大学における業務委託について
2001.6.6 [he-forum 2030] FWD:大学における業務委託について
Academia e-Network 設立準備会のML[pre-acnet]
に馬場理さんから以下の投稿がありました。許可を得て転送します。
辻下 徹
tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp
---転載始-------------------------------------------------------------
Date: Sun, 03 Jun 2001 02:10:50 +0900
Subject: [pre-acnet] 業務委託について
pre-acnet の趣旨に沿うものかどうか分かりませんが、とりあえずここに投稿させていただきます。
独法化に関する議論が急展開する中で、特に気になっているのですが、大学から民間への一部業務の委託という考え方が割合なんの抵抗もなしに受け入れられようとしているかのように感じています。
業務を委託する場合、通常、業務委託契約を結ぶのが慣例ですが、業務委託契約は極めて適用範囲が広く、危険な契約です。私は職業柄、業務委託契約と常にとなり合わせの位置に居ます。本人の意図とは関わらず、利用する側であったり利用される側であったりするのですが、この契約が常態化している事実から常に高いストレスを受けています。
大学の先生方が、この契約の危険性をどの程度認識されているか疑問を感じています。危険性に気づいていただけるきっかけになることを期待し寄稿しています。私には完全な知識はありませんが、知っている範囲の事実をかいつまんで書きます。
1. 労働者派遣法
労働者派遣法という法律があります。この法律が労働者保護の観点から制定された法律と考えるのは全くの誤りです。むしろ逆に、労働者派遣の原則自由化のための悪法として、制定当初から位置付けられていたと考えるのが正確です。以下ご参照ください。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~otasuke/camhaken3.htm
2. 業務委託契約⊃派遣規制緩和のための抜け道
派遣業者として登録していないにもかかわらず、事実上人材派遣を行っている会社が増加の一途をたどっていることは周知の事実です。このからくりがどうなっているのかあまり知られていません。これに関して私は、つぎのような逸話を複数回耳にしています。「労働者派遣事業を行う会社として登録しようとしたところ、「その必要は無いよ、業務委託契約を使えばよい」と*指導*を受けた。」
統計上派遣労働者は百万人強として計上されていますが、実際には、このからくりにより、その数字は全くの*でたらめ*です。
99年の派遣法改正では、派遣業の原則自由化が
explicit に宣言されています。規制緩和が潜在的に持つ行政構造改悪の懸念は具体的にはこんなところにも見えています。
3. そもそも業務委託契約とは
業務委託契約の一番典型的な例としては、ゼネコンがお客さんから受注し、その施工を下請け企業に依頼する場面を考えていただければ良いと思います。
顧客からゼネコン、ゼネコンから一次請負、二次請負、...
と何段階かの業務委託契約を経て最後は現場の職人までブレークダウンされます。通常この業態は、請け負う側から見たときに、一括請負と呼ばれています。一括請負のための契約方式として常態化している業務委託契約ですが、その契約内容を縛るための法は十分整備されていないようです。
もちろん建設業に限らず、ありとあらゆる業種で業務委託契約は成されています。
4.業務委託契約と客先常駐
建設業と同様の構造をもった業種にソフトウェア産業があります。
ソフト産業で行われている業務委託契約の場合、いわゆる一括請負といわゆる工数契約とが混在しています。前者は、仕事の範囲を定めて、それに対し対価を設定し、受注、清算する契約、後者は、作業に掛かる人数×時間×単価により受注、清算を行う契約です。どちらの場合も、清算の単位にはいわゆる人月(man-month)が用いられます。
前者の場合、契約が履行されさえすれば人間をどれぐらい投入したかは問題となりません。しかし、後者の場合は投入した人数、時間そのものが契約事項となります。顧客側としては、契約内容に一致する人数、時間の投入があったかどうかを管理する必要が生まれます。ソフト業界において人身売買が発生するそもそもの根源はここにあります。この契約から生まれる作業形態を、通常、客先常駐といいます。
そもそもは(1)工数契約に起因した客先常駐ですが、いまや、次の二つの形態へも拡大しています。(2)
一括請負のもと客先常駐、(3) 派遣会社登録社員としての客先常駐。これら三つの形態はいずれも、言葉を選ばなければ人売りであり、言葉を選べば派遣です。
5. 労働者派遣法により護られるもの
派遣法は人間の権利を護る目的で作られたものではありませんが、それでも、良心の破片は残っています。派遣法により護られる人は
(3) の形態により客先常駐する人たちです。
派遣会社登録社員はサラリーマンではありません。彼(彼女)らは個人事業主です。会社
対 彼(彼女)の関係は雇用関係ではありません。客
対 店の関係です。
派遣法の基本的な発想は、「彼(彼女)らのような本当に最悪に近い労働条件のもとで働く人間の権利に関してのみ保障を与えよう」というものに過ぎません。
6. 大学が業務委託を容認することの意味
業務委託は労働に関する規制緩和を具現化するための免罪符です。規制緩和の行き着く先は規制の事実上の撤廃です。ことさらに、労働に関する規制の撤廃は人類にとって重大な意味を持ちます。大学が業務委託を容認すれば、大学は労働に関する規制の撤廃を認めたことになります。このとき大学は、人間に対する思想のある重要な部分を喪失したことになります。
馬場理
Tel. 047-479-5740
mailto: wm7o-bb@asahi-net.or.jp
---転載終-------------------------------------------------------------
目次に戻る
東職ホームページに戻る