独行法反対首都圏ネットワーク


北海道大学の中村睦男学長にインタビュー
2001.5.17 [he-forum 1933] 読売新聞05/17

『読売新聞』北海道版2001年5月17日付


北海道大学の中村睦男学長にインタビュー


 独立行政法人化をはじめとした一連の大学改革、少子化による統合論議や大学生の学力低下など、二十一世紀を迎えた全国の国立大学を巡る状況は厳しい。札幌農学校として生まれ、日本の近代化に大きな役割を果たしてきた北海道大学も例外ではない。開学百二十五周年を迎えた今年、第十六代学長に就任した中村睦男・新学長にインタビューした。中村学長は大学改革の意義と懸念を明らかにする一方で、すぐれた教養人を育てる基礎教育の強化を訴えた。


 ――副学長を一人増やして広報担当にしたが、狙いは。


 大学が行っている研究・業績を、国民の皆さんに広く知ってもらうためだ。これまでは象牙(ぞうげ)の塔で、国民の皆さんに任せてもらっていたが、これからは国民の税金を使わせてもらっているのだから、説明責任を果たして行かねばならない。


 ――国立大学は二〇〇三年から独立行政法人化が予定されているが。


 日本が戦後、大きな経済発展を遂げて世界の大国になったのは、明治以来の教育の積み重ねのおかげだ。現在、昔の教育システムではうまく行かない部分があることも確かで、我々も改革しなければならない部分はある。しかし、大学の研究教育というのは、地道なものを積み重ねる必要があり、単なる目先の効率だけでは計れないものがある。学問の自由と大学の自治は、最大限確保されなければならない。


 ――教員任期制の導入は。


 現在でも、部局によっては紳士協定で任期が決まっているポストもある。ある分野については、大いに流動性を持たせることは大切だが、全部一律にというのは望ましくない。なぜなら、研究というのは教育的機能も持っているわけで、教授が五年で替わってしまっては、若手研究者がはしごをはずされてしまうようなことになる恐れがある。


 ――入学年齢制限の緩和など、いわゆる「飛び入学」の導入は。


 そういう人がいる場合に、特別にそういった扱いをすることはいいかもしれないが、大学教育改革の根幹的なものではないと思う。近年、学力低下が政治的争点となり、「つめこみ」から「ゆとり」教育への転換が図られている。しかし、がっちりした基礎教育をすると個性が死んでしまうかのようなムードはどうか。


 きちんとした基礎学力があって、その上での個性や独創性は矛盾しない。高校段階での文系・理系コース分けが、個性化につながるとは思えない。むしろ、今の時代は文系、理系の枠組みが流動的になってきている。もう一度、基礎教育・教養教育の重視が求められているのではないか。


 ――北大で入試科目の見直しは。


 高校生がそういう教育を受けていないのだから、今は到底考えられない。しかし、将来的にはきちんと高校と連携しながら、入試と基礎教育を強化したいという気持ちはある。


 ――一九五七年に入学してから学長になるまで一貫して「北大人生」だが。


 大学四年の時は六十年安保が盛り上がり、高度経済成長が始まろうとしていた。時代が大きく動いていた。そういう時期に、北海道の風土、北大の環境、自由な雰囲気の中で、のびのびと教育研究できたのは素晴らしいことだった。


 ――今の学生に望むことは。


 私たちのころは大学進学率は10%程度にすぎず、強烈なエリート意識があったし、勉強もよくした。今の学生は多様化しており、勉強はそれなりによくしているが、層が厚い分、ばらつきもある。全体的にはおとなしくスマートで、自分たちで活動するという雰囲気がないし、みんなバラバラだ。(安保世代の)我々のころのような、集まって口角泡飛ばして議論することもない。ボランティアに興味は示すが、きっかけを与えないと行動しない。もう少し自主性を発揮して欲しいところだ。


 中村 睦男(なかむら・むつお) 62歳。札幌市生まれ。1961年北大

法学部法律学科卒。北大法学部教授、法学部長、副学長を経て、5月1日付で

第16代学長就任。専門は憲法、基本的人権、フランス憲法。

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