独行法反対首都圏ネットワーク


6.1理事会案批判の論点について
2001.6.6 [he-forum 2037] 6.1理事会案批判の論点について


浜本@富山大学 です.


来週の国大協総会に向けた各地でのいろいろな取り組みにエールを送ります.富山大学でも「独法化問題を考える教職員の会」が6月8日に学長と会見し,6.1理事会案を総会で拙速に承認しないよう求める予定にしています.


ところで,各所で出されている声明文や意見書には重要な点がひとつ見落とされているのではないかと思います.「国立大学の法人化についての要旨」についての批判です.これは6.1理事会案で新たに付け加えられたものですが,「国立大学法人化の枠組」以上にきわめて悪質なものです.「国立大学法人化についての基本的考え方」と「枠組」の間の乖離については多くの方が指摘しておられます.それに加えて,「要旨」と他の2つ文書との関係,「要旨」が他の2つに先立って置かれた意味についての批判が必要だと思います.「要旨」の最後に置かれた文言は,独法化に疑義を呈してきた多くの人々に対する挑戦だと言わざるえません.


以下は,富山大学内で別の目的のために用意した文章です.「要旨」の持つ危険性にも言及したつもりです.ご一読のうえ参考にしていただければ幸いです.


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             6月1日づけ国大協理事会案の主な問題点


T.理事会案は次の3つの文書からなっています:

・「国立大学の法人化についての要旨」(以下,「要旨」と略記)
・「国立大学法人化についての基本的考え方」(以下,「考え方」と略記)
・「国立大学法人化の枠組」(以下,「枠組」と略記)
まず問題になるのはこの3つの文書の整合性です.各論にあたる「枠組」の内容が,総論としての「考え方」から決定的に乖離しています.しかも「要旨」の記述は,もっぱら「枠組」の内容を要約しさらにそれを理論的に補強するものになっています.この「要旨」をはじめに置くことによって「考え方」を後方に追いやる結果になっています.一貫性を欠いたこの全体の構成が理事会案の最大の問題点です.


U.「考え方」は,

1)高等教育および学術研究は,国や社会の発展および人類全体の福祉の向上に  不可欠であること
2)これら諸活動の遂行には学問の自由と大学の自治が必要であり,その根拠は 『高等教育および学術研究の本質』そのものにあること
3)大学は,社会とのあいだで一定の緊張関係を保ちつつ社会との開かれた関係 のなかでこれら諸活動を遂行すべきこと
4)国は,これら諸活動の発展に対して第一義的な責務を負うべきことの原則的諸点を指摘しています.これらは大筋で評価できるものです.もしこれらの原則を真摯に考慮するならば,通則法にもとづく独立行政法人化は拒否せざるをえないというのが自然に導かれる結論のはずです.


V.ところが「枠組」は,みずから掲げたこれらの原則を棚上げし,通則法に大枠で依拠しつつそれを手直しすることに終始しています.その結果,『高等教育および学術研究の本質』に反した枠組が,学問の自由と大学の自治を危うくする枠組が提案されることになりました.「枠組」の持つ主な問題点を以下に列挙します:

1)学長選挙や大学運営に学外有識者が参画することを無限定に認めています.学長・部局長の権限を強化し,その一方で評議会・教授会の権限を縮小することがはかられています.
2)中期目標・中期計画の策定にあたって,審査・認可の権限を文部科学大臣に委ねています.
3)文部科学省に大学評価委員会をおき,そこがおこなう事後評価を予算配分に直結させることを謳っています.
4)教職員の身分について非公務員型の可能性に言及しています.成果・業績を反映した給与体系の導入を求めています.
5)教員人事にさいして,教育公務員特例法はその『精神』の適用にとどめ,大学の内部規則による選考を強調しています.任期制を積極的に導入し,これを促進する給与体系を設けるとしています.


W.「要旨」は,「国立大学法人化の趣旨」(以下,「趣旨」と略記),「改革によって実現すべき基本的目標」(以下,「目標」と略記)および「改革の枠組みの要点」(以下,「要点」と略記)の3つの部分からなっています.「要点」は「枠組」をおおむね忠実に要約したものになっています.ところが「趣旨」と「目標」の部分は「考え方」の要約にはなっていません.ここで強調されていることは,
1)高等教育および学術研究の国際的競争力の強化が緊急の課題であること
2)そのためには,国立大学を競争的環境に置く必要があること
3)国立大学は運営の透明性を確保し,その時々の社会の要請に適切に対応する必要があることの諸点です.この記述は「考え方」から大きくはずれ,むしろ「要点」と「枠組」を理論的に補強する内容になっています.「要旨」は最後に,『この内容は、国立大学が自ら、競争的環境を実現し、大学の運営に社会の意見が反映される組織に作り変え、自主性・自律性とともに自己責任を明確にする改革を行う決心をしたもの』であり,『社会の意見を反映する仕組を持たない独立行政法人通則法にくらべて、はるかに良い制度設計になっている』と宣言しています.通則法に依拠した国立大学の独立行政法人化には,学問の自由と大学の自治を擁護し発展させる立場から多くの人々が疑問を呈してきました.「要旨」のこの自画自賛的言辞は,これらの意見に対する挑戦であると言わざるをえません.


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