独行法反対首都圏ネットワーク


国立大学の法人化の場合最低限盛り込まれるべき諸原則
一橋大学社会学研究科教授会見解
2001.3.24 [he-forum 1752] 一橋大学社会学研究科教授会見解

    国立大学の法人化の場合最低限盛り込まれるべき諸原則


           2001.03.14.一橋大学社会学研究科教授会


 現在文部省の調査検討会議では、大学の独立行政法人化を具体化すべく「中間報告」の作成が進んでいる。この取りまとめは当初今秋に予定されていたが、早まる模様でもある。またこれに並行して国大協も法人化に対して独自の検討を進め、2月7日付には、「国立大学法人の枠組みについての試案」(いわゆる長尾試案)という形で大学の法人化に際しての諸原則を提案した。こうした大学法人化のあり方の基本骨格に関する検討が進む中、東京大学もかかる法人化に際して貫かれるべき原則を5条件という形で提起している。
 こうした情勢を受けて、本学でも、独法化に関するワーキンググループが文部省の「検討の方向」に示された独法化を前提としてその具体的問題点を検討した第1次報告をまとめ公表したところであるが、それとは別に、「検討の方向」を離れて、あるべき国立大学の法人化の枠組みの原則を検討し提案することは、現在の段階では極めて有意義であり、かつ必要と考える。
 そこで、社会学研究科は、国立大学を法人化する場合には採用さるべき原則を本学が独自に取りまとめ、文部科学省並びに国大協にたいし提言することを提案したい。
 そのため、本研究科は、以下に国立大学法人化に際しては是非とも採用さるべきと考える諸原則を提案し、本学がかかる提言を行うことに貢献できれば、と考えた。
 その際、提示すべき諸原則は、独立行政法人通則法に代わる国立大学法人化法という形で法律化することが望ましいと考えられるため、以下では法人化法に盛り込む諸点という形で提案したい。


1 国立大学法人化の目的の明記

 国立大学法人化法には、国立大学は、学問の自由と大学の自治のもと、従来の形態以上に自主的・自律的な意思決定の範囲を拡大することにより、教育研究の一層の発展に資する目的で法人化すること、すなわち独立行政法人通則法の法人化目的とは根本的に異なる目的を持ったものであることを明記すべきである。


2 国立大学法人の基本形態

 国立大学法人は、上記の目的に資するため、各大学の多様な発展をより開花させられるよう、原則として一大学一法人となることを明記する。
 また上記のような大学の法人化の持つ目的の特殊性にかんがみ、大学法人においては、教学と経営は一体として運営されるものとするのみならず、経営は、あくまで教学上の目的の、より十全な達成の見地からのみなされるべきことを、法に明記する。


3 中期的な目標・計画の策定について

 国立大学の運営に際しても、明確な教学上の目標と計画をもって運営することは望ましいので、大学の目的達成に資するように、中期的な目標・計画を作成して大学が活動することは認められるべきであるが、大学法人にふさわしく、以下の諸条件に従うべきことを明記すべきである。
(1)大学の中期的な目標並びに計画は、あくまで各大学の建学の精神並びにこれまでの歴史と伝統に裏打ちされ民主的に合意を見た、長期にわたる目標に沿って立てられるべきであることを謳う。そのために各大学法人は、おのおのの長期目標を、大学憲章など、何らかの形で、民主的に決定し公表することを、法において義務づける。
(2)中期的な目標と計画の期間については、大学法人の特殊な性格にかんがみ、大学の学生が2巡する8年を基準に、各大学ごとに柔軟に決定できるようにする旨、法で規定するべきである。
(3)また大学の中期的な目標や計画は、通例の独立行政法人がもつとされる目標・計画とは根本的に異なることをふまえ、その目標・計画の持つ固有の性格が、法で明記されるべきである。たとえば、「中期的な目標と計画は、大学の教育研究が非定量的性格を有し、経済的効率性に必ずしもなじまない点を考慮して立てられなければならない」という形が考えられる。(なお当然に、大学の中期目標、中期計画の中に「業務運営の効率化」等を定めるとした、通則法の29−2、30−2の考えは採用されない)。
(4)上記の大学の目標・計画の性格から当然のことであるが、大学においては、中期的な目標は、大学自身が決定し、主務大臣の承認を受けるとすることが、法で明記されるべきである。
 また計画は、かかる目標に基づいて大学が自主的に決定し、主務大臣は、その計画に対しては、後に述べる独立の評価機関の意をふまえて意見を述べることができるにとどまるものとする。


4 外部評価について

 大学法人の活動に対する国民のチェックは、必要なものである。したがって、大学は、何らかの形で公正な外部評価にさらされる必要がある。しかし、それは大学という自主的な教育研究機関にふさわしいものであることが必要であり、大学に時々の社会の要請を強制したり過度に競争を喚起させる梃子となるようなものであってはならない。外部評価は、大学自身が状況を広い視野から点検し、教育研究を一層改善する示唆を与えるものであることが求められる。そのために、大学に対する外部評価に際しては、以下の諸原則が、法に明記される必要がある。
(1)通則法の想定するように、評価委員会という主務大臣の設置する機関が評価を行うことは、大学の自主性にとって致命的な影響をもたらしかねないところから、大学の外部評価機関としては、独立の第三者機関を設け、その意思を文部科学省のもとに置かれる大学評価委員会は尊重するという形をとることが望ましい。
 また、大学評価委員会は、大学の教育研究の特殊性にかんがみ、評価委員会の構成に、現役の教育研究に携わる大学人を必ず過半数いれることを定めることが必要である。
(2)大学評価委員会がその意見を尊重すべき独立第三者機関としては、国立大学協会の組織の改組が望ましいが、これを現行の大学評価・学位授与機構の改組で充てることも考えられる。いずれの場合にも、この機関は以下の諸点を充足することが求められる。
 (a)大学の評価に際しては、大学の自主評価を基礎にすべきである。
 (b)新たな機関は現に教育研究に携わる大学人が過半数となる構成であることが必要である。
 (c)また、この機関は、大学評価についての基準を民主的に決定し、公表することが義務づけられる。


5 大学への運営費の配分と中期的な計画・評価の関係について

 大学財政は、大学の自主的・自律的運営を確保するかなめとなるものである。
そこで以下の諸点が法には明記されるべきである。
(1)現在文部科学省等の構想では、大学の研究教育を効率化する梃子として、大学間の競争的環境を促進するため、中期計画の実績に対する評価と運営費交付金をリンクさせる構想が進んでいるが、これはいたずらに大学間の競争を煽り格差を拡大する怖れが強いため、好ましくない。そこで、評価と大学運営経費の配分とは峻別することを、法で明記すべきである。
(2)大学の運営経費や施設整備費の配分については、各大学の学生数・教官数等に応じた、できる限り客観的・一義的基準による配分の部分の比重を高めることを規定する。
 また、現状と中期的な計画に基づく傾斜的配分部分については、独立の大学財政委員会というような、独立の第三者機関の審査による順位付けにもとづいて配分がなされるべきであることを規定する。
(3)なお、大学の運営経費の配分に際しては、大学の教育研究を支援するに不可欠でありながら現行制度のもとでは削減が続いている職員数が十分に確保されるよう保障することを、法で明記することが必要である。
(4)大学財政委員会等の第三者機関は、各大学に客観的一義的に支給する配分部分の基準、並びに中期的な計画に基づく運営経費等の支給原則について、ガイドラインを作成し、公表することを義務づけられる。またこのガイドラインは、定期的に見直しがされることが明記されるべきである。


6 法人化後の大学の管理運営の原則について

 法人化した場合の大学の意思決定・管理運営システムについても、上記の大学法人化の目的に沿った制度設計を行うことが必要である。
(1)学長人事については、従来の大学の慣行にのっとり、教育研究に責任を負う構成員の直接選挙により指名されたものを文部科学大臣が任命すると明記する。ただし上記原則の枠内で、各大学の長期目標や伝統にみあって、個性ある選出法を認めることを、法に明記する。
(2)副学長人事についても、大学の自主的決定権を認めることが求められる。
 また、現在文部科学省等で検討されている学外者の選定は義務づけられない。
(3)法人化後の大学運営においては、従来以上に大学の民主的な総意を反映したものとするため、意思決定機関としての評議会・教授会の役割を明記することが必要である。
 また、評議会の議をふまえた執行機関として、部局長会議を置くことを明記する。なお、運営会議は学長の補佐機関である旨明記する。
(4)大学運営にあたっては、大学の教育研究の主体である学生・院生、また大学における教育研究を支援する事務職員等の意見を反映して行うべきことを、法で明記する。
(5)大学運営諮問会議の役割は、大学を社会の側から見つめ、そのあり方に意見を述べる諮問機関であることを明記する。

目次に戻る

東職ホームページに戻る