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国立美術・博物館「独立」から1カ月 ほしかった自由、熟考の時間
2001.5.6 [he-forum 1892] 朝日新聞05/06
『朝日新聞』2001年5月6日付
国立美術・博物館「独立」から1カ月
ほしかった自由、熟考の時間
国立美術館・博物館7館が、効率化を求める行政改革の一環で「独立行政法人」になって1カ月たった。初めに行革ありきで、広範な議論のやりとりもなく進められた準備はいかにも拙速だったと、いまさらながらにして思う。
代表的存在である東京国立博物館で、「国宝醍醐寺展」が開かれている(13日まで)。のぞいてみると、「36年ぶりに山を下りた」と話題の本尊「薬師如来坐像」など国宝11件や75件の重要文化財を含む110件。さすがに逸品ぞろいで見ごたえがあり、多くの入場者でにぎわっていた。
しかし一方で、これまで金曜は午後8時までだった夜間開館が、今後は特別展開催中の金曜だけになるという。常設展の夜間入場料収入では人件費や光熱費に見合わないからだ。「効率化」は早速こうしたサービス低下で現れた。
醍醐寺展のにぎわいぶりに、パリのフランス国立ギメ東洋美術館を思い出した。クメールの彫刻群が特にすぐれ、インドや敦煌、それに日本の美術など4万5000点に及ぶ収集で知られる。老朽化したため、96年に休館。97年から改修工事を始め、この1月20日に再オープンしたばかりだ。
2月に訪れると、「ギメ現象」と呼びたくなるほどの観賞者がおしかけ、行列ができていた。3カ月たった今も行列は続き、のべ入場者は23万人に達したという。改築前が1年間で10万人だったというから激増だ。
86年から館長を務めるジャンフランソワ点ジャリージュさん(60)は満足そうに改築の苦労や工夫を話したが、こと「独立行政法人化」の話題になると慎重だった。
フランスでは国立美術館のほとんどは予算などを国が管理している。ただしルーブル美術館とベルサイユ宮殿(美術館)だけは「独立行政法人」にあたる組織になっており、極めて独立性が強い。しかし、同時にこの2館は、常設展の入場料収入のうち45%を国立美術館連合(33館加盟)に納めなければならず、その金は、収入の少ない館の作品購入や特別展開催に使われる。弱小館を一部の強大館が助ける仕組みだ。
ギメも法人化するのではないかとうわさされていたが、ジャリージュ館長は「1年後に落ち着いて考える」と話した。「独立行政法人になれば、経済上も、人事上も自由度は増す。しかし、年間最低60万人の入場者が必要で、それが保てない規模の場合や館長の資質が向かない場合、かえってマイナスになる」ともいう。
こうした選択の自由や熟慮の時間が日本の独立法人化には欲しかったのだが。(編集委員・田中三蔵)
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