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<社説>社会の厳しい目を忘れずに
2001.4.15 [he-forum 1821] <社説>社会の厳しい目を忘れずに(毎日新聞)


<社説>社会の厳しい目を忘れずに


毎日新聞ニュース速報


 全国に約70万人いる研究者はいま特別な気持ちで研究開発に取り組んでいるに違いない。今年度から研究環境が大きく変わる可能性を秘めているのだから。


 科学技術基本法に基づく5年間の第2期科学技術基本計画が4月に動き出した。一方で科学技術政策の中心となる内閣府の総合科学技術会議が1月に発足している。


 何かと張り合った文部省と科学技術庁は文部科学省に統合された。大学や民間企業と共に研究開発の一翼を担う国立試験研究機関の多くは独立行政法人として再出発した。


 中でも総合科技会議の科学技術総合戦略に沿って閣議決定された第2期計画の意味は大きい。5年間の政府の研究開発投資額を24兆円とうたい、1996年度からの第1期計画の17兆円をはるかに上回る。


 研究開発投資の効果を上げようと重点的な資源配分を掲げた。科学研究費補助金や科学技術振興調整費など競争的資金の倍増を目指し、競争的資金を得た研究者が所属する研究機関には管理経費として30%の間接経費を上乗せする。研究者や研究機関間の競争が激しくなる。


 総合科技会議は資源の適切な配分のため研究開発の評価システムを改革する。研究者が幾ら研究費をもらってどんな成果を上げたかをつかむためデータベースも作るという。


 これらが狙い通り進めば効果は大きいが、気になる点も少なくない。最大の問題は基礎研究の中心となる国立大の施設が老朽化して狭いことだ。世界的な成果を上げる研究室ほど研究者や学生が集まって一層狭くなるという悪循環に陥っている。


 施設整備のために毎年3000億円近い予算が必要なのに、国立学校特別会計の枠内では今年度も1000億円程度しか出ない。文部科学省は施設整備計画を策定しているが、国立学校特別会計の見直しを含め抜本的解決を図ってほしい。


 縦割り行政排除のため総合科技会議が指導力を発揮することも大きな課題だろう。まず予算編成を横断的に行う必要がある。各省庁の研究開発予算を積み上げたら幾らになったというのでは全く意味がない。


 科学技術振興調整費については総合科技会議が活用や配分の方針を示しているが、予算要求や配分の実務は文部科学省が担っている。ここでもどれだけ文部科学省に直言できるかがカギを握る。


 第2期計画では科学技術に関する倫理と社会的責任の重要性も指摘した。生命科学の進展に伴う生命倫理の問題は大きい。総合科技会議と関係各省の連携が焦点になる。


 総合科技会議の責任は重い。来年度の概算要求にその意向をどれだけ反映できるかが

試金石となり、あと数カ月が特に重要だろう。


 有識者や関係閣僚の計14人の議員と70人余の事務局は、研究環境を活性化し、独創的研究を育てるために競争原理の導入や評価システムの確立に全力を挙げてほしい。
あらゆる分野の学者で構成する日本学術会議の協力を得ていく必要もある。


 資源の少ない日本で科学技術の振興に異論はなくても、科学技術行政や研究者を見る国民の目は厳しい。全国の研究者は社会に甘えず、自分たちの研究がどういう意味を持つのかを国民に分かりやすく説明する責任があることを自覚してほしい。
[2001-04-15-00:25]



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