独行法反対首都圏ネットワーク

法科大学院構想の問題点
2000.10.26 [he-forum 1363] 法科大学院構想の問題点

自由法曹団の総会で、以下のような発言をしてきました。
前回お送りしたものより、短くわかりやすいと思いますので、どうぞお読み下さい。


「法科大学院構想」の問題点について

                                                  東京支部 萩尾健太

 前の自由法曹団総会は、「司法改革」について活発な議論がなされ、有意義な総会でした。私も発言させていただきましたが、なにぶん時間が短く、早口で聴き取りにくかったと思いますので、ここに発言内容を文書の形でご報告します。
第一 総論 
一 私は、大学五年間の学生運動、そして、現在も東大駒場寮訴訟をつうじて、大学問題に関わってきました。その立場からは、去る九月二九日に文部省の法科大学院構想に関する検討会議がまとめ、来る一一月一日の日弁連総会決議案が推進する「法科大学院構想」は認めることができません。文部省・大学審議会路線追随、大学自治・学生生活破壊の本質をもち、自由法曹団の皆さんのような民衆の弁護士を根絶やしにすることを意図する「法科大学院構想」を、教職員、学生などの大学人とともに、大衆的な運動で阻止することを訴えて、討論に参加します。
二 この「法科大学院構想」の問題点は、大きく四つあります。
  第一に、大学間格差・学部間格差・学部教育の空洞化、第二に、大学自治破壊の第三者評価機関の設置、第三に、学生の成績及びその他の活動の管理による統制と抑圧、最後に教育の機会均等の破壊です。
  これらの四点は、従来、大学審議会による大学全体の改革の問題点として広範な大学人が反対運動を行ってきたものです。
第二 それぞれの問題点について
一 第一の点は、法科大学院が設置できる法学部とできない法学部の間で格差が広がるとともに、法学部だけ優遇すると言うことになれば、学部間の格差を拡大します。さらに、今日ただですら法学部はマスプロ授業を行っているのに、教員を大学院にとられることになれば、学部教育は空洞化します。「法科大学院」推進論者は、これを法学部のリベラルアーツかと言ってごまかしていますが、実際には、後述の「法科大学院」入試における学業成績評価と結びついて、学生をいっそうの受験競争に駆り立てるものとなるでしょう。 検討会議の「検討のまとめ」も、もちろん教員は大学外から補充すると言ってますが、その対象として挙げられているのは、実務法曹の外、企業法務担当者と行政官僚です。これが、産官学共同をもたらし、大学自治を掘り崩すとともに、後述する厳格な成績管理による学生統制と結びついて法科大学院生、ひいては弁護士の変質をもたらすことは明らかです。
二 「法科大学院には、特に国費を助成するから他の大学や学部にしわ寄せは行かない」との意見もありましょう。そこで、第二の、第三者評価機関についてですが、この第三者評価機関はそこでの評価により助成金を割り振り、更には法科大学院の認可取消をする権限まで有しています。
  今、大学の貧困と言われるほどの低文教政策の圧力、そして国立大学独立行政法人化の脅しのもとに、大学は文部省による財政誘導に極めて弱くなっています。さらに認可取消の脅しまで加われば、大学がこの第三者評価機関に管理統制下に置かれてしまうことは想像に難くありません。
  日弁連は、この第三者評価機関に弁護士会の影響力を及ぼせるようにする、と主張しています。しかし、この第三者評価機関を構成するのは、「検討のまとめ」によれば大学関係者と法曹三者、学識経験者、そして文部省関係者とされています。三者協議会でも十分影響力を行使し得なかった日弁連がこの構成の第三者評価機関で影響力を及ぼせるとはとても思えません。
  第三者評価機関の設置は、大学審議会が学部を問わず全ての国立大学に押しつけようとしているものです。心ある大学人はこれを大学の管理統制、大学自治破壊として反対しています。現在の「法科大学院構想」を認めることは、こうした大学審路線の突破口を法学部から切り開くことであり、大学自治破壊への荷担、心ある大学人への裏切りに他なりません。
  さらに、ここでの評価は法科大学院相互の序列化をもたらし、一部の大学に任官志望者が集中するようになり、事実上の分離修習に道を開きます。
三 第三に、成績その他の活動評価による、学生への管理統制ですが、今述べたように文部省に管理統制された大学のもとで、学業成績以外の活動まで評価されることになったら恐ろしい事態が生じます。
  学生は萎縮してしまい、社会の問題に批判的に取り組むような活動は出来なくなるでしょう。それのみならず「学業以外の評価」は、教育基本法改定と関連して議論されている一八歳以上の奉仕活動の義務付けと結びつく危険すらあります。法科大学院生は予備自衛官ばかり、と言う事態が現実のものとなりかねません。
  また、これまで司法研修所の問題点ということが言われてきました。研修所当局の成績評価権限、裁判官検察官任用権限の前に、任官、任検志望者が過度に萎縮し、上の方ばかり見るヒラメ裁判官、ヒラメ検察官が生み出されるというものでした。
  「検討のまとめ」が示す法科大学院は、一年目で所定の単位を取れなければ即退学という司法研修所以上に成績管理の厳しいものであり、しかもそれが全ての弁護士志望者にも及ぼされるのです。
  主体性のある自主的活動の中からこそ民衆の弁護士が生み出されるというのが、これまでの青法協活動の教訓です。それに逆行する管理統制の法科大学院のもとでは、主体性を喪失したヒラメ法曹ばかりが生み出されます。そのもとでは、日弁連も弁護士自身も、社会正義と人権擁護の使命を負った存在から変質してしまうことは必至です。
四 第四の教育の機会均等の破壊ですが、今、国立大学は独立行政法人化の動きの前に
揺れています。独立行政法人化すれば、学費は現在の年間七五万円から三倍に跳ね上が
ると言われています。さらに学部間格差、受益者負担主義が導入されれば、いっそう跳ね上がります。
  「検討のまとめ」が示す法科大学院では、こうした独立行政法人化の問題が全く省みられておりません。奨学金、教育ローンを導入するとしていますが、現在既に奨学金は利子付きのものとなっています。さらにこうした経済的援助措置が法科大学院生統制の手段となることも十分考えられます。
  結局法科大学院から生み出されるのは、金持ち弁護士と多額の借金を背負った弁護士であり、金にならない人権活動を行う弁護士は生み出されないでしょう。
第三  結論
一 以上述べたように、日弁連執行部の推奨する法科大学院は、「入口は大学自治破壊、出口は弁護士の変質」というとんでもない構想です。
  それをねらいとした財界・文部省の策略に引っかかったとしか思えません。
  そうである以上、この法科大学院構想を日弁連が決議すること自体が、良心的大学人への裏切りであって、日弁連がルビコン川を渡って財界・文部省の側に変質することに他ならないと思います。
  これはまた日弁連の「利益」のために大学自治、学生自治を文部省に売り渡すことであり、ギルド的エゴのそしりを免れないと思います。
二 これに対して、「総会で決議できなければ弁護士自治を剥奪される危険がある」との意見もあります。しかし、思い出してください。司法改革一〇〇万人署名は、二五〇万を超えました。この成果に誇りを持つべきです。今の日弁連であれば、弁護士自治剥奪の攻撃があっても、私たちと結びついた広範な労働者・大衆が私たちとともに闘ってくれるでしょう。しかし、ルビコン川を渡り、弁護士自体も変質したとき、日弁連を誰が護ってくれるでしょうか。これはそういう問題なのです。
三 今、この大学自治破壊の「法科大学院構想」について、民科法律部会、日本科学者会議、全大教をはじめとする大学人の間で急速に反対の声が起きてきています。この声に応え、多くの大学人とともに「法科大学院構想」を阻止する、それが出来なくとも、第三者評価機関設置と国立大学独立行政法人化を阻止し民主的法科大学院を実現するべく運動する決意を込めて、私の発言を終わらせていただきます。ありがとうございました。



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