東職声明
「東京大学が法人格をもつとした場合に
満たされるべき基本的な条件」について
2001年3月14日
東京大学職員組合
東京大学評議会は2月20日、「東京大学が法人格をもつとした場合に満たされるべき基本的な条件」(以下、「条件」と略)を承認した。これは、昨年10月に設置された「21世紀学術経営戦略会議(UT21会議、座長は蓮實総長)」で合意を得た成案を、ほぼ原案通りに了承したものである。
文部科学省や国大協で法人化の枠組みが検討されている現在、「条件」の第1項が「東京大学の法人化を定める法律は・・・『独立行政法人通則法』とは異なるものでなければならない」と明確に通則法を退け、それとは異なる法律を追求している点は重要である。今後とも、法人化の議論では、いかなる形であれ通則法の枠組み=独立行政法人の骨格を受け入れたり、前提にしたりすることがあってはならない。
第2項で総長を「教授等教育研究に責任を負う構成員の選挙によって選ぶ」と言明し、評議会についても「最高の意思決定機関」として位置づけている点は、大学自治を基本とした従来の慣行を守る姿勢を示したと言える。この点については、現在の法体系(国立学校設置法などの規定)にとらわれずに大学としての見識を示したと言え、評価できよう。
また、この項では、「第三者を含む会議体の設置などにより、大学運営の透明性を高める必要がある」とも述べられている。大学運営にとっての「第三者」とは判然としないが、この「会議体」については、評議会など従来の学内機関との関係も含めて、その役割と権限などの内容を明らかにすべきであろう。
さらに第3項では、なお曖昧な点を含むものの、「長期的展望に立って本学の目指すべき理念および目標を定めた東京大学憲章を制定し、これに立脚して中期的な活動の目標および計画(5年ないし8年)を策定するものとする。東京大学の活動に関する評価は、この目標および計画の達成度に即して行われなければならない」として、文部科学省との協議なく、自ら活動目標と計画を決めることとしている。大学としての自律性と自主性を示すものと言えよう。ただ、評価問題に関しては、これが「達成度」の名のもとに、数値化された定量的評価に道を開く危険性を内包しており、評価の主体も明確ではない。評価制度については、なお慎重な検討が必要である。
第4項では、「設置者である国によって中長期的な安定的財政基盤が保障されなければならない」と積極的に主張している点も評価できる。ただし、「競争的研究資金の充実・拡大が図られるべき」というのは議論の残る点である。競争的資金の充実が、自動的に「教育研究の高度化を促す」ことにはならない。競争的資金の活用は、あくまで、基盤的経費の平等な保障を前提とした上でこそ有効となるであろう。
教職員の身分に関わる第5項は、教員については「教育公務員特例法の仕組みを引続き維持する」としている点は評価できる。それは、教員の研究教育の自由を保障するうえで、不可欠の仕組みであるからである。職員については、「東京大学の活力を維持するに相応しい人事システムの構築が必要」と言うに止まり、その内容は示されていない。また、国家公務員身分をどう考えるのかについての記述も無い。私たちは、この点に関する真剣な取り組みが欠けているのではないか、と危惧する。これは、大学の法人化にあたっての最大の問題のひとつであり、今後職員組合との真摯な協議を行なうことを私たちは要求したい。
法人化不可避との観測が支配的である現在、東京大学が、大学自治にとって原則的な点も踏まえて「条件」をまとめ、公表したことについては積極的に評価できよう。
他方、この文書は、「この基本的条件が満たされれば東京大学は法人格をもつ」と決めたわけではなく、また「この条件の一つでも欠ければ法人格をもつことを拒否する」と決定したわけではないと説明されている。また「将来の評議会を拘束するものでもない」とも言われている。(以上、『学内広報』2/26、1208号)
しかし、法人化をめぐる今日の情勢から見れば、このような微温的な留保をつけるべきではない。この「条件」を東京大学の法人化に関する原則的な立場として確認し、安易な妥協を図ることのないようにすべきである。
さらに、青山副学長の記者会見では、UT21会議が「国立大学法人法案大綱」も検討課題としていると述べられている(『日本経済新聞』2月21日付)。これについては既知の事柄ではあるが、検討の内容と経緯をすみやかに教職員に公開し、東京大学の各構成員からも意見を汲み上げるよう、改めて要求する。
一方、長尾京都大学総長を委員長とする国大協の設置形態検討特別委員会は、2月7日付で「国立大学法人の枠組についての試案」(いわゆる「長尾試案」)を全国の国立大学に発送した。私たちは、この「長尾試案」は、東京大学の「条件」に照らして見ても、きわめて大きな問題点を持つと考えている。上記の特別委員会をはじめ国大協は、少なくとも東京大学の「条件」の手がかりとして、「長尾試案」を修正すべきである。そして、国大協が本来の大学の在り方を正面から見据え、ただちに「長尾試案」を再検討するよう、東京大学としても尽力すべきである。
<<参考>>
2001年2月20日
東京大学が法人格をもつとした場合に満たされるべき基本的な条件
(略)