独行法反対首都圏ネットワーク


宮脇 淳  氏の講演「独立行政法人化の実態と課題」
2001.3.2 [he-forum 1696] 宮脇淳氏の講演


神沼 公三郎(北大演習林)です。

 さる2月28日に開催された北大演習林の年度報告会の席上、宮脇淳氏(北大法学研究科)に講演をしていただきました。
 その際に走り書きした私のメモをたよりに、文章化しました。メモに基づく文章ですので、部分的には私の思い違いなどがあるかもしれませんが、大枠ではほぼ間違いないと思います。ご一読いただければ幸いです。


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一、宮脇 淳  氏の講演「独立行政法人化の実態と課題」
一、2001年2月28日(水)
一、於.北大


                          (文責:神沼 公三郎)


1.独立行政法人制度創設の背景

 今日、行政改革が行われている最大の原因は財政危機である。国と地方の借金は670兆円ぐらいといわれているが、これは公表数字であって、実際には1,000兆円近くになっている。今後10年間が借金返済のピークに当たり、その期間の予算が非常に苦しい。
 数年前に橋本行革が始まったときの趣旨は、民間のやり方を行政機関に導入しようということだった。行革の方向性をコントロールしているのは中央の経済界なので、どうしても民間の発想が行革を引っ張ることになり、そこで公務員数の削減が最大課題になってくる。
 こういう動きのなかで、国立大学も行革の議論につかまることになったが、その原因としては国立学校特別会計の赤字問題も大きい。国立学校特別会計の借金はおよそ1兆5,000億円ほどになっている。新しい施設建設や大学病院の機器購入などに際して財政投融資資金から借りたものなどが、借金の中心である。
 行革に当たり@防衛庁職員は対象外にされ、A郵政は公社化、B国立病院は独法化の方向が決まり、C国立大学の問題が残った。国立大学の方向性に決着がつくと、公務員削減問題は一段落する。しかし国立大学の独法化問題については、文部省(文部科学省)も国立大学も対応が遅れた。
 国立大学に対する国民の信頼が低下していることも大きい。各地域では信頼があっても、それが中央までは届いていない。国民の信頼を得るためのノウハウを身につけて国民に国立大学を説明し、信頼を回復する必要がある。


2.独立行政法人制度の概要

 国立大学の職員数は非常に多い。独法化されると総定員法の枠からはずれるが、国家公務員型の独法(特定独立行政法人)になった場合、人員を毎年、国会に報告しなければならないので、国による定数管理は事実上、続くことになる。
 国立大学が独法になると国立学校特別会計は廃止になる。だが、廃止になると大きな問題も発生する。国立大学の抱えている借金をどうするのかということが問題になってくるし、授業料をどうするかということもある。特別会計が廃止になると、独法化された国立大学は授業料を大学独自で決められることになるが、これについて文部科学省は否定的だ。もし独法の国立大学が授業料を安くして学生を多く集めようとすると、私立大学が学生を集められなくなり、私立大学がいくつ生き残れるかという問題になる。こういう具合に、特別会計の廃止に伴うネジレ問題が出てくる。
 独法化されると独立した法人格を持って、自由にものを決めることが出来るが、その一方で責任を持たなければならない。赤字が発生したら、各法人がそれを処理しなければならない。資産は独法の国立大学に移行する。つまり国が資本金として出資することになり、国有財産法の対象外になる。これが基本だが、借金があるので、すべての資産が移行するかどうかはわからない。一部は移行しないこともあり得る。また99国立大学間に資産の格差があるので、独法化する際に資産の大きい大学から小さい大学に拠出するという話も出てくるだろう。また資産は各大学が自由に処分できない。あらかじめ資産処分を中期計画に盛り込んでおき、そして文部科学省、実質的には財務省と相談しなければならない。こんなわけで、資産については独法になっても何が変わるのかわからなくなるが、ただ国有財産法の規定からははずれることにはなる。
 大学の資産を確定する場合、土地も図書館の蔵書も対象になる。土地のなかで演習林の土地はそれほどの資産ではないと思うが、大学全体の資産評価は大変だ。例えば図書館にある数十万冊の蔵書に一冊一冊、値段をつけなければならない。
 中期計画は主務大臣が決定する。現在は各国立大学とも計画は持っていないが、名古屋大学は対応が早い。
 独法に移行したあと、第1期の中期計画期間内は、資産を除いて現在の国立大学の姿とほとんど同じだが、問題は第1期、第2期の中期計画が終わるときである。
中期計画の終わるときに厳しい評価を受けるので、独法に移行して5年後、10年後には大きくさまがわりする。5年後、10年後に向けて体力をつけておく必要がある。
 独法の予算は運営費交付金と施設費である。施設費は事実上の補助金であり、補助金適正化法の適用を受けて、同法の規制対象になる。運営費交付金は本当に自由に使えるかどうかが問題である。自由に使えるためには、財務省との関係をかなりかえなければならない。また独法大学の収入が増えると運営費交付金が少なくなる。
さらには、運営費交付金を各大学内でどのように配分するのかも大きな問題だ。
 大学への評価は3つに分かれる。@管理費関係の評価、A研究に関する評価、B教育に関する評価であり、この全体が大学に対する評価になる。
 外部監査は公認会計士によって行われる。資産100億円以上の独法機関が公認会計士の監査を受けるが、北大は該当するだろう。4月から独法に移行する機関のなかにも資産100億円以上がかなりある。独法機関の監査は、公認会計士にとって新しいビジネスになっている。公認会計士は、その監査を厳正に実施しないと問題を起こすことになり、場合によってはあとで訴訟を起こされたりするので、非常にまじめに、厳しく取り組むようである。
 人員管理では、例えば北大が独法になったとして、他大学との事務官の人事交流をどうするのか、問題になるだろう。地域単位でセンターをつくって、センターの管理のもとに法人間の人事交流をやっていくことなどが考えられる。


3.最近の情勢

 中央省庁等改革推進本部は今年の6月で廃止(時限)になるが、すでに総務省のなかに政策評価・独立行政法人評価委員会ができていて、これが独立行政法人全体の評価を行うことになっている。
 今年における独立行政法人問題の第一の山場は、3月末に来る。橋本龍太郎氏が行革担当大臣になったが、そのもとで行革推進本部が3月末に「今後の行革の方向性についてのとりまとめ」を出すからだ。「とりまとめ」のなかでは特殊法人の組織改革が取り上げられる。大枠ではすでに@特殊法人の廃止、A民営化、B独法化、Cその他、という線が出されている。Cその他は、例えばNHKのような特殊な機
関を想定している。
 この4月に58の独法機関が誕生するが、これは通則法による。国立大学は通則法では無理であるという解釈が政府部内にあるので、すでに政府部内では第2独立行政法人(仮称)の法律策定作業に入りつつある。第2独法の枠組みによって国立大学の法人化を検討しようというものだ。
 そもそも独法化の議論が始まったとき、国立大学を対象にしようということではなかった。総務省も国立大学を通則法にあてはめるのは無理だと考えている。しかし、それ以上にいまは大きな政治的うねりがあり、国立大学関係者が独法化問題について良いか悪いかという議論を繰り返しているうちに、外堀がどんどん埋められてしまっている。
 国大協ではすでに3年間、検討を重ねてきた。国立大学が独法に移行するのか、独法ではない法人になるのか、あるいは国立のままか、選択はその3つだが、議論はそこから先に進んでいない。それは、99国立大学の性格も立地の場所も違うので、利害が全く一致しないからだ。最後まで利害が一致しない場合、現在の国立のままという選択肢もある。だが2001年度に入り、国大協の対応が変わってくると思われ
る。なぜなら国立のままというのは説得力がないからである。
 文部科学省の調査検討会議は5月の連休明けに中間報告を出すだろう。予定よりも少し早まることになるが、それは橋本龍太郎大臣のもとにおける行革推進本部の動きとの関連だ。しかし連休明けに出される調査検討会議の中間報告は、内容的には具体的に詰められているものの、実際は抽象的な表現になる。それは、夏に参議院選挙があるからだ。そして9月か10月には具体的な表現の報告が出てくる。だが、9月(か10月)の報告は参議院選挙の結果に左右されることはない。国会では与野党が行革に合意しているため、大きな流れは変えようがないからだ。いま国立大学の応援団はほとんどいないといえる。
 いずれにしても、この1年間で国立大学の独法化に関する枠組みが決まる。それに較べると、いままで2年間の経過はよくわからないものだった。


(質問に答えて)国立大学の存在意義を強調する場合、何よりもそれを国民に訴えることが大切だ。国立大学内部で強調していても効果はない。また各大学はそれぞれ地域と密接な関係をもつことが重要だ。

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神沼 公三郎(かぬま きんざぶろう)


北海道大学農学部附属演習林

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