科学技術計画―博士よ、社会に出よう
2000.12.12 [he-forum 1503] 科学技術計画―博士よ、社会に出よう(朝日新聞)
科学技術計画―博士よ、社会に出よう
朝日新聞ニュース速報
二十一世紀初めの科学技術政策の方向を示す基本計画の原案ができた。
十三日まで一般から意見を募ったうえで、科学技術会議が年内に森喜朗首相に答申する。
一九九五年に科学技術基本法ができ、これに基づき第一期の科学技術基本計画がつくられた。目玉は、五年間で十七兆円を投じるという数値目標が盛り込まれたことだった。
目標額は達成された。これで研究開発は活性化しつつあると、科学技術会議はみる。
しかし、多くが補正予算として計上され、短期間での消化を義務づけられたため、とりあえず高額の機器を買い込んだだけ、といったところが少なくない。一方で、国立大学の老朽施設の改善は遅々として進まない。一線の研究者からは、せっかくの資金が最善の形で使えないという不満が出ている。
第二期計画にまず求められるのは、資金を効率的に使い、目に見える成果に結びつける仕組み作りだろう。それには、法律、制度、慣行など、研究の活性化を阻んでいるものを洗い出し、変えていかなければならない。
計画案でも、システムの改革を目標に掲げてはいる。競争的な研究開発環境の整備、人材の流動性の向上、若手研究者の自立性の確保、評価システムの改革などをうたう。産・学・官の連携強化やハイテクベンチャー企業の活性化なども盛ってある。
問題は、これらをどうやって実現していくのか、その道筋が明確でないことである。
例えば、研究者の任期制については「広範な定着に努める」としている。国立大では法律上すでに導入が可能だ。それでも広まらないのはなぜか。改善に何が必要か。そうした分析抜きで努力を求めても心もとない。
助教授や助手が教授から独立して活躍できるようにする。その必要性を指摘したのはもっともだが、「制度改正も視野に入れつつ、助教授・助手の位置づけの見直しを図る」というだけでは、あまりに腰が引けている。
人材に関しては、博士課程で学んだ人が研究者以外の職に就けるような体制を作っていくことが緊急の課題である。政府は博士を増やす政策を採りながら、博士号取得後の就職についてはほとんど何の手も打っていない。「行政機関等での採用の機会を拡大する」「民間でも、積極的な採用が期待される」という程度の計画で、大丈夫だろうか。
当の博士たちの意識改革も必要だろう。
いまどんな研究が必要か、社会の要望を探し出す。それを具体的な計画に結びつける。さまざまな研究を公平な目で評価する。成果を社会に広め、暮らしに生かす。
日本社会ではそうした活動を担う人が足りず、博士たちの活躍が期待される。道のないところに自ら道をつけていくといった意気込みで、社会に飛び出してほしい。
計画の実施に当たっては、省庁再編に伴い、科学技術会議に代わって内閣府にできる総合科学技術会議が司令塔になる。盛られた課題は、一つの省庁では手に負えないものが多い。総合科学技術会議が、どれだけ指導力を発揮して改革を進めていくか。内閣機能の強化という理念の試金石でもある。
[2000-12-12-00:06]
目次に戻る
東職ホームページに戻る