独行法反対首都圏ネットワーク


大学はどこへ向かうのか  研究の公共性再構築を
2001.6..8 [he-forum 2069] 「大学はどこへ向かうのか−−研究の公共性再構築を」

北海道新聞6月6日朝刊より


大学はどこへ向かうのか  

   研究の公共性再構築を

丸山 博


一昨年九月、文部省は高等教育政策を具体的に示すことなく国立大学の独立行政法人化の検討に踏み切った。それは大学から自治奪い長期的な教育・研究に短期的な経済尺度を導入することによって、大学を市場化しようというものである。


各国立大学は、法人化の講論が進行中であるにもかかわらず、山梨大学と山梨医科大学が統合を決め、埼玉大学が東京釈にサテライトをつくり、京都大学が東京進出を計画するなど、市場原理を受け入れるようにみえる。


しかし、それでいいのだろうか。北海道の地方国立大学はどうすればいいのだろうか。


私たちの大学は2年前、学長補佐体制をつくり、田頭博昭学長を中心に固有の大学づくりについて議論を重ねてきた。それは主として次の2つに結実しつつある。


第一は近代知の反省を踏まえた新たな知の創造である。たとえば、近代技術は人間の労働を軽減し、その行動範囲を広げたものの、核兵器や多くの有害物質を生みだし、人間およびその環境すなわち自然・社会・文化を破壊してきた。地球温暖化もその一つでしかない。今、近代技術のフロンティアはロボットエ学、ナノテクノロジー、遺伝子工学などのように人間あるいはそのその内部にも向けられており、いずれクローン人間がつくられ、社会的混乱が引き起こされる日も遠くない。こうした車態は、工学が人間や環境のあり方を問うことなく、工業系の学部・大学もそれらを教養としてしかとらえなかったことの帰結でもある。


本学では、このような反省の上に立ち、将来世代の未来を切り開くには、人間論を媒介とした文系理系の統合が不可欠であるととらえ、組織改編の検討に入っている。その背景には、八年前から、非工学系を副専門教育と位置づけて大学院まで延ばしたこと、数学や人文・社会科学の教官を中心に、数理科学、環境科学、認知科学などの学際的な研究交流が自主的に行われてきたことなどがある。


第二は地域社会との共生関係の確立である。本学の位置する西胆振地域は歴史的な工業都市と農林漁業、観光業を支える豊かな自然からなっている。しかし、それらの産業はそれぞれの市場に分断され、地域の自律性が損なわれてきた。本学は、こうしたことを踏まえて、市民懇談会、エクステンション・スクール、博物館などを構想し、地域を支えるとともに地域に支えられ大学であることによって、地域社会の未来に寄与しようとしている。


市民懇談会は室蘭・伊達・登別の三市長らのほか、公募による市民も加わり、市町村のIT講習に大学がボランティア講館団を派遣するなどの具体策を検討している。エクステンション・スクールは大学だけではなく、行政、市民も対等な立場で運営に参加し、地域のための人づくりを行うべく用意している。博物舘については、私見であるが、かつてこの地に息づいていた先住民の技術の歴史とそれによって培われた糟神文化を学びながらご、21世紀のあるべき技術を探求する場となり、西胆振地域の各種博物館とのつながりも視野に入れたものが考えられよう。


日本は明治以降、単一民族イデオロギーのもと、西欧の科学・技術を無批判に受け入れ、上からの近代化を推し進め、都市化・工業化を短期間になしとげてきた。


しかし、科学・技術は、戦争や経済などへの貢献を強いられ、無数の分野にも細分化されて、地球温暖化など将来世代の大きな問題を見過ごしてきた。また、都市は、構想ビルや道路ばかりの無機的な巨大消責空問と化し、エネルギー、食料、水など市民生活の物質的基盤さえ他の地域に依存しなければ立ち行かなくなった。それどころか、農山漁村は産業廃棄物やダムなどを都市から押しつけられ、木材や食料などの無制限の輪入によって生業が成り立たず、出も川も海も荒廃し、補助金と公共事業づけにされてきた。


こうして、地球規模の環境破壊はもとより、本来、多様か地域からなる日本において、地域固有の環境が破壊され、その結果、人々はアイデンティティを喪失し、再びナショナリズムを受容しやすい状況が見られる。途上国にいたってはもっと深刻なはずだ。したがって、人間や環境にかかわる問題と向き合い、地域の自治や環境を再生することが今、求められるのである。


大学はそれゆえ、将来世代と地域社会をキーワードにして市場原理を超えた教育・研究の公共性を再構築しなければならず、それこそが地方の国立大学が率先して行うことであるに違いない。だとすれば、北海道の地方にある国立大学は、それぞれの地域に根をはりながら、柔らかなネットワークをつくり、人類未来の課題に協働して立ち向かうべきではないか。


(まるやま・ひろし=室蘭工大教授)


#丸山教授は『朝日新聞』2000年1月19日論壇 で「地方の国立大学が今すべきこと」 と題して論じています。

http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/00119-maruyama.html




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