独行法反対首都圏ネットワーク
研究成果を社会還元 医学と工学の融合期待
2001.1.26 [he-forum 1596] 読売新聞山梨版1/24

『読売新聞』山梨版2001年1月24日付

研究成果を社会還元 医学と工学の融合期待

 伊藤洋・山梨TLO会長に聞く

 昨年八月に山梨大、山梨医科大の教官百二十人が出資して設立された「山梨TLO」(技術移転機関)。人事院から兼業の許可を得て会長に就任した山梨大の伊藤洋工学部長に、山梨TLOの役割、大学に与える影響などを聞いた。

 ――山梨TLOの設立の意義をどうとらえるか。

 「日本経済再生に向けてかかる期待だけでなく、大学の存在自体が試されているといっていい。日本の大学の教養主義には限界がある。今後、納税者から国立大学を置いてもいいと思われるだけの成果が必要だ。国に全面的に依存した財政運営から脱皮し、大学が自活する道でもある。独立行政法人化を前に、当然打っておくべき対策だ」

 ――現在の段階は。

 「特許の出願に向け、商品のラインアップを盛んに行っている段階。ショーウインドウに何を並べるか、十二件ほど社内で判定会議をしている。今年度中には数件の商品を提供できる」

 ――研究者に変化はみられるか。

 「これまで研究者は難しい論文を書いていればいいという意識があったが、これからは知的資産が市場で金額として評価される。社会的な還元が必要だとの意識は浸透し始めている。研究者にとって自分の研究成果が実用化されるのは大きな喜び。TLOでなくとも研究成果を生かせる場合はどんどん外に出ていってほしい」

 ――学生の意識の変革も必要ですね。

 「規格化された知識を得るだけではだめ。IT(情報技術)化が進み、社会の変化が大きくなると、大学で習得した知識や技術はすぐに陳腐化してしまう。情報処理系の学科の卒業後の“賞味期限”は約四年半、最も長いといわれる土木建築でも約八年とされる。常にリカレント教育を行う必要がある。大学は高校生の受け入れ機関ではなく、社会人に向かって大きく門戸を広げている。大学院入試では、受験資格の学部・学科指定を廃止した。今年からは博士課程の募集要項は民間企業に配っている」

 ――山梨医科大との統合協議も進んでいるが。

 「ゲノムの解析や様々な画像処理など今の医療技術は工学とは切り離せない。工学から見れば医学分野は応用する分野として魅力的だ。医学でも我々の技術は魅力的だろう。今後は、学際領域を拡張する必要がある。二〇〇二年四月に発足予定の独立研究科にも医工学、生物工学分野を設ける予定だ。TLOにとってみれば、機械や電気など既存の分野は成長の限界があるが、医工学、生物工学は知的資産が今後期待できる分野。医学と工学が融合し発展することは、TLOの商売という点からも魅力がある」

 メモ TLOは英語の「Technology Licensing Organization」の略。一九九八年八月に施行された「大学等技術移転促進法」に基づき設置が可能になった。大学の研究成果を譲り受けて特許を出願・取得し、企業に技術移転する。特許の譲渡金やロイヤルティーなどで運営し、収益は研究者や大学などにも還元される。現在全国で十七のTLOがある。

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