独行法反対首都圏ネットワーク


大崎仁氏のスピーチの抜き書き

2001.3.27 [he-forum 1762] 大崎仁氏のスピーチの抜き書き


佐賀大学の豊島耕一です.

[reform:03384],[he-forum 1755]で紹介した大崎仁氏のスピーチの重要部分の抜き書きです.
先のメールでは「言葉の上では独法化を肯定しています」と書きましたが,よく見ると中立的な立場のようです.初めの部分に独立行政法人化について次のよう述べています.


「これがうまくいけば、二十一世紀に向かっての国立大学発展の大きな 契機となりますが、悪くすると、国立大学にとって大きな打撃となる恐れもまた否定しきれません。その意味で、国立大学は現在非常に大きな岐路に立っています。」


全文は次です.私の抜き書きが適切かどうかは全文を読まれてご判断下さい.

http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00c/29-oosaki.html


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『学士会会報』2001-INo.830p.38-51(平成12年7月21日学士会午餐会講演要旨)大崎仁(文部省国立学校財務センター所長)(臨教審当時の文部省の高等教育局長)「国立大学法人化への国際的視点」の抜き書き


=== 大学の法人格と国家機関性 ===


 大学が法人格を持つことが、その国立機関性を失わせるものでないことは、各国の状況を見れば極めて明白です。


 つまり、国立大学が法人格を持つということは、国立大学の自治的な運営を保障し強化するためのいわば法技術的な配慮であって、法人となることによって国家機関でなくなるといったような発想は、ヨーロッパ諸国にはありません。


 例えば、カリフォルニア大学は、州憲法で設立され、法人格を付与されている憲法上の機関です。(立法・行政・司法に並ぶ第4権に匹敵---これは豊島による注釈)
 国立大学の法人化間題が議論される際に、「アメリカは私学が中心だ」という人がおられますが、これも誤りでございます。アメリカでは、かっては確かに私学が中心でしたが、現時点では、学生数で申しますと四年制大学の七割が州立大学であり、三割が私立大学です。短大まで含めればもっと州立の比率が高くなる。ちょうど日本とは逆の状況です。


 法人化の検討において、国立大学の国家機関性にこだわりますのは、そこに制度設計の基本的な問題が潜んでいるからです。どこの国でも社会に必要な高度な教育・研究を行う大学については、国家・社会の基本的な基盤として国家が責任を持つという姿勢に揺るぎはありません。わが国だけが、いわゆる民営化路線に流されることは、最近強調されている大学の国際通用性、国際競争力にとって、致命的なダメッジとなると考えるからです。


=== 市場化論と学生負担 ===


 一九九七年に、今後二十年間のイギリスの大学政策を政府に勧告した「デアリング・リポート」が出されましたが、・・・(中略)・・・経費を負担すべきいわゆる受益者として、学生・家族、卒業生の雇用者が挙げられていますが、同時に社会全体が受益者であり、それを代表する政府が、資金面で責任を持たなければならないという基本認識は、変わっていません。


 学生負担の問題を考えると、平成十二年度の日本の国立大学の授業料は、............各国の国公立大学の学生の学費負担に比べて、最高水準の額です。


 フランスでも授業料は無償であり、学生登録料として、年二、三万円程度の額を取っているに過ぎません。
 アメリカは、高額の授業料を取っていると思われるかもしれませんが、州立大学の平均は約三十五万円で、日本よりは低額です。専門により差をつけるということもありません。


 申し上げたいことは、日本の大学について学生の学費負担をこれ以上強化するというようなことは、国際的観点からは考えられない。


===独立行政法人制度の問題点===


 この制度のヒントとなったのは、イギリスの「エージェンシー制度」だといわれます。・・・・ イギリスのエージェンシーは、省庁の内部組織であって法人ではありません・・・・・


 組織の長に仕事を任せるという部分だけを取り上げれぼ、法人の自由度は大きいように見えますが、その前提となる達成目標の決定は主務大臣が行い、目標達成のための実施計画も主務大臣の認可が必要ですから、決められた枠内での、目標達成プロセスだけ一任するという、完全なトップ・ダウンの構造です。


=== 国の政策と大学自治の調和 ===


 例えば、先ほど申し上げたようにイギリスでは、大学への資金交付機関を自主牲の強いUGCから、ファンディング・カウンシルに代え、大学への資金配分に政府の政策が反映しやすくしました。それでも、政府が、個別大学への資金配分に口を出すことは、法律で禁じられています。


=== 各国の大学評価 ===


 イギリスでは、・・・教育費については、学生数を基礎とした算定方式により、各大学への配分額が決められます。また、特別資金は、特定目的のために大学からの申請を審査して配分されます。これに対して、日本の教官当たり積算校費に相当する研究費は、各大学の研究水準により、差を付けて傾斜配分をします。


 フランスでも、全国大学評価委員会という大統領直属の独立機関をつくり、大学評価を行っています。評価は個々の大学の求めに応じて行われ、評価の結果により個別大学への勧告はしますが、それが政府の資金配分等に影響するというようなことはありません。


=== 評価の制度設計の方向 ===


 独立行政法人通則法が要求する法人評価が各国の大学評価と違っているのは、評価の対象が大学運営の全体にかかわる目標達成度であり、その内容は、目標の設定の仕方により大きく左右される。しかも評価結果が、どのような措置につながるかは、主務大臣の判断にゆだねられているという点です。

 このような大学評価のあり方は、国際的にも例がありません。


=== 法人化と大学自治の再構築 ===


・・・・・国立大学協会をはじめ大学サイドから、新しい大学自治の構築という明確な問題意識を持った真剣な動きが、法制を離れても出てまいりませんと、法人化の最大の狙いであるべき大学の自主、自律の強化も大学の主体性の確立も危うくなりはしないかと心配でございます。

(以上)


豊島耕一

TOYOSHIMA Kouichi
http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp
phone/fax: +81 952-28-8845



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