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「成果主義の正体はノルマ押し付けだった」(週間ポスト 2001.5.4・11号)
2001.5.1 独行法反対首都圏ネット事務局
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週間ポスト 2001.5.4・11号
サラリーマン・サバイバル
「成果主義の正体はノルマ押し付けだった」
ブーイングで見直し企業が続出
富士通、日興証券、住友信託ほかの社員が訴えた!
成績低下で年収半額の社員も
日本企業は今、仕事の成果に応じて賃金や処遇を決める「成果主義」の導入を急いでいる。財団法人・社会経済生産性本部の調査によれば、すでに4社に1社が年俸制を導入しているという。この4月には、22万人の従業員を抱えるNTTグループが成果主義を導入し、流れはいよいよ加速している。が、一方で課題も浮かび上がっている。
大手企業ではいち早く、93年に成果主義を導入した富士通が、この4月、その評価方法の見直しに踏み切った。
各社員が半年ごとに目標を決め、その達成度を5段階で評価してボーナスや昇格に反映してきたものの、目標達成度を優先するあまりに、中長期的ビジョンが現場から出にくくなったのだという。「目標を達成した場合はA評価、できなかったらB以下の評価としてきましたが、目標を達成できなくとも、別の副次的な成果を生み出したり、中長期的な目標につながることもあります。そのようなケースでもA評価とできるようにしました」(同社広報室) ビジネスマンの実態に詳しい東京ガス都市生活研究所の西山昭彦所長は、富士通のジレンマをこう解説する。「日本の企業で一番欠けているのは、将来のビジョンを掲げて推進する人材だといわれます。ところが、現状の成果主義は、目先の数値目標の達成度を見るだけで、これでは社員は評価対象にならない長期的目標には取り組まない。だから富士通は評価方法を見直したのでしょう」
富士通の40代男性社員は、現場の本音をこう明かす。「目標を低く設定すれば達成しやすくなりますが、低い目標を掲げたこと自体がマイナス評価になるのではないかと心配で、上司との相談の場では、どうしても目一杯の目標を決めてしまう。真面目な社員ほど目先の仕事に追われて神経を擦り減らしています」
A評価を目指す社員が連日のように夜中まで残業を続けることから、同社の本社ビルは「丸の内の不夜城」という通り名までついた。評価方法の見直しで、そうした現状が変わるかどうかはまだ未知数だ。
同じように成果主義を積極的に進めている企業では、ノルマに追い回される苦しみを吐露する社員もいる。
管理職は年俸制、一般社員は基本給一律30万円に成果次第で決まるボーナスを加えて最大4倍の格差をつけた日興証券の現場からはこんな声があがる。「われわれの扱う商品で元本保証されているのは国債くらいだが、そうした商品ほど、売っても評価点数は低い。好成績を求めれば、どうしてもリスクが高くても会社にとっては利益があがる商品を客に売る営業をしたくなる。むしろ以前よりノルマに追われる日々だ。ある後輩は、そうした営業ができなくて成績が落ち込み、年収が2000万円から800万円になった」
(50代幹部社員)
やはり97年から幹部社員に年俸制を導入している住友信託銀行でも、目標の在り方に疑問の声が出ている。「上司と話し合って目標を決めるが、実績のある者ほど高い目標になり、結果として同期入社なら、目標の低かった者、つまり能力のない者の方が評価が高くなってしまう。出世が早いだけでは報われない」(40代中堅社員) 両社では「成果が報われる制度で社員には好評」(日興証券広報IR部)、「年俸に占める役割分担と成果部分のウエートを拡大するなど処遇制度の一層の整備を進めている」(住友信託銀行広報室)というが、現場の実情をみると、まだまだ改善すべき課題はあるのではないか。
成果主義と能力主義は違う
富士通同様、成果主義を見直す動きも広がっている。
企業向けソフトウェア最大手である独SAPの日本法人『SAPジャパン』(東京都千代田区)は昨年、評価項目に「顧客満足度」を盛り込む改革を行なった。理由はまさに、ノルマ優先の営業を見直すためだった。
宮脇彰秀(みやわきあきひで)バイスプレジデントはこう語る。「これまでは売り上げや利益率といった会社側の基準だけで従業員の評価を行なってきましたが、どれも満足のいくものではなかった。売り上げ拡大に偏重し、アフターケアを疎かにして"売りっぱなし"になる傾向があったし、巨額の報酬を手に辞めてしまう社員もいた。必ずしも企業全体の収益力にはつながっていなかったため、取引先企業の評価なども加えて『顧客満足度』を重視することにしました」 手直しするだけでなく、思い切って年俸制の廃止にまで立ち戻った企業もある。
医薬品メーカーの『沢井製薬』(大阪市)は昨年、管理職を対象に97年に導入した年俸制を撤廃、月給制に戻した。同社では、会社の業績に対して個人の成果がどう貢献したかという評価を確立させないままに米国流の制度を導入したため、評価基準を巡って社員の不信感が高まったという。 今は年俸制をやめ、成果と貢献度を連動させた新しい評価基準で、年2回のボーナスに差をつけている。 同社を含め、6000社のコンサルティングを手掛ける賃金管理研究所所長の弥富拓海(やとみたくみ)氏は、成果主義のあるべき姿についてこう提言する。「成果主義は、あくまで結果と、そこに至る仕事ぶりでみるべきです。ところが、多くの日本企業では、社員の能力で評価する能力主義と混同している。『行動力がある』とか『協調性が高い』というのは人物評価にすぎません。正当な評価には、社内でしか通用しない人物評価ではなく、ライバル社の社員と比較するなど、より広い視野でみる必要があります。
年齢や性別、学歴といった能力の"代用基準"でしか評価できない管理職が多いという問題もあります。社員同士の信頼関係を損なわないためにも、成果を正当に評価するためには何が必要か、企業は発想を大転換してもらいたい」 大競争時代に突入し、できる社員を評価する制度が進むことは自然の流れだ。だからこそ、企業にはさらなる努力と研究が求められている。