独行法反対首都圏ネットワーク

憂士の文章
(2000.10.17 [reform:03201] 憂士の文章)

  先頃藤原正彦氏の「驕るな経済」が紹介されましたが、この文章を懇意にしている、奈良女子大理学部長に送付しましたところ、返信として以下の様な大学の同窓会(佐保会)誌に、学部長就任の挨拶文として書かれた文章が送られてきました。高木氏は、ゾウリムシの寿命などについて、著作を出版されている研究者ですので、ご存じの方も多いと思います。
  御当人の承諾を得ましたので、reformに流します。

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ご 挨 拶                    奈良女子大学理学部長                    高木由臣

  大学をとりまく社会環境は、歴史的な激動期を迎えようとしています。そのような時期に、基礎科学の教育研究組織である理学部の運営責任を負うことになりました。非力の身で、このような重責に耐えられるかと身のすくむ思いですが、大事なものを大事にしていくという基本方針で全力を尽くす所存です。   
  いつの時代、どんな社会状況にあっても、基礎科学の重要性は変わりません。しかしわが国の実状は、基礎科学の重要性に対する認識が一貫して堅持されてきたとは到底言えず、時局に応じて大きく揺れ動いてきました。戦時中に、「戦局がどうであれ、私はゾウリムシの性行動の研究をやる」と言えば、おそらく顰蹙を買ったでしょう。「東海岸のカニのハサミの振り方が、西海岸にもっていけばどう変わるのかを知りたいので、軍の輸送機で、ついでの折にカニを運んで欲しい」と申し出れば、狂人かと相手にされなかったでしょう。しかし同様のことが、戦時中のアメリカでは当たり前のように行われていたのです。ゾウリムシの分裂能が有限か無限かという疑問に答えるため、ロシア革命の最中を含む22年間、ゾウリムシを飼い続けたロシア人研究者の例もあります。
  いま日本では、アメリカの科学技術に遅れをとっているということで、大金を出すから早く社会に役立つような研究成果を出せという圧力がかかっています。いや実は圧力などかかっていなくて、研究者自らが幻想におびえているのかもしれません。
何か社会に直接役立つような研究をしないと、研究費がもらえず、昇給や昇進にもひびくのではないか、―そういう疑心暗鬼から、研究者自らが基礎研究の重要性を否定するような風潮がはびこることが心配です。自らの研究を大事と考えないでは、学生に対する教育はできないのではないでしょうか。
 「ゾウリムシの性行動の研究」といったおよそ何の役にも立たない基礎科学研究への投資は、景気対策や福祉対策への投資と同様に大切なんだという認識が、国民の大多数の間で共有されるようになったとき、初めてアメリカとの科学技術較差が縮まっていくのだと思います。佐保会の皆様のご支援をお願いします。−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
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