独行法反対首都圏ネットワーク

岡田京大教授のお話レジユメ(11・15シンポ)

  11月15日 首都圏ネット主催のシンポジウム「独立行政法人化と大学財政」で
  岡田京大教授がお話レたレジユメです。

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独立行政法人化で大学の自立性は高まるか

―国立大学財政の実態と財政自治権の視点から―

岡田知弘(京都大学)

はじめに

○国立大学の独立行政法人化については、未だ文部省と国大協との予備折衝段階

 法的には「5年後に決定する」とした991月の閣議決定から動いていない

○文部省(5.26文部大臣あいさつ)・自民党(5.11提言)での説得用論点

 @高等教育への公的投資の欧米並みの水準への引き上げ

 A財政運用面での「柔軟性」・「自律性」の確保

○本報告のねらい

 大学財政の実態分析を通して、上記の論点を批判的に検証し、独法化が当面する大学財政問題を解決することができないだけでなく、その財政自治権を保障するものでもないことを明らかにすること

○分析の視点

 大学財政―「学問の自由」を制度的に体現した「大学の自治」。後者を経済的に保障するもの。

 自立性、民主性、固有性の視点からとらえる

 

T 「高等教育費に対する公的支出」拡充論と学術研究体制の再編

1「高等教育費に対する公的支出」拡充論の登場

 @蓮見国大協会長の小渕首相への陳情と自民党提言・文部省あいさつへの盛り込み

  独法化による予算削減への危惧への対応⇒ただし数値目標は示さず

 A拡充論の背景と内実

  有馬元文相の「私学配慮」論 私学を含めた高等教育費の拡充と同一土俵での競争

  ←私学の危機(受験生数激減と定員割れ大学の激増)と大学種別化・国立大学学生定員削減論

 B拡充論の虚構

  1)「高等教育費に対する公的支出」概念の問題 

    文部省発表数字 対GDP比0.7%(97年度)で先進国中最低

    国公私立大学に対する国・地方自治体の支出額・補助金の合計

    しかも受益者負担分の授業料収入、附属病院収入も含む。

    受益者負担分を除く国・地方自治体の公的支出額は対GDP比0.4

    「国の責任」が果たされてきたとは言い難い水準

  2)公的支出が増大したとしても全大学に等しく分配されるわけではない

    競争的資金の拡充、評価に基づく資源配分、傾斜的配分により格差は広がる恐れ

     ←本年度からの国立大学積算校費制度の見直し、私学助成制度の重点化傾向

2 新国家主義的行政改革と学術研究体制の再編    

  @橋本行革ビジョンの一環としての学術研究体制の再編

   日本の国家・社会経済システムの「歴史的転換」を図ろうとした橋本行革ビジョン

   グローバリズムのなかでの新たな国家主義的「行政改革」=中央省庁再編

  A内閣府の下に「総合科学技術会議」におき、国家の戦略目標の見地から、自然科学、社会科学、人文  

   科学の全分野にわたる研究費配分の大枠を決定するシステムに。

    ⇒国公私学という設置形態に関わり無く、大学のすべてが研究資金の獲得をめぐる組織された競争に

     組み込まれる。大学の財政的、機能的自立性は、この枠組みのなかでしか果たせない。

  B競争的資金の拡大と経常的教育研究経費の圧縮が、教育研究現場にどのように配分されるかが問題

 

U 政府と国立大学の財政関係

 1 国立大学の財政制度

  @国立学校特別会計制度の仕組みと推移

   1)歳入・歳出構造 

   2)予算の推移 一般会計からの特別会計繰入れ比率は低下する一方

  A個別大学の歳入・歳出構造  京大を例に(表1

   1)歳入と歳出の不一致は何を意味するか

    経理システム上、国立大学は文部省の出先にすぎない

     授業料や附属病院収入といった国庫収入を徴収する一方で、配分予算を単年度中に使い切る

    もともと収支を一致させる会計単位としての権限・政府に対する財政的自立性が認められてない

   2)私立大学の収支構造(表2) 資産運用収入、長期借入金、基本金積み立て

   3)独立行政法人の会計原則では、基本金積み立て、剰余金の自由な運用は認められず。

    また、中期計画終了後は、国庫が剰余金を吸収しうるシステム。財政権限は大幅に制限される。

2 国立大学の収支構造(京大の場合)

 @組換え方法

 A受益者負担・外部資金への依存傾向 (大学院重点化以後、顕著に)

 B純国費負担の減少 88年度62.4%⇒ 98年度51.7

3 国立学校特別会計の大学別分配状況  

@91年度の大学類型間格差 (表4) 

学生定員数・職員定員比率を上回る「旧帝大」、「新七大」。下回る「部制大」、「その他大」

  A大学院重点化による東大のシェアの高まり

   国立大学特別会計  90年度5.4%→98年度7.2

   科研費(95年度) 14%、 COE予算 18% 

  B大学予算の分配システムの改革が必要  文部省への概算要求システムではなく「大学財政委員会」の

ような独立の行政委員会の設置と透明度の高い分配システムを

 

V 国立大学財政の内部構造

 1 本部事務局と部局との財政関係

  @大学内の配分は、各大学ごとで決定

  A予算的裏づけのない本部事務局。全学共同利用施設に対する校費配分額の過少性。

   →各部局から本部事務局経費を吸い上げる(控除方法、控除率は大学ごとに異なる)

   京大理学部の場合(図1) 大学院重点化過程で本部控除額の方が伸びる

  B学長裁量経費、「教育研究基盤校費」の導入による本部事務局の予算権限の拡大

  C予算の学内再配分をめぐる民主性は確保できるか?

 ←現時点でも不十分な情報公開度+国立大学設置法の改定による教授会権限縮小

   評議会の構成と学長のリーダーシップのあり方  小規模部局、希少学問分野の問題

   →大学間の財源配分をめぐる競争が、大学内において再現する構造に

 2 学部財政の実態と学生の超過負担

  @教育研究現場である学部・部局財政の情報公開度の低さ 

   cf.独立行政法人制度は「区分会計」を導入 

  A「独立した会計単位」と仮定した場合の収支構造分析

   1)京大工学部の場合 表5  純国費支出比率は53%。外部資金への依存23%。

    純国費分で人件費、学生納付金で校費物件費、外部資金で研究費をまかなう構造

   2)京大経済学部の場合 表6 純国費支出比率は10.2%! 私学以下の「補助率」

    ←「受益者負担論」による野放図な授業料・入学金値上げが超過負担を生む

  B人件費、管理費、基盤的研究費については国が責任を果たし、学生に転嫁すべきではない

   →授業料の値下げこそ必要  

 3 校費支出の内実と積算校費見直し

  @神戸大学発達科学部の場合

   文部省単価での基準配分額を100とすると、7%が本部、約15%が全学利用施設負担料、約30%が管理

的経費、約50%が教育研究経費に配分。さらに各講座に配分されるのは、基準配分額の44%にすぎない。

  A神戸大学理学部の場合

   同様に、学部の研究教育用物件費は、基準配分額の36%。研究費の四分の三は科研費に依存した構造。

  B大学の固有の目的である教育研究活動を校費では遂行できない状況。本来的な財政の効率性の悪化。

  C原因は、定員削減による非常勤職員費用や業務の外注化による雑役費用の増大、大学内の共通経費、学

部内のランニングコストの増大。→教育研究用経費が限界点に達する

  D科研費・外部資金導入の高まり→安定的財源ではない。研究室間格差、短期量産型研究の増大。

  E本年度からの積算校費制度見直しの問題点

   当積算校費の削減により部局で恒常的に確保できるのはせいぜいランニングコスト部分のみ(表7)。

   「評価」制度導入による重点配分への傾斜→教育研究の財政的自主性の大幅な喪失。研究費獲得競争の

恒常化→教育研究時間の相対的・絶対的縮小→教育研究の本来的「生産性」の低下。

 

おわりに

 @現在の国立大学財政の自主性・民主性・固有性の欠如・希薄化は誰がもたらしたのか

  戦後の大学政策、とりわけ80年代後半以来の自民党・文部省「大学改革」政策の帰結。

  大学人の責任というよりも、国家、政治の責任。

 A現状の大学財政問題は、独法化によって解決するのか―否。

  大学財政の自主性と民主性は、独法化のもとで一層形骸化する。

  研究費の国策的配分方式+外部評価方式+学長権限の強化のもとで、現状よりもはるかに財政誘導的な資

源配分がなされる可能性の方が大きい←国策を実行する制度としての独立行政法人制度

 B運営費交付金と大学の独自財源との関係

  大学間で競争的資金を獲得する競争が進行すればするほど、国庫からの財政支出は減少するシステム

  「行政コスト削減」につながる一方で、大学の固有の機能である教育研究活動は希薄化する

 C国民の付託に応え、大学の本来の活動を再生、拡充するためには、ユネスコ勧告型の大学自治と財政自治

権の確立が必要不可欠。独立行政法人制度の枠組みでは原理的に不可能。

真の意味で自立性を有する大学の「法人化」が強く求められている。

 

 

 

 

    


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