独法化に反対する集会に参加することへの御誘い
浦辺徹郎(東大理学部、地球惑星専攻)
5月18日(金)昼に、本郷キャンパス時計台前で、「大学が危ない!国立大学の独法化に反対する5.18緊急大集会」という集会が東京大学職員組合により計画されています。これは5月21日に国大協の特別委員会が「中間報告」の原案を確定することになっていることと、文部科学省の調査検討会議もほぼ同じ頃に中間的まとめを決定することを受け、全国の大学に呼びかけて声を上げようとするものです。
小生は一足先に独法化された国立研究所(旧:工業技術院地質調査所、現:産業技術総合研究所)から昨年7月に異動してきた者ですが、そこの研究者にとって、独法化の過程は甘い期待が裏切られて深い失望に変わる事の繰り返しでした。改革の実態は、競争原理と効率性の名のもとに巧妙に隠されており、外からは伺い知れないものです。現在大多数の大学人が、独法化に対して是々非々の立場をとっており、もしそれで大学が良くなるならやっても良いと考えているように見えます。しかし、小生のささやかな経験からいうと、それこそ国立研究所の失敗の本質でした。いったん独法化を受け入れた後は、最初の約束がほとんど反故にされても、ずるずると譲歩を重ねざるを得なかったのです。
一方で、構成員が声を一つにして訴えたことは受け入れられました。官僚は相手の出方を注意深く見守り、値踏みを常にしているという印象でした。その意味で、教官の大多数を占める非組合員が今回声を上げることは、大きな意味があると思います。小生は移ってきたばかりで知り合いも少ないのですが、「不幸の手紙」風に、メールのネットワークが拡がることを願っています。どうかこれを受取られた方は、賛同してくれそうな同僚に転送して下さい。是非、5月18日に時計台で会いましょう。当日、職員組合が目印になる「有志の会」のプラカードを作って下さる予定です。
東大では多くの人が雑務や研究に追われていて、たとえ金曜日の昼休みとはいえ、時間を見つけるのは難しいかもしれません。しかしこの重要な節目に、今まで沈黙していた教官が独法化反対の声を学内に挙げることは、(仮に独法化されることになったとしても)大きな波になると思います。一緒に参加しましょう。
以 上
なお、集会の詳細はhttp://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/にあります。
(以下参考:本年4月に独法化した産総研などの例)
◆政策を立てる側にとっての自主・自律:
産業技術総合研究所(産総研)の場合、研究者自ら理事長を選ぶ権限は与えられず、しかも企画本部は理事長のトップダウンマネージメントの補佐機能と規定されており、このような組織の中では研究者が自主性・自律性を持つことは絶望的である。産総研HPにあるように「時代の要請の高い産業技術の研究分野に人的資源を集中的に投入したり、また横断的・融合的な新しい研究分野を推進する研究単位を機動的に立ち上げたりすることが可能になりました」と、"政策を立てる側"にとっての自主・自律となっている。大学にはこのようなピラミッド型の運営はなじまず、ネットワーク型の運営にすべきでないか。
◆バラ色の宣伝と不自由な中身(秘匿される不利な情報):
さらに、産総研HPによると、「独立行政法人化により国の機関としては避けられなかった定員や機構の管理から外れることになります。組織運営においても、会計法や国有財産法等の制約が除去され、(中略)予算費目や単年度会計制約の撤廃など、自由度が飛躍的に増加し・・」しかし、このことはそのまま額面通りには受け取れない。情報源にご迷惑がかかるので、詳しくは言えないが、見えないところで、所轄官庁からのみならず、行革推進本部からも2重の規制がかかっていることが伺える。
独法人において総事業費に占める人件費の割合は、前年度の実人員数の実績を元に上限が決められており、そのためか産総研の例ではほとんどの研究員の給与水準が減少するという予測がなされている。また、人員増は厳しく制限されていて、事実上不可能との信頼すべき情報があるが、これについても幹部限りの通達として、公開された情報の中では全く触れられていない。
またほとんどの独法人で収入の増加と、支出の減少が中期目標として挙げられている。ホームページには数字は記載されていないが、実際には外部評価が行われる5年後までに10%の経費節減を行うという具体的な「自主」目標が拒否できない形で約束させられている例が多い。都合の悪いことは伏せられている事が多く、大学が独法化される時にも同様の情報の秘匿が起こらないという保証は全く無い。
◆細部に宿る大きな矛盾:
外務省が4月に出した通達によると、独立行政法人は政府機関ではなくなるため、旧国立研究所は政府間の約束である科学技術協定に基づく海外研究機関との各種取り決めを終了するよう指導することになった。地質調査所はこれまで国の機関であったために、外国政府や私企業から無償でデータの提供を受けることができたし、その発表については国の機関としての重みを持っていたが、今後の見通しが立たない。これも最初の約束「独法人は国でしかやれないことを実施する機関」とした定義と大きく矛盾する。
これまで労働環境衛生は、人事院規則で承認ベースで行われていたものが、民間と同じく労働安全衛生法が適用されて許可ベースに変更になった。労働安全衛生法には職員の処分や事業所の営業停止などの罰則規定がある。上層部が処分を恐れる余り、過度の予防策を研究者に課しているケースがある。現状を改善することなしに、同様の基準を狭小な大学に適用したら、理科系の研究の何割かは停止せざるを得なくなるのでないか。
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浦辺徹郎
東京大学大学院理学系研究科教授
地球惑星科学専攻
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