独行法反対首都圏ネットワーク


独立行政法人化で求められるのは、研究者の意識改革
2001.5.13 [he-forum 1912] InterLab 5月号


InterLab  産学官連携支援マガジンインターラボ 31号(2001年5月)


キーパーソンインタビュー  


独立行政法人化で求められるのは、研究者の意識改革


産業技術総合研究所 西嶋 昭生氏


■西嶋昭生

■産業技術総合研究所 物質工学工業技術研究所 産学官連携推進センター長
■1976 年東京大学工学部工業化学科卒業、82 年同大大学院工学系博士課程修了、同年通商産業省工業技術院・物質工学工業技術研究所入所、97 年高知県理事兼工業技術センター所長に就任、98 年高知県産業技術委員会委員長及び高知工科大学客員教授も兼任、99 年物質研産学官連携推進センター長に就任。


独立行政法人化で求められるのは、研究者の意識改革


―国立試験研究機関(以下、国研)が独立行政法人化ヘと移行する中、そのあり方を問いただす声が聞かれますが・・・


  国研はこれまで、甘えていたところが多分にあったと思うんですね。もし日本の景気が順調に回復していれば「国研はしばらく自由に基礎研究をしていてください」と言ってもらえたかも知れませんが(笑)、実際には非常に厳しい状況に置かれています。今後は国をあげて日本経済の構造改革に取り組まなければなりませんし、国際競争時代への対応や産業競争力の維持・強化などに注力することは言うまでもありません。今、国研に求められているのは、これらの問題解決に真正面から取り組むことなんです。


  独立行政法人化は、それに対する一つの答えでしょう。4 月1 日に発足する産業技術総合研究所(以下、産総研)は、旧通産省工業技術院傘下の15 研究機関(産業技術融合領域研究所、計量研究所、機械技術研究所、物質工学工業技術研究所、生命工学工業技術研究所、地質調査所、電子技術総合研究所、資源環境技術総合研究所、北海道・東北・名古屋・大阪・四国・中国・九州の各工業技術研究所)と、計量教習所の計16 機関が統合して誕生するものです。
人員は、研究者2,500 名、事務系700 名の計3,200 名体制となります。


―国研が独立行政法人になって、実際の研究活動はどのように変わるのでしょう?


  研究開発のターゲット設定に関して言えば、これまで国研で取り組んできたものは国の産業技術政策の視点とは必ずしも合致していなかった面もあると思います。どちらかと言えば、技術政策は守備範囲外としてきた傾向が強かった。つまり、国研の研究者は自分がやりたいと思う研究開発に取り組んできたということですね。しかし、今後は研究者自らが国家産業技術政策への関心と理解を深め、それらの視点に立った研究開発を進めていく姿勢が求められていると思います。


―物質工学工業技術研究所(以下、物質研)で産学連携推進センターが開設されたのはいつ頃ですか?


  98 年4 月で、産学官連携の必要性が叫ばれ、各研究所に産学官連携推進センターが開設されることになりました。私がセンター長に就任したのは99 年からですが、産学官連携活動としては、高知県に出向している時から取り組んでおりました。


―物質研と企業との共同研究についてですが、特許化されたものはかなりあるのでしょうか?


  そうですね。数としては、産総研の中でも圧倒的に多いと思います。しかし、最近は特許料収入が落ち込んでいるんです。その原因のひとつは、特許マインドの低下による出願件数の伸び悩み。また特許戦略自体がうまく立てられていないことも、大きく影響しているでしょう。例えば、企業であれば開発する技術の用途や市場分析を行ない、それに関係する実用的な特許を固めますよね。一方、国研ではそのようなスタンスで取り組むものが少ない。ここに、国研と企業との特許戦略で大きな違いがあります。


  また、これまで取り組んできた企業との共同研究では「少しぐらいは技術を盗んでもいいだろう」といったムードが企業サイドにもありまして、気づいた時には企業にほとんど特許を押えられているようなことも結構ありました

(笑)。


  結局のところ、国研の研究者は企業側の意図するところが見えていなかったんでしょうね。少しでも世の中の役に立てればいい、といった感覚の研究者が大半だったのではないでしょうか。


  ただ、これからは国研も産総研として独立行政法人となりますから、社会的にその必要性を認めてもらえるような研究成果を生み出していかなければなりません。そういった意味では、研究所全体での意識改革がまず必要ですね。

―物質研ではこれまでも積極的に産学官連携を推進してこられたと思いますが、今後は産総研としてどのような点に重点を置いて進められる方針ですか。


  とにかく、いかにして産学官連携の成功例を作っていくかですね。うまく進められそうな案件を産総研全体でピックアップし、全面的にサポートして行くことが必要と考えています。


  また、これまで接点の薄かった中小企業とも技術マッチングを強化していくことになると思っています。中小企業にも世界に通用する高度な技術力を持っている会社が数多くありますからね。すでに、当研究所でも中小企業との共同研究で実用化できそうな案件が幾つか出てきていますが、ここで感じるのは大企業に比べて意思決定が速いことですね。そういった小回りの良さは、中小企業ならではの強みだと思います。


―よく日本の産学官連携がアメリカと比較されますが、西嶋さんご自身はこの点についてどのようにお考えですか?


  まず、歴史が違いますよね。アメリカが国として産学官連携施策を講じ始めたのは、もう20 年以上も前の話です。一方、日本が国として本格的に産学官連携に取り組み始めたのはほんの数年前。アメリカ並みの環境整備には、まだまだ時間がかかると思います。まずは、産学官連携を前提とした国家産業技術政策をきちんと立てていくことが必要でしょう。


―産総研では、実際にどのような体制で研究活動に取り組んでいかれる方針ですか?


  柱となるのが『研究センター』と『研究部門』です。この内、研究センターは学界、産業界、社会などに対するインパクト、ミッションの明確さを選考基準としたもので、時限的(3 〜7 年間)に設置される機動的な研究組織です。スタートとなる第1 期には、生物情報解析研究センター、次世代半導体研究開発センター、マイクロ・ナノ機能広域発現研究センター、ライフサイクルアセスメント研究センターなどをはじめとする23 センターが発足します。


  一方、研究部門は所属する研究者自身の専門能力向上を目指すもので、第1期は22 の研究部門でスタートする予定です。


―産学官連携部門ではどのような活動を?


  具体的な活動課題はこれから検討されますが、産業界、大学、地域にかかわる技術指導、共同研究、技術移転などを積極的に推進していく方針です。分野ごとや地域ごとにコーディネータを配し、ヒューマンネットワークの充実と公設試験研究機関との関係強化を図り、産総研全体で産学官連携をサポートする体制が整備されると思います。もちろん、大学TLO との連携も強化していく考えですし、技術移転を目的とした制度も充実されます。


―国研の独立行政法人化で最も重要なことは何であるとお考えですか?


  やはり、ミッションを明確化し、産業技術政策とのリンケージ強化ですね。独立行政法人の研究機関は政策当局との距離を近くとり、研究者自身も自分の研究成果が産業技術政策に結びつくという認識を持つことが重要であると思います。また省庁の枠組みにとらわれることのない、全ての産業を見据えた研究開発の連携体制を構築すべきですね。


  産総研が産業界や大学はもとより、公設試験研究機関をも含めた産学官連携による研究開発体制を構築し、基礎研究と実用化を見据えた応用研究の両方を推進することで、科学技術を先導し、日本独自の研究開発体制が確立できればと思っています。


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