トップの本音 ざっくばらん
2001.3.10 [he-forum 1712] 札幌タイムス3/7
『札幌タイムス』2001年3月7日付
トップの本音 ざっくばらん
研究成果の社会還元へ環境作り
今夏で開学百二十五周年を迎える北海道大学の次期学長に、憲法学者の中村睦男北大教授(六二)が二月に選出された。任期は五月一日からの四年。国立大学は二〇〇四年に独立行政法人に移行する可能性があり、中村氏はまさに国立大学の大転換期に難しい舵(かじ)取りを迫られることになる。一方、国会では衆参両院の憲法調査会が憲法の検討を始めている。同氏は憲法を約四十年研究し、日本でも著名な憲法学者の一人とされる。国立大学の改革、日本の最高法規の見直しに直面している今、法に熟知した北大のトップとして、オピニオンリーダーの役割も期待されている。(俵箭秀樹記者)
北海道大学次期学長
中村 睦男さん
―次期学長選出の弁で、大学は社会的責任を果たすべきと言いましたが。
「先端科学技術共同研究センターや道産学官協働センターなどを主導役に産学共同で、大学の研究成果を積極的に社会で活用していくべきです。研究成果の社会還元は、個々の教授や研究室が推進していますが、大学としてはそうした動きの環境を整える配慮が求められます。さらに、二〇〇四年には、国立大学が独立行政法人に移行する可能性があります。四年の任期がちょうど独立行政法人への移行期に重なりそうです」
―そういう意味では、移行期の舵(かじ)取りが難しいですが。
「そうですね。まず今は、国の制度がどうなるかが最大の焦点です。いわゆる独立行政法人通則法そのものが国立大学に適用されては困る。私たちはそう主張しています。なぜなら、通則法は国が目標を立てます。大学では五年ごとに中期計画を立てる。ところが中期計画は国の承認が必要になる。そうなると、大学の自治、学問の自由が脅かされる恐れがあります。やはり大学の研究・教育は、研究者各人の創意工夫や自由な発想が尊重されなくてはなりません。しかし、通則法が適用されると、国が目標を立て計画を承認して、大学は単に執行する機関になってしまう。これでは問題があるので、われわれは大学に決定権を残してほしいと言っています」
―国立大学がどういう形態になるかは、もうしばらくで見えてくる。
「今年中には、かなり明らかになってくると考えています。北大がどう対応するかは、制度の細部が具体化してからですね。ただ、北大は今年で百二十五周年を迎えます。道内景気が沈滞している中で、北大自身も前向きに優れた人材を育てて本道をけん引していかなくてはなりません。民間資金を導入した研究費では、中央の大学が有利です。となると、地方の国立大学は国に研究費の支援を期待せざるを得ない。学問の自由を保ちつつ、国の支援も訴え続けなければなりません」
―さて、衆参両院で憲法調査会を開いていますが、憲法改正については。
「最大の焦点は、憲法九条を改正するかどうかですね。私は戦後五十年、九条があったから日本が平和国家として国際的にも承認され、国内的には軍事費の支出を押さえて経済発展に寄与してきたと考えています。確かに、九条があるにも関わらず、自衛隊が言わば闇で存在していた事実はあるのです。ですが今、九条は国際協力との関係が問題ですね。私は、専守防衛の自衛隊を認める政府見解で良いと思う。問題は国際協力のために自衛隊を外国へ出せるかどうかです。一つの考え方は、平和維持軍など国際協力に限って、自衛隊が他国へ
出られるよう憲法改正するかどうかです。そして九条二項は変えるべきではない」
―憲法は議会制民主主義を採っていますが、うまく機能していると思いますか。
「日本でも、重要な政治問題は国民投票に掛けるべきだという議論がありますね。日本で住民投票はありますが、国民投票はまだ無い。また、首相公選制が出ています。公選制の意見が出る原因は、現在の政権党が首相にふさわしい人物を選んでいないことに最大の問題があるからですね。ただ、首相を大統領型にすると象徴天皇との関係が難しくなりますね」
―厳格な要件で改正する硬性憲法ですが、改正手続きも厳しいのでは。
「フランスやドイツの憲法改正は緩やかですが、日本は硬い方ですね。ただ、現代に合わないから憲法改正だという見解は、どの点が時代に合わないのか説得力に欠けているのでは。例えば、自衛権の延長として自衛隊を認めるとなれば、現実と憲法の矛盾は小さい。現行憲法でも、社会権、環境権などの基本的人権にまだまだ対応できます。ただ、日本の違憲立法審査権は消極的ですね」
―最後に日本人の人権思想については。
「外国人の人権や政教分離、生存権、プライバシーの権利と報道の自由との調整などで難しい問題が残っています」
プロフィル
1939年2月7日、札幌市生まれ。北大法学部卒。憲法学者。65年から67年までフランス留学。70年同大助教授、74年同教授。今年2月北大学長選挙で次期第16代学長に選出。任期は今年5月1日から4年。息子2人娘1人の5人家族、孫1人。好きな事は学生と飲み交わし憲法談義。モットーは「熟慮断行」。著書に「憲法30講」(青林書院)、「論点憲法教室」(有斐閣)など多数。みずがめ座。血液型はO型
大 学
1876年開学。現学長は丹保憲仁氏。今年8月で125周年。学部生約1万1000人、大学院生約5000人。教職員約4000人。所在地は札幌市北区北8西5。
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