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国立大学改革:独立行政法人化論議に必要な4つの論点
2001.6.7 [he-forum 2053] イノベーションシステムとしての大学
独立行政法人経済産業研究所澤昭裕氏の見解
日本の大学は、国際的に見て、教育・研究両面で競争力を失っているという認識が一般的になっている。また、大学を巡る環境は厳しい。少子化による学生数の減少、インターネットを使った海外の大学の日本進出等の流れは止まらない。
さらに、財政悪化の中で、予算は緊縮を余儀なくされる一方、民間資金は国内の大学をバイパスし、海外に流出している。大学間のサバイバル競争は、この数年のうちにピークを迎える。
各大学は今、自らの生き残り戦略を問われている。大学は、単なる教育・研究単位の教官連合体としてではなく、「経営組織体」としての意思決定を迫られているのである。これからは、大学経営のモデル間競争の時代といえる。教授会が何も決めなくても誰も損をしないという状況は、もはや存在しない。多様な大学が切磋琢磨して、教育サービスと研究活動の質を向上させ、学生と資金を確保していくことが、日本の大学の復活の必要条件である。
大学改革の大きなテーマの一つが、国立大学の独立行政法人化問題である。独立行政法人化の検討に当たっては、各大学が自己責任のもと、最適経営モデルを自由に選択できるような制度設計が必要だと考える。また、国立大学側が引き続き税金で運営することを要求するのであれば、透明なガバナンスの構造をどう構築するかも重要だ。以下に、独法化案を検討する際に議論が必要な四つの論点を示す。
▽経営組織の自由化
現在、国立大学協会や文部省の調査検討会議では、教学と経営を一致させ、両方に学長一人が権限と責任を持つという方式が主張されている。しかし、国や企業にも多様な意思決定の仕組みがあるように、歴史や現状が異なる国立大学も、それぞれが様々な経営意思決定組織を構成できるようにすべきだ。
教授会自治を基礎にしたり、経営は理事会に委ねたり、学長に全権を委ねたりといったことは、各大学の自己責任でなすべき最も重要な選択である。選択を誤った大学は、退場するのみだ。この選択を法的に画一化したりすれば、これまでの護送船団方式による横並び主義を脱却できないし、責任の所在もあいまい化する。
▽教育組織の自由化
一般に、独立行政法人は法人の内部組織の構成は自由である。しかし、大学の場合には、学校教育法という実体法が存在しており、内部組織構成の自由を得るには、同法上の学部学科設置に係る許認可制度が抜本的に改正されなければならない。
米国の大学は技術進歩や研究上の新たな発見に応じて、ダイナミックに教育研究組織を変革してきた。これに比べ、日本の大学は、新たな社会・産業ニーズに応えるような改革は、遅々として進んでいない。
学生も、定員管理規制や教官の既得権維持が原因で、必ずしも選択した研究室には進めない。その結果、バイオや情報など、将来を担う人材の質と量の彼我の差は、数年では追いつけないほど開いてしまった。
今後、組織編成が自由化されれば、大学は自らの経営判断でリスクを取って、将来への教育研究投資を行うことが必要になる。一方、産業界も、将来の人材ニーズについて、明確なシグナルを発することが重要である。
▽教官人事の自由化
私の所属する経済産業研究所は、非公務員型の独立行政法人であり、経済専門家を中心に官民から優秀な人材を獲得することができた。その理由の一つは、柔軟な雇用形態と処遇体系である。
組織の戦略を実現するには、他の組織と争って、ふさわしい人材を集めることが最も重要である。現在の大学では、給与その他の処遇は年功序列、横並びであり、優秀な教育研究者にとっては、全く夢のもてない仕組みとなっている。また、公務員関連法規に絡む諸規制が活動の自由を阻害している。これでは、海外への人材流出も止められないだろう。
学生の採用についても同じことが言える。教官は入試作成に貴重な時間の多くを取られているが、その一方で、どのような学生が自分の大学にふさわしいかには無関心だ。学生リクルートのプロの養成と入試改革も必要である。
▽大学財政の規律
独立行政法人には、使途を限定されない運営費交付金が税金から配分され、国の機関なみに税や種々の規制が免除される。しかし、そうした特典を受けるには、政府が付与する中期目標に対応して、法人側が中期計画を作成したうえ所管省庁の認可を受けることが必要条件である。
現在大学側はこの方式に反対しているようだが、それならば、大学が税金を効率的・効果的に使っているかどうかについて、国民・国会による監視と評価を受ける仕組みを、自ら同時に提案するべきだ。ガバナンスの仕組みもなく、十分な予算を保障しろ、身分保障は不可侵だなどといった主張は説得的ではない。
研究に関しては、経常的な機関補助は一定限度に止め、競争的資金配分が基本となるべきだである。教育に関しては、第三者機関によってその水準を評価、認証を受けるアクレディテーション制度を一般化し、それを受け入れることを運営費交付金の交付条件とすることや、授業料を自由化する一方、奨学金制度の抜本的充実によって個人補助に重心を移動させ、学生側の教育サービス評価を大学運営に反映させることも検討すべきであろう。
以上が、国立大学の独法化案を検討する上で欠かせない論点であるが、実は、大学改革は、単に大学社会内部の問題にとまらない重要な意味を持っている。
国のイノベーションシステムの一部として、他の公的研究機関、企業内の研究開発や人材教育体制などと併せて、そのあり方が検討されなければならない。
大学関係者内部に閉じがちな議論の場を開放し、総合科学技術会議、産業界、政界などでも議論が活発に行われることを期待したい。
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