経済財政諮問会議 基本方針要旨(共同)
2001.6.21 [he-forum 2179] Re: 経済財政諮問会議 基本方針要旨(共同)
に全文があります。関係個所を補足してみました。
何度も引用しますが、以下のニュージーランドの行政改革と比較すると面白いかもしれません。
辻下 徹
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大井 玄・大塚 柳太郎
「ニュ−ジ−ランドの行政改革と高等教育および科学研究への影響予備調査報告」
II.行政改革の実施
1.経緯
1984年、労働党が政権をとるや、一気に行革が行われた。それは多くの場合、政府内
部でも秘密裏に、ヒトラ−の「電撃戦(Blitzkrieg)」に比せられる速度で推し進め
られた(7)。行革の内容は広範にわたり、根本的であり、国の規模の小ささと強力な
行政権が結合した時に初めて可能であることを思わせる。その項目は9つに分類され
るが(8,9)、本報告は教育改革と国立研究所の改革に焦点を当てているので、そ
のほかの7項目についてはその
要約だけを記すことにする。
2.社会経済面での改革
21の国営企業(電信電話、鉄道、航空、発電、林業、金融など)が民営移管された
か、ほとんどが外国資本に売却された。それとともに、国の会計には企業会計方式
(費用の発生、収益実現時点での損益認識)が組み込まれた。この過程で、通産省、
公共事業省、科学工業技術庁、エネルギ−省は廃止され、「国家公務員」は1985年の
8万5000人から1996年の3万4000人に減少した。
税制改革については、最高税率を66%から33%に下げ、相続税、キャピタタルゲイン
課税をほぼ廃止し、消費税率(現在は12.5%)を高めるなど、高所得者層にとって有
利で低所得者層に不利な一連の改革が行われた。
労働市場の自由化も進行し、1991年に実施された雇用契約法により、産業別全国労働
協約を廃止し、組合規定をなくした。このため労働組合の組織率は、8割であったも
のが2割に低下した。またクロ−ズドショップ(単一組合労働契約)制をやめ個人労
働契約方式にしたため、1997年には団体雇用契約労働者は半分以下になった。
福祉面では、年金受給年齢を60歳より65歳に引上げ、支給割合を80%から65%へと引
下げた。また、医療費の有料化や失業手当ての引下げも行われた。
補助金の廃止も実施されたが、廃止されたものの中には、農民の平均収入の40%を占
めていた農業補助金、輸出奨励制度、企業補助金制度などがある。
これらのほかにも、金融自由化の実施や地方行政改革などが行革の主たる事項として
あげられようが、ここでは割愛する。
3.教育改革
教育改革の根本理念は、教育も規制を廃止した市場原理により選別されていくべきと
いうものである。すなわち教育は、需要と供給の力が働く場に提供される商品(
commodity)であり、技能にたけた科学技術に明るい集団を養成することを主要目的
とすることになった。
初等中等教育については、教育省の役割は大幅に減らされ、学生の頭割りの予算配分
と大学入学資格試験の実施のみとなった。ゆえに、国家教育行政というものはなくな
り、学校運営は学校自身にゆだねられ、その監視役として、独立した教育評価局が置
かれることとなった。現在の学校運営は、その学校理事会が財政・人事の決定権をも
つ。たとえば、初等教育の理事会は校長、教師1名、親3名により構成され、生徒代
表の1名を加えることができる。学校区は廃止され、結果として、近くにあっても貧
乏な子弟は入学できない「優れた豊かな」学校と、「貧しく廃校の危険性が高い」学
校とが生じた。学校財政は次第に親からの「寄付」に依存する割合が高くなったが、
その額は生徒当り10ドルから100ドルなど地域によって異なっている(10)。なお、 本報告書ではドルとはNZドルを指しており、1NZドルは約50円である(2000年の本調
査時点)。
高等教育は「教育市場」における私的財(private goods)であるから、論理的帰結
として、@教育の経済負担は国家から学生へと移行し、A研究機能は教育機能から分
離され、研究成果はやはり「研究市場」において競争を通じて売買される、ことにな
った。大学の法人化は、1989年より実施された。1988年以前は返済不要の奨学資金(
bursary)のため、実際的には只だった国立大学(8校)、国立専門学校(24校)の
授業料は有料となり、年間授業料は大学では最低で1,000ドルである。
以上の改革の正当化として、次のような公式発言がなされている(11)。「前提とさ
れるのは、大学は社会に対する効用を証明しなければならないということである。す
なわち、開かれた市場に身を置き、授業料の支払いを通じて中核的資金を提供する学
生たちを獲得するため競争しなければならない。もし大学の研究が価値あるならば、
限られた資金を獲得するため厳しい競争の洗礼を受けることができる。」、というこ
とである。
4.国立研究所の改革
1992年に、科学工業技術庁(Department of Scientific and Industrial
Research, DSIR)は10の王立研究所(Crown Research Institutes, CRI)に分割され民営化され
た。そのうち、数学研究所は1994年に破産したため、現存するCRIは、NZ牧畜農業研
究所、NZ園芸食糧研究所、NZ穀物食糧研究所、NZ森林研究所、産業研究所、NZ土地保
善研究所、地質・核科学研究所、国立水・大気研究所、環境科学研究所、の9つであ
る。いずれも、政府が最大株主の会社組織である。これらは商業活動を行う会社とし
て位置づけられており、研究所の年報は株主総会への報告資料そのままである(12)。
会社(研究所)の重役会のメンバ−は、弁護士、会計士、経営者などにより占
められ、科学者を代表する重役は1人にとどまるのが普通である(13)。
平松によれば、以上の諸改革は「政府の責任は金融政策のみに限定され、生産や雇用
に口をださないとの(レザフェ−レ)原則」に基づくという(9)。一方、KelseyはNZ
の行政改革を要約して以下の5原則を挙げている(14)。
1)国内市場と貿易の自由化
2)行政の規制と権限の縮小
3)価格安定を至上目標とする財政政策
4)労働力市場の規制廃止と労働者の非組合化
5)課税対象基盤の拡大と行政および社会福祉への費用削減
いずれの解釈でも、教育・研究をも含めた経済行為は、政府が規制せず放任すれば、
最後には市場原理に基づく調整が最良の結果をもたらすとの信念が行革の基底にある
ことをうかがわせる。
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>経済財政諮問会議 基本方針要旨
>
>
>共同通信経済ニュース速報
>
> 経済財政諮問会議がまとめた基本方針の要旨は次の通り。
> 【経済再生シナリオ】
> ▽今後2−3年は日本経済の「集中調整期間」。短期的には低い
>経済成長を甘受しなければならないが、その後は民需主導の経済成
>長を目指す。
> ▽首相公選制は今後の検討課題。
> ▽特殊法人に「行政コスト計算書」を導入。
> ▽2001年度の経済成長は当初の政府経済見通しをかなり下回
>る。しかし構造改革の進展などで02年度の景気は徐々に回復。
> ▽02年度は国債発行を30兆円以下に抑制し、その後、プライ
>マリーバランス(基礎的収支)の黒字化が目標。金融政策は、調整
>期間のデフレ圧力も踏まえ機動的な量的緩和策を期待。
> 【第1章】構造改革と経済活性化
> ▽不良債権処理について、与信費用比率(貸出に占める不良債権
>処理の比率)など新指標を導入。
> ▽2−3年以内に主要行が最終処理できない不良債権は、整理回
>収機構(RCC)に譲渡するよう要請。
> ▽RCCの信託兼営を認め、企業再構築を図る組織を新設。
> ▽失業期間中の住宅ローン支援などセーフティーネットを充実。
> ▽国立大学は法人化し、外部の専門家の参加を得て民営化も検討。
3 .経済の再生
経済成長は社会的ニーズに新しい技術が出合うことにより生まれる。21 世紀
初頭の 我が国は、IT 革命が進展するなかで、自然との共生、高齢化社会の到
来など、出来合いの答え が用意されていない課題に直面している。これは日
本経済にとって大きなチャレンジであるが、 同時にこうした高齢化社会への
対応等の社会的ニーズは成長の源泉でもある。社会的ニーズに 新しい技術を
結びつけるために、市場の整備など社会的なイノベーションが必要である。
(1 )科学技術創造立国・世界最先端のIT 国家への足固め
20 世紀の最後の20 年間で、機械や工場などの物的な資本は、最も重要な生産
要素の 座を、特許やノウハウ、経営企画力など無形資産に譲った。付加価値
や経済成長を生み出す 最も重要な要素は「知識/知恵」である。21 世紀の日
本は、科学技術創造立国及び世界最 先端のIT 国家を目指さなければならない。
新しいテクノロジーとして、・ライフサイエンス、・情報通信(IT )、・環
境、・ ナノテクノロジー・材料の4 分野への重点的な研究開発を進める。こ
れら4 分野を含め 「科学技術基本計画」(平成13 年3 月30 日閣議決定)
の着実な実行が必要である。また、こ うしたテクノロジーが潜在的能力を最
大限に活かし、・循環型社会の構築/環境の保全、・高 齢化社会への対応、
・都市の再生など、21 世紀の日本が真に必要としている社会的ニーズ に応え
られるよう、重点的な資源配分が行われなければならない。
こうした目的のために、民間企業の研究開発や国・大学から民間企業への技術
移転を 促進するとともに、新しい技術を活かして事業を起こそうとするベン
チャー・ビジネス等 の支援に資する環境整備について検討する。
5 年以内に世界最先端のIT 国家になるとの目標達成に向け、「e-Japan 重点
計画」 (平成13 年3 月29 日)及び「e-Japan2002 プログラム」に基づき、
重点的かつ戦略的に IT 施策を積極的に推進する。
(2 )人材大国の確立
経済社会が大きく変貌し、IT を始め、技術革新も急速な進展を見せるなか、
労働力 には、柔軟で質の高い技術、能力が備わっている必要がある。このた
め、教育全般につい て、そのあり方を検討する必要がある。特に国立大学に
ついては、法人化して、自主性を高め るとともに、大学運営に外部専門家の
参加を得、民営化を含め民間的発想の経営手法を導入 し国際競争力のある大
学を目指す。他方、学生・社会人に対しては、奨学金の充実や教育を 受ける
個人の自助努力を支援する施策について検討する。職業能力開発については、
IT 教育訓練などの充実を図るとともに、それが十分に活 用されるよう、自己
啓発支援等の仕組みを強化する。
> ▽特殊法人や国営施設を見直し。郵政3事業は首相の懇談会で民
>営化も含め検討。
> ▽文部科学省などの建て替えにPFI(民間資金活用による社会
>資本整備)を活用。
# 「文部科学省」という言葉は出てこない。
# 大学の施設も国はサポートしない方向を目指す。
(・)不動産市場の構造改革
バブル崩壊以降、低迷を続ける不動産市場の活性化を図る契機としては、構造
改革につながるようなプロジェクトによって需要が創出されることも重要であ
る。その点で、本年5 月に発足した都市再生本部が選定し、実施しようとし
ている21世紀型都市再生プロジェクトは重要であり、積極的に推進すべきであ
る。このようなプロジェクトが円滑に推進されるためにも、土地の整形・集約
化のための事業の促進、国の施設の建替え等におけるPFI の積極的活用が必要
である。また、住宅ストックの流通や有効活用を促進するために、中古住宅等
の評価システムの確立や取引価格情報の開示など、市場情報の提供体制を整備
する必要がある。
> ▽保育所の「待機児童ゼロ作戦」を推進。
> ▽5年間で530万人の雇用機会を創出。
> ▽租税特別措置は聖域なく徹底見直し、連結納税制度の導入。
> 【第2章】新世紀型の社会資本整備
> ▽道路等の特定財源の見直し。
> ▽「公共事業」「非公共事業」の区分にとらわれない予算配分。
> ▽公共事業計画は必要性そのものを含め見直し。
> ▽主要先進国並みに公共投資の対国内総生産(GDP)比を下げ
>ていく。
> 【第3章】社会保障制度の改革
> ▽「社会保障個人会計(仮称)」を構築。
> ▽高額資産を持つ高齢者の社会保障給付見直し。
> ▽「医療サービス効率化プログラム(仮称)」を策定。
> ▽医療費、特に老人医療費の伸びを抑制する新たな枠組みを構築。
> ▽年金税制の見直し。
> 【第4章】個性ある地方の競争
> ▽市町村再編を促す。
> ▽地方交付税や補助金の仕組みを見直し。
> ▽税源移譲を含め、国と地方の税配分を根本から見直す。
> ▽外形標準課税は景気を勘案しつつ導入を図る。
> ▽地方財政計画の徹底見直し。
> 【第5章】財政の中期見通しと政策プロセス改革
4 .政策プロセスの改革
(1 )新しい政策プロセス経済財政諮問会議は、経済財政運営や経済財政政
策に関わる重要な構造改革等について、基本方針を調査審議することを重要な
任務としている。必要な場合、諮問会議の答申の内容は、閣議決定を経て、内
閣の基本方針となる。各省庁はこれに基づき具体的な制度設計等を進め、諮問
会議は各省庁の検討状況等のフォローアップを行う。こうしたプロセスを通じ、
構造改革等が強力かつ一体的に推進されることとなる。
(2 )新しい行政手法
(・)ニューパブリックマネージメント国民は、納税者として公共サービスの費
用を負担しており、公共サービスを提供する行政にとってのいわば顧客である。
国民は、納税の対価として最も価値のある公共サービスを受ける権利を有し、
行政は顧客である国民の満足度の最大化を追求する必要がある。そのための新
たな行政手法として、ニューパブリックマネージメントが世界的に大きな流れ
となっている。これは、公共部門においても企業経営的な手法を導入し、より
効率的で質の高い行政サービスの提供を目指すという革新的な行政運営の考え
方である。その理論は、・徹底した競争原理の導入、・業績/成果による評価、
・政策の企画立案と実施執行の分離という概念に基づいている。
(・)改革方策
海外では、この考え方は、・民営化・行政法人化を推進する、・業績や成果に
関する目標、それに対応する予算、責任の所在等を契約などの形で明確化する、
・発生主義を活用した公会計を導入する、などの形で具体化されてきている。
例えば、イギリスでは、行政の各分野において「市場化テスト」を行い、民間
でできることはできるだけ民間に委ねるとともに、民間にできないものについ
ても実施執行部門をできる限り行政法人化するなどの改革を進めている。我が
国の行財政改革を推進していく上でも、こうした新しい行政手法の考え方を十
分に活かし、政策プロセスの改革を図っていくことが重要である。具体的には、
・公共サービスの提供について、市場メカニズムをできるだけ活用していくた
め、「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」という原則の下に、公
共サービスの属性に応じて、民営化、民間委託、PFI の活用、独立行政法人化
等の方策の活用に関する検討を進める。
・事業に関する費用対効果などの事前評価等によって、維持費用も含゚てそれ
に要する費用を明確化し、事業の採否や選択などの政策決定に反映する。
・業績や成果に関して目標を設定し、責任を明確にしつつ、実際に行われた事
業の結果を事後的にも評価し、これを通じて政策決定、予算、人事評価などに
適切にフィードバックしていく。
・こうしたことによって、目標達成に向けた柔軟で効率的な行政運営を可能と
し、行政のマネージメント能力を高める。その際には、適正な行政運営を確保
するための監査などが重要となる。
・このような行政運営手法を実現し、国民に対する説明責任を高めるため、情
報公開制度などの定着を図るとともに、公会計制度のあり方についても、発生
主義など企業会計的な考え方の活用範囲や貸借対照表の対象範囲などについて
の検討を進め、行政コストや公的部門の財務状況を明らかにするよう引き続き
努める。その際、諸外国における発生主義を活用した予算等の実態について検
討を行う。以上のような基本的な方向性に沿って、具体的な改革を引き続き精
力的に進めていく必要がある。こうした取組みにより、行財政改革を推進し、
納税の対価として公共サービスの提供を受ける国民の満足度の最大化を図って
いくことが重要である。
> ▽中期的な経済財政計画を策定し、経済動向を踏まえて毎年度改
>定。
> ▽諮問会議の方針に基づき政府予算を策定。
> 【第6章】02年度予算の基本的考え方
> ▽02年度予算は経済発展に寄与する分野に重点配分。具体的に
>は環境、都市再生、科学技術振興、人材育成など。
> ▽プライマリーバランスの黒字に向けた取り組みについて、諮問
>会議が年内に具体的な姿を示す。 (了)
>[2001-06-21-16:54]
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