独行法反対首都圏ネットワーク

2001年省庁再編 変わるか日本 (3)
2000.11.29 [he-forum 1453] 東京新聞11/28

『東京新聞』2000年11月28日付


2001年省庁再編 変わるか日本 (3)


独立行政法人化

教職員削減 国立大サバイバル


  「五%の削減で、教官が手薄になる。入学定員を減らすのは可能ですか」


  今月十六日、定例の国立大学長会議の後で開かれた文部省との懇談会で、九州地区の学長が尋ねた。「原則としてイエス。でも、その前に努力することをお願いします。」同省の工藤智規高等教育局長は、条件付きながら、大学の縮小を承認する意向を示した。


  国立大学は、十八歳人口増に伴う臨時定員増を一部もとに戻したことを除くと、戦後一貫して拡大を続けてきた。しかし、これからは、大学の野放図な拡大は許されない。新しいニーズに鈍感な大学や、研究・教育成果の上がらない大学は、縮小もある―。かつての"護送船団"から、優勝劣敗の価値観へとかじを切った同省にとって、個別大学の縮小や再編は、むしろ当然の帰結だった。


  「国立大学の中でも、使命はさまざま。世界を相手に戦う日本代表チームとかJ1もあれば、地域で頑張るJリーグ二部のチームもある。もちろん入れ替え戦はあるけどね」(文部省関係者)。"競争的環境の中で個性輝く大学"を合言葉に進められる大学改革。そこに今、新たな行革の波が加わりつつある。「独立行政法人化」だ。


          ◇


  「国家公務員の定数を十年間で一割減らす。独立行政法人への移行などにより一層の削減を図り、十年間で二五%減らす」―。一連の行政改革で確定したこの数字が、国立大学に独法化を迫る。独立行政法人の教職員は、たとえ国家公務員でも政府の定員管理から外れる仕組みだ。


  約十三万五千人の教職員を抱える国立大が独法化すれば、二五%を上回る削減が実現する半面、しなければ全体の削減目標の達成は難しい。


  「大学改革の一環として検討し、平成十五(二〇〇三)年までに結論を得る」(中央省庁等改革の推進に関する指針)とされたが、行革の枠組みが決まった時点で、国立大学には独法化以外の選択肢は、事実上残されていなかった。


  文部省は今年六月、独法化に向けて、制度設計に着手することを表明。組織業務、目標・評価など四つの委員会が分担して作業を開始した。国立大学協会も、これに対応する四つの特別委員会を設けた。


  しかし、二〇〇六年度にも予想される国立大独法化の未来図は、いまだに不透明な部分が多い。


  国立学校特別会計が持っていた財源の分配機能を残すかどうか。これまで文部省中心に行われてきた事務官の人事交流をどうするのか。「バラバラの大学が政府と個別に向き合ってうまくいくのか。文部省が国立大を突き放し、つかみ金を渡すから勝手にしろ、という発想を本当に取るのだろうか」。大崎仁・国立学校財務センター所長は、こう疑問を呈する。


  「いったん独法化すれば、その後は削減を免れる」。同省はそう説明してきたが、それも怪しくなってきた。今年七月に閣議決定した向こう五年間の定員削減計画では、独法化部門にまで五%近い削減目標数が定められた。独法化すれば総務省の定員管理から外れるものの「目標分だけ運営費交付金が減る可能性はある」(総務庁行政管理局定員総括)という。


  この夏、九十九国立大に伝えられた削減目標は、五年間で五千百七十二人。

最大の東京大では、教職員計三百三十七人に上る。


  「付属学校や看護婦などの聖域もなくなり、今までと比べものにならない厳しさだ。増員はほとんど認められないので、純減になる」(関東地区の学長)。他の先進国より、高等教育への公財政支出が乏しい日本で、さらに進められるスリム化。独法化に反対する田中弘允・鹿児島大学長は「最悪のシナリオになってきた」と危ぐする。


  国立大の中では、独法化を見越して、水面下の競争が激化しはじめた。工藤高等教育局長は、懇談会の席で改革に熱心な大学の名を列挙し、他大学にも取り組みを促した。「独法化で、予算ははっきりと評価に基づく配分になる。頑張っていない地方大はダメだ。もっと差をつけないといけない」。文部省からは、そんな声すら漏れてくる。


  独法化の先に見え隠れする国立大の繁栄と衰退。輝かしい未来への切符を手にする大学は、ほんの一部だけかもしれない。


(社会部・加古陽治)


国家公務員の削減計画(前半5年分)


                対象人員        削減目標        削減率

全体            約84万人        約4万3000人     5.1%
独法部門        約37万人        約1万8000人     4.9%※
残存部門        約47万人        約2万5000人     5.3%
                (うち国立大
                約13万5000人)


※郵政公社移行を含む


4年制国立大の削減目標(前半5年分)


全体    5172人(99大学)

東京大   337人
高知大    26人
平均      52人


独立行政法人

  省庁再編とともに中央省庁改革の目玉となる新しい組織形態。国民にとって確実に実施される必要があるが、国が自ら主体となって行う必要がない事業のうち、民営化すると行われなくなる恐れがあるものが対象となる。国と切り離して、新しい組織に移すことで、自主・自律的かつ、効率的な運営を目指すのが主な目的。法人には主務大臣が三年から五年の中期目標を指示し、法人は、それに基づいた中期計画を提出し、主務官庁の認可を受ける。こうした制約は、大学の自治と反する面があり、文部省と国立大学協会は現在、「学問の府」にふさわしい修正案作りを進めている。



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