最低保障を上回る自主的な労働条件設定の必要性
と重要性を提起する。しかし、労働協約を労働条件決定のチャンピオンと位置づける 労働法の構造は、さまざまな不安定要因を内包している。
@まず、この労働協約の法的地位は、自動的に、提供されるわけではない。憲法二
八条と労組法七条二号とによって、使用者は、労働組合との団体交渉を義務づけられ ている。さらに、誠実に交渉すべきことも義務づけられている。とはいえ、労働協約
を締結すべき義務はない。しかも、国営企業等労働関係法は、争議権を剥奪する。そ うすると、労働組合には、使用者に労働協約の締結を迫る最終的な手段がないことに
なる。同法は、あっせん・調停・仲裁などの紛争調停の制度を提供するが、争議権の 代替手段とはいえないであろう。
Aまた他方では、労働協約の基盤は、きわめて脆弱である。労組法第15条三項・
四項は、一方当事者の90日前の予告によって、労働協約を解約することができると 規定する。戦後の経済復興期に、使用者の労使関係における主導権を確保するために、
政策的に導入された規定である。要するに、使用者の一方的な意思決定によって、無 協約状態が現出できるのである。ここでもまた、争議権の剥奪状態は、使用者が争議
行為による反撃を想定する必要もなく、協約破棄を実行できるのである。もとより、 労働協約の余後効論などの法理論はそれに対抗するが、有効な通説を形成しているわ
けではない。
Bさらに、労働協約の締結組合が労働者の過半数を組織できていない少数組合であ
る場合には、使用者は、過半数代表者との労使協定方式をも援用することによって、 就業規則による一方的な労働条件規制を実施できる。集団的な労働条件決定への過渡
的な中間形態として意義づけられた就業規則が、企業内における最高規範としての地 位をえることになるのである。
実践的には、こうした脆弱性を、運動がどう克服するかである。使用者の一方的な
労働条件変更が不可能となる重層的な労働条件規制の構造が、検討されなければなら ないであろう。
三 国立大学教職員組合の課題
それでは、国家公務員法から国営企業等労働関係法への労働関係の変容のなかで、
国立大学の労働組合が主導的な位置を維持するためには、どのような課題が提起され てくることになるのか。大きく三つの課題が、存在する。第一に、労働組合の組織と
活動に関わる課題である。第二に、労使関係構造に関わる課題である。第三に、労働 条件設定に関わる課題である。これらは、実践的な意味での順番をつけているわけで
はない。思考の順路としては逆であろう。要求があり、それの実現方法があり、その ための組織を造る、ということであるが、あえてここでは、問題の深さを考えるため
に、逆順で記述する。
1 労働組合の組織と構造
@ 過半数組合の絶対的必要性
国公法体制のもとでは、一方では、労働組合権が否認され、他方では、勤務条件の
法律決定主義が実施されていた。そのため、労働条件決定の過程で、過半数組織率を 背景とした労働組合の団結力が、本格的に問われることはなかった。しかし、国公法
体制から離脱して、労働基準法と労働組合法などの労働法の適用のもとに置かれると き、労働組合が過半数組合であるかどうかは決定的な意義をもってくる。労働協約を
中核・中心とした労使関係と労働条件を創れるのかどうか。
さらに、労働協約秩序の脆弱性の問題として指摘したが、たとえ、使用者(法人の
長)が、労働協約を破棄して労使関係の主導権を握ろうとしても、労働組合が過半数 組合であれば、就業規則の作成や労使協定の締結について、その過半数組合を相手と
しなければならなくなるからである。
労働組合を過半数組合として組織化しきれるかどうかが、特定独立行政法人化にお
ける労働組合に問われている最大の課題である。より実践的には、後に論ずる労使関 係構造の問題とも関連して、大学総体では少数組合であっても、いずれかの職場では
過半数組合となるような組合組織の造り方が課題となるのである。
A 労働組合の組織論
日本の労働組合の弱点の一つは、労働組合の組織形態をめぐって存在する。圧倒的
に多くの労働組合が、企業別労働組合という組織形態をとっている。その企業別労働 組合が、日本的企業社会が形成される要因の一つとなっている。
国立大学の教職員組合は、ひとつ一つの国立大学を組織範囲として、組織されてい
る。このまま推移すれば、文字通りの企業別組合へと移行することになろう。民間企 業の労働組合が歩んできたと同じ道を歩むことになる。大学の生き残りという企業間
競争のなかで、切断された狭い空間のなかで、ストライキ権を奪われた攻防戦を、個 別に強いられることになるのではないだろうか。それでいいのだろうか。どのような
大学を創りあげるのか、この問いの実践的な回答は、どのような労働組合を組織する のかという問いとなって、我われ自身に返ってくるのである。
具体的な組織論的課題の第一は、企業別組合か産業別組合か、という論点をめぐっ
てである。個人加盟の産業別組織への展望を持つことなしに、問題の根本的解決はな いと思われる。せめて、産業別組合への過渡的な形態を構想して、個別大学の枠のな
かでの労使関係から脱出する道が探られるべきである。大学単位では少数組合となる であろう多くの国立大学教職員組合が、どのように連帯することによって、主体性を
確保できるのか、検討されなければならない。より具体的には、全大教の存在意義・
存在価値を、どのような組織関係を作り出すことによって、実現するのかである。
第二は、教職員組合という形態を維持するかどうかという論点をめぐってである。
教員と職員は、大学の構成員として対等平等の関係におかれる・おかれなければなら ない。しかし、雇用と労働条件の内容は、基本的に異なる。一般的に、教員は職員に
なれないし、職員は教員になれない。もちろん、退職して、採用されることは可能で ある。そのような意味で、教員と職員の職域は、相互互換性を持たない。共通して保
障されるべき労働条件と、それぞれ独自に設定されるべき労働条件とが存在する。そ うであると、いわゆる教職員組合も、そうした相異性を前提とした、組織を造り、機
能を果たさなければならない。教員組織と職員組織が、限定的であるとはいえ、それ ぞれ団体交渉権と労働協約締結権をもつ組織構成が検討されなければならない。そこ
まで進まない場合でも、集権的な交渉関係の見直しと、協約締結手続きの厳格化など は、必要とされよう。
第三は、単位組合・基礎組織をどこにつくるか、という論点をめぐってである。国
立大学の多くの労働組合は、全学で一つの労働組合を組織している。しかし、学部ご とに、教育条件、研究条件、労働条件は異なる。要求も異なるはずである。その相異
は、尊重されなければならない。それでは、どのような組合組織を造ることで、そう した相異性を反映した労使関係と労働条件を実現することができるのか。学部を基礎
単位とする組合組織を、そこに職場交渉権を持つ労働組合組織を造るべきであろう。
2 労働条件決定システムと労使関係
つぎに、どのような労働条件決定のシステムを創りあげるか、労使関係論的課題に
ついてである。すでに、組織論的課題のところで提起した問題でもあるので、問題の 列記にとどめる。
@第一に、産業別労働組合組織の機能を、個別大学の労使関係のなかに反映させる・
持ち込むこと。具体的には、統一交渉や対角線交渉などの方式が検討されてよかろう。
A第二に、大学単位では、重層的な団体交渉などの労使関係を造ること。教員と職
員、学部と全学など、大学組織の実態と構成員の要求にあわせて、重層的で柔軟な交 渉関係を造るべきであろう。中央集権的な一元化された交渉関係にこだわる必要はな
いであろう。
B第三に、多層的な労使合意の蓄積をはかること。さまざまなレベルの労働協約が、
重なり合って、労使関係を規律する姿が理想的であろう。せめて、全学の労働協約と 職場協定とが重層的に規律する姿には接近すべきであろう。
C第四に、使用者の就業規則作成に組合が関与すること。過半数組合が存在し、労
働協約が締結されている場合は、労基法九二条の規定からも、就業規則が協約秩序に 服さなければならないことは明確である。しかし、その場合でも、就業規則は事業場
単位で作成すべきであるという労基法八九条の要請は、就業規則の形式の問題と就業 規則の作成単位の問題を提起する。総合大学・複数キャンパスの場合の事業場はどこ
に設定されるのか、教員と職員の就業規則をひとつの形式にまとめるのか、職員就業 規程などのそれぞれについての下部規程を作成するのか、その場合の作成手続きをど
うするのか、などなどの法律問題を含んだ課題が存在する。
D第五に、各種の労使協定の締結を適正化すること。時間外労働についての労基法
三六条協定をはじめとして、労働条件の決定過程には、さまざまな労使協定が必要と される。ここでも、労使協定の締結単位が問題となるし、過半数代表者の選出方法が
問題となる。
E第六に、労働契約関係を明確化・文書化すること。労基法一五条の改正で、施行
規則五条一項・二項・三項と相まって、労働契約の期間、職務内容と勤務場所、労働 時間制度、退職関連事項は、書面による交付が使用者には義務づけられた。このこと
が実践されるように、労働組合は使用者に働きかけなければならない。文書化された 労働契約書が存在することは、ここで詳論する余裕はないが、労働協約を破棄しての
就業規則による労働条件の一方的不利益変更問題の解決にも、大きな影響をもってく ることになろう。
このようにして、多層的な交渉関係を構築し、重層的な協約・協定関係と契約関係 を確定していくことが求められる。
3 労働条件規制の内容と論点
最後に、どのような労働条件を創りあげるか、である。この問題を検討する前提は、
現状の公務員の勤務条件のなかで、なにが維持・継続し・引き継がれるのかを確認し ておくことである。この変化の内容は、すでに確認した。国営企業等労働関係法の適
用を受ける特定独立行政法人の労働条件規制は、@国家公務員法の規制を受ける労働 条件、A労働基準法などの一般的な労働保護法の規制を受ける労働条件、B労使自治
の枠組みのなかで決定すべき労働条件、の三つに大別される。こうした法制度的な枠 組みのなかで、労働組合がどのようにして労働条件の政策と要求を創りあげていくか、
ここではその問題を検討する。
賃金・労働時間などの日常的中核的な労働条件事項は、労働組合がどのような政策
を持ち、どのような要求を掲げるかが、決定的な一歩となる。もとより、それが労使 間合意となり、労働協約として結実されるかはまた別の問題ではあるが。
さて、ここでは、労働条件のすべての問題領域について検討を加えることはできな
い。賃金制度と労働時間制度について、若干の問題を提起しておこう。
@賃金制度の論点
とくに、最大の難問は、賃金制度問題であろう。通則法による世間相場に準ずるべ
きであるという一般的な基準と、最賃法による下限設定と、労基法二四条による支払 方法の規制とを除けば、賃金制度と賃金額についての実質的な法的な規制は存在しな
いといえる。したがって、労使交渉が決定的な意味を持ってくる、というか、労使交 渉に意味を持たせなくてはならない。
そこで、公務員の俸給表をそのままにスライドさせるという選択肢はある。しかし、
能力主義と成果主義を導入する流れが強まっている。そういうときに、極端にいえば、 休講も多く教育に手を抜き、研究もせず、教授会にも出席せず、校務の分担もしない、
そういう構成員にも年功的に賃金は保障すべきである、と反論可能か。そういう制度 は合理的といえるのであろうか。極端な「生活給理論」によれば、労働の成果ではな
く、生活にもとづく賃金を、ということになるのであろうか。しかし、絶対的な貧困
のなかにあった戦後直後とは違い、そうした賃金要求に説得力はないであろう。
だが逆に、教育と研究の内容に立ち入った実質的な評価をすべきであるとしても、
いくつもの越えなければならない論点がある。@教育と研究は区別して賃金に反映さ せるべきか、A区別すべきであるとしても教育と研究と同等の構成要素なのか、B大
学教育の教育効果はどのように判定し、評価できるのか、C研究成果の評価はどのよ うな基準と方法によってできるのか、D学外第三者機関が行うにしても合理的基準と
方法の問題は存在し、難問である。
A労働時間制度の論点
労働時間制度の問題は、賃金制度と異なって、一週四〇時間の法定労働時間を前提
に、労働基準法上の五つの労働時間制度のなかからの選択が求められる。すなわち、 @週休二日制の一週四〇時間一日八時間の原型労働時間制度、A始終業時刻・労働時
間が日々異なる一ヶ月変形労働時間制度、B同じく変形期間の長い一年単位の変形労 働時間制度、C出退勤時間を自由とするフレックスタイム制度、D裁量労働制度であ
る。いずれの制度を選択するのか。
●制度選択の論点
その場合にも、検討しなければならない諸問題がある。
第一は、教員と職員は同じ労働時間制度を選択するのかどうか、という問題である。
職員は、職務分担上、大きく区分された定型的な業務を遂行する。それに対して、教 員は、本務校における教育と研究と校務、他校における非常勤講師、社会的活動とい
う多様な生活場面のなかでの業務が求められている。こうした、職員と教員を、同一 の労働時間制度のもとで、時間管理することは適切であるとは思われない。
第二には、学部学科ごとに教育・研究条件の異なる教員について、異なる労働時間
制度を選択するかどうか、という問題である。理系の実験系の教員の教育・研究スタ イルと、人文系の教育・研究スタイルとでは、生活のスタイルが異なる。こうした相
異性は、労働時間制度のうえでも尊重されなければならないであろう。
第三は、複数の労働時間制度の選択が必要となる場合に、労働時間制度の導入の手
続きも複線化するかどうか、という問題である。具体的には、複数の過半数代表者に よる複数の労使協定を締結するのか、などの問題である。
これらは、国立大学の教職員の労働時間制度の構想において、共通して提起される
であろう一般的な問題である。さらに、定着してきた労働慣行をどう尊重継続させる のか、という問題もある。こうして、歴史的条件や、大学の規模、地理的条件、学部
学科編成などの諸条件によって、特殊具体的な固有の問題が存在しよう。それらを、 法律上の根拠を確認しながら、どのようにして労働時間制度として確立していくのか、
が課題である。
●サービス残業根絶と三六協定
サ−ビス残業を根絶する問題は、労働時間制度の重要な問題である。サ−ビス残業
問題は、国立大学の職員にも広く存在する。労働時間管理を厳正に行い、時間外労働 には適正な時間外労働手当が支給されるようにしなければならない。現状では、仕事
の実態と予算決定との乖離から、違法状態が黙認され、放置されている。しかし、設 置形態変更後は、時間外労働の手続きの適正化と、必要な予算措置をもってサービス
残業が撤廃されなければならない。
そのためには、三六協定の内容と締結単位の問題が検討されなければならない。時
間外労働を適法化するためには、就業規則の整備と合理的な内容をもった(時間外労 働を臨時的例外的な事由に限定する)三六協定の締結とが大前提である。そして、も
っぱら対象となる職員層の実態にあわせて、どういう単位(学部単位か全学単位か地 区単位か)で三六協定を締結するのかも検討されなければならない。
おわりに/なにを為すべきか
@第一に、制度変化の意味について認識を一致させることであろう。国家公務員と
しての身分は保障されるということが、国立大学の教員と職員に、安心感を与え、将 来への幻想を生んでいる。雇用と労働条件を守り、創るのは、教員と職員の自主的取
り組みににかかってくる、ということを確認することである。しかも、教員と職員の 過半数を組織する労働組合が存在するのかどうかで、決定的に状況は異なるというこ
とを明確にすべきである。
A第二に、労働組合の組織と活動の現状について認識を一致させることであろう。
@組合は労働時間と賃金を中心とする権利と労働条件についての基本的な政策と要求 をもっているのか、教員の研究と教育を保障する労働条件と職員の労働条件はそれぞ
れに検討されているのか、Aその政策と要求は国公法体制からの離脱という変化に対 応できるものなのか、B労働組合の組織率の現状はどうか、総体として過半数組合を
実現しているか、職場で教職員の過半数を組織しているところはあるか、C組合の機 関運営の実態はどうか、組合民主主義は守られているのか・空洞化していないのか、
D職場に労働組合の組織があるか、職場要求にもとづく運動が組織されているか、E あらたな組合の組織と運動を構築するために、組合規約をどう改革しなければならな
いのか、そのための手続きにはどのような時間と取り組みを必要とするのか、こうし た課題をひとつ一つ検討していくことであろう。
B第三に、時間が残されていないという意味での緊急性についての認識を一致させ
ることであろう。二〇〇四年四月一日をどう迎えるのか、に照準は据えられるべきで ある。この日に、締結した労働協約を発効させ、その労働協約にもとづく就業規則を
作成・届け出でさせること、これが目標である。労使関係における対等当事者として の位置を確保できているのか、進行する事態に手をこまねいている傍観者としての立
場にとどまるのか。残された時間を逆算するなかからでてくる理想的なモデルはどの ようなものか。@二〇〇三年度中に(二〇〇四年四月までに)、労働協約の締結とそ
れにもとづく就業規則の作成を終えること(法的には締結と効力発生を区別する必要 がでてこようが)、Aそのためには、二〇〇二年度中に(二〇〇三年度四月までに)、
労働組合としての政策・要求の確立と組織整備(組合規約の改正等)を終えること、 Bさらに、そのためには、二〇〇一年度中に(二〇〇二年四月までに)、政策立案や
組織改革にとっての前提的な理論問題の検討や、労働組合の組織と運動の現状につい ての分析などが行われ、それらについての基本方向が確認されなければならないであ
ろう。
C最後に、大学像をめぐる課題(大学の教育・研究内容と大学運営の組織・構造と
をめぐる改革構想)に取り組むことと、教員と職員の雇用と労働条件を維持・確保す る課題に取り組むこと、この二つは、大学に組織されている労働組合の基本的な課題
である。冒頭で強調したように、前者を放棄せよといっているのではなく、後景に押 しやられている後者の課題に光を当て、その論点を提示することに、ここでの私の目
的はあった。事態の急速な展開は、二つの課題への取り組みの必要性をますます強め ている。
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