独行法反対首都圏ネットワーク

『正論』入選論文
2000.11.22 [he-forum 1436] 『正論』入選論文

月刊『正論』入選論文


民営化を視野に入れ義務果せ

山本 淳司


11.7 産経新聞朝刊掲載


≪責任を果して国益に応えよ≫


 教育は国家の大政策であり、国の将来への投資である。国の教育の根幹は初等中等教育であるが、次世代のリーダーを育成するのは、高等教育にほかならない。高等教育の中で、中心的役割を果たしてきた国立大学は国費で運営されており、その存在は国益にかなったものでなければならない。今日、国立大学がアカウンタビリティーを問われているのは、国費を投じられての社会的責任を果たしていないと考えられているからである。国立大学はこれまで様々な改革を経てきたが、めざましい成果をあげず今日に至っている。


 国立大学を取り巻く環境の変化を考えてみると、第一に少子化が挙げられる。

十八歳就学人口を見ると、平成四年の二百五万人をピークに減少を続け、平成二十七年には、百二十万人と推計されている。第二に大学進学率の増加が挙げられる。大学・短大進学率は約四八%(平成十年の統計)となっており、高等教育専攻の米カリフォルニア大教授、M・トロウ氏の発展段階説によるとマス化からユニバーサル化の入り口にさしかかっているといえよう。第三に国際競争の激化、高度情報化が挙げられる。第四に国家財政の逼迫が挙げられる。積極的な財政的援助が困難な状況である。第五に社会的要請の変化が挙げられる。
大学が社会に送り出す人材の社会での即戦力としての期待、生涯学習機能としての大学の役割などである。


≪国家の枢要な人材育成が主≫


 こうした環境の変化が国立大学の改革に拍車をかけている。これまで、国立大学は平成三年の大学設置基準の大綱化以来、カリキュラムの自由化など大きな制度の枠内での改革を行ってきたが、環境の変化に機敏に対応してきているとはいえず、今日に至っており、大学側からの自己改革ではもはや限界だと思われる状況になっている。


 本来、国立大学には国立でなければできないような種類の教育研究を行うとか、国家枢要の人材を養成するなどの機能が存在し、私学は、それぞれの教育理念に基づき社会に有用な人材を供給してきたという事実がある。そうした機能的役割分担は財政的基盤によるところが大きく、財政基盤の脆弱な私学が全大学生の約八割を担い、国立大学は約二割しか担っていない。この二割の学生しか担っていない国立大学に対して巨額の国費が費やされているところにアカウンタビリティーが問われているのである。


 国家意識の育成は初等中等教育が主となるが、国費が投じられている以上、

国立大学が国家意識を持った国家枢要の人材を育成することは義務である。一般によくいわれることだが、組織が硬直化していること、教職員が国家公務員であるためコスト意識が全くないこと、独特の特権意識過剰など多々専門閉鎖的学歴主義がいまだに根強いことなど、様々な批判が国立大学に寄せられているのは環境の変化への不適応だけでなく、国費を投じられての社会的責任を果たしていないと考えているからである。


 こうしたなかで、国家公務員の定員削減問題を契機として、設置形態の変更を伴う独立行政法人化問題が浮上したのは、不可避であったかもしれない。大学側は、行政的観点から独立法人化という問題を突きつけられたことに嫌悪感をあらわにしているが、これまで効果的な改革の成果を見られなかったことが外圧を招いたものであり、効率のみを重視するのではなく、国費を投じられての義務と責任を求められるのは当然である。


≪社会の変化に機敏な反応を≫


 国立大学が本来の社会的使命を全うし、新時代のフロントランナーとして社会をリードするには、改革を厭わない姿勢が必要である。そのためには、抜本的制度改革である独立行政法人化を改革の途中経過として受け入れ、究極的には民営化を視野に入れるべきである。これは国立大学に対して公財政支出を行わないということではなく、おしなべて高等教育に対する公財政支出を高め経常経費の一定部分を公的負担でカバーし、全大学の財政的基盤を条件として平等にし、各大学の自助努力を促すことができるような競争的環境を整備しようとするものである。


 こうしたなかから、各大学の個性化が進み、教養教育大学、生涯学習大学、先端研究大学、大学院大学、専門的職業大学などの役割分担が進んでいくものと考えられ、ユニバーサル化時代の適応となろう。大学という存在は、巨大な社会資本であり、社会全体で支えようとする機運が必要である。そのために、大学は時代の要請と社会の変化に機敏に対応し、常に自らを改革していく義務と責任を自覚しなければならない。国立大学の改革は、重大な使命を担っており、法人化を絶好のチャンスと捉えるべきである。


【入選して一言】「今回のテーマで入選できて嬉しく思っています。今後さらに勉強を深め、社会に還元できるよう努力したいと考えています」


入選者略歴

 やまもと・じゅんじ 昭和35年8月京都市生まれ。40歳。同志社大学法学部卒業。同大学院前期博士課程在学中。大学職員。趣味は読書、音楽鑑賞、将棋。初入選。大阪府在住。


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