名古屋大学の法人化と大学運営について
(2000.10.14 [he-forum 1337] 名古屋大学資料09/07)
名古屋大学の法人化と大学運営について
(検討の経緯 平成12年9月7日)
1 検討の趣旨
○名古屋大学学術憲章の精神に則り、アカデミックプランを生かした改革を進めるため、名古屋大学の制度並びに運営に関して必要な事項を整理し、検討する。
○国立大学の法人化を、名古屋大学の教育研究並びに大学運営に生かす方策を検討する。
○法人としての名古屋大学を想定するにあたっては、原則として国立大学協会「独立行政法人化問題に関する検討小委員会報告(平成11年9月7日)」に従うものとする。
○この「検討の経緯」の各節の内容については、現在、整備委員会のもとにおかれている施設将来計画ワーキング、財務委員会、組織改革検討委員会の下におかれている各小委員会及び法人制度に関するワーキンググループ等の各委員会で検討がなされている。
○この「検討の経緯」は、法人制度に関するワーキンググループにおけるこれまでの議論の趣旨を踏まえ、名古屋大学の法人化に関する現時点での検討状況を取りまとめたものである。
2 運営機構
2.1 法人と大学の一体的運営
・国立大学は法人化されても、私立大学とは異なり国が設置する大学であることには変りがない。運営のために基本的に必要な人件費、経費並びに施設整備のための費用は、国によって支弁される。
・一方、法人化によって、大学の政府からの独立性は高くなり、財務、組織改組、教職員の処遇などの面において、大学の判断で実施に移すことのできる事項の範囲は、現在の国立大学よりは大きくなると考えられる。
・したがって、個々の大学は、その活動の成果について、広く国民や納税者に報告し、説明する責任を負う。
・また名古屋大学については、基幹大学として世代を先導する萌芽研究の育成や大型プロジェクト研究など国内外の学術研究をリードする役割、地域社会の知的核としての役割など、わが国及び地域社会のみならず国際的公共財としての役割への期待も大きくなると考えられる。
・このような新たな制度の下にあって、名古屋大学がその使命を十分に果たすためには、大学の企画立案機能と実施機能を一体とすることが必要であるが、そのためには、法人の経営と大学における教育研究を分離することなく運営することが望ましいと考える。
2.2 法人の役員及び総長補佐
(1)役員
・法人の役員として総長、副総長及び監事をおく。
(2)総長
・総長は、教育研究について優れた学識を有し、かつ大学の運営に関して高度な知識及び経験を有するものが望ましい。
・総長の任期については、任期中に実行に移される中期目標・中期計画の策定を行い、それの実施に責任をもってあたることができるように定めることが望ましい。
・国立大学法人の中期目標・中期計画の期間は5年とされる可能性が高く、総長任期は1期5年とするのが妥当であると考える。
(3)副総長
・副総長は総長の職務を補助し、大学の業務を行う。また総長に事故あるときは、総長の職務を代理する。
・副総長の人数については、大学の運営基盤の強化を図るため、現在の総務担当、学務担当の2名に加え、大学の中期目標・中期計画、評価並びに大学の予算、基金等の財務全般を担当する者1名を新たに追加し、3名とすることが考えられる。
・副総長の任期は、2年ないし3年とすることが考えられる。
(4)監事
・監事を複数名をおき(ママ)、内1名は学外から任用する。
(5)総長補佐
・総長の職務を補佐するため、総長補佐として約7名をおく。
・総長補佐は、総長及び副総長を助け、財務、企画・調整、評価・広報、研究推進、教育推進、国際対応、社会対応等の職務を分担する。
・総長補佐は、学部代表の集まりではなく、大学全体の観点から業務にあたる。
2.3 大学の審議機関等
(1)評議会
・大学が自主的に意思決定を行うために評議会をおく。評議会は、大学の重要事項を審議する全学的な審議機関とする。
(2)部局長会
・部局長会は、全学的な審議機関である評議会による権限の委託を受けて、本学の運営に関する重要事項に関する審議を行うとともに、総長を補助し、部局間の協議や意見調整、大学運営に関する企画立案などを行う。
(3)運営会議
・大学の意思決定の機動性、責任制(ママ)を高めるため、総長の補佐機関として新たに運営会議をおく。
・運営会議は大学運営に関する企画立案及び大学の業務の遂行等に関して総長を補佐する。
・運営会議は総長が主宰し、副総長、総長補佐、事務局長及び総長が指名する教職員若干名等で構成する。
(4)運営諮問会議
・運営諮問会議は総長の求めに応じて大学の経営及び教学等の運営全般について助言・勧告を行う。
・運営諮問会議は大学が社会から意見を聴取する機関であるとともに、学術分野の専門家による教育研究内容や運営に関する評価機能をあわせ持つ。
2.4 部局の運営
(1)部局長及び部局長補佐体制
・部局においても、社会から大学に対して求められる要請に柔軟に対応できる運営が行われなければならない。
・部局長が部局運営においてリーダーシップを発揮できるよう部局運営の制度を検討するとともに、部局長の補佐体制を考えることが必要である。
(2)教授会
・部局が自主的に意思決定を行うために教授会をおく。教授会は部局の重要事項を審議する審議機関とする。
・教授会と部局長・部局長補佐体制との適切な機能分担を図り、部局の審議と意思決定を合理的かつ迅速に図れるようにする。
3 教育・研究組織
3.1 部局組織及び全学共通組織
・大学における教育研究のための基本的な組織として、部局組織と全学共通組織をおく。
・部局組織は、専門学術分野の教育研究を分担し、領域型部局と融合型部局とで構成する。領域型部局は、既存の学問領域の教育研究の継承・発展にあたる。
融合型部局は、新規の学術分野を創造する教育研究を行うが、その創設は全学的な視点に立ち既設部局の再編整備によって進める。
・全学共通組織は、「教学院、高等研究院及び共通基盤支援機構(仮称)」で構成し、全学共通の組織として教育研究並びにそれらを支援する機能を果たす。
3.2 教学院(教養教育院、資格教育院)
・教学院に教養教育院と資格教育院をおく。
・教養教育院は、現在の全学教育委員会・共通教育委員会に替わって全学共通教育を主管し、ヘッドクォーターとしての専任スタッフを擁してその運営にあたる。
・資格教育院は、大学院における資格教育及び専門職業人教育を主管し、各分野間の連携を図って、名古屋大学における資格教育及び専門職業人教育全般について運営にあたるということが考えられる。
3.3 高等研究院
・高等研究院は、部局組織にとらわれず研究者の自由な発想による研究活動を支援し、国内外の大型プロジェクト(COE)研究、次世代を先導する萌芽研究の育成及び部局を越えた学内共同研究の推進等のための研究専念組織とすることが考えられる。
3.4 共通基盤支援機構
・教育研究の遂行の上で必要な基盤施設や設備の充実とその運用を支援する組織とする。
4 人事
4.1 総長の選任
・現行の教育公務員特例法の精神に従い、大学が定めた基準により総長の申し出に基づいて、文部科学大臣が任命する。
・総長の選任については、従前の方法では大学運営においてリーダーシップを発揮できる人が選ばれ難いという意見や、また選考の過程で学外の有識者等の意見が反映されるように工夫すべきであるという意見などがある。これらを名古屋大学において総長の選任にどのように反映させるかは今後の検討課題である。
4.2 副総長並びに監事の選任
・副総長の選任については、部局長・評議員を経験した本学教授の中から総長が指名して評議会が承認する現行の制度を踏襲する。
・監事は文部科学大臣が任命するが、その職務権限に鑑み、総長が本学の定めた基準に従い文部科学大臣に申し出るなど、大学の意向を尊重して任命される制度とすることが必要である。
4.3 教官の人事
・教官は、現行の教育公務員特例法の精神に従い、総長が任命する。
・総長及び部局長には、特定の教育研究上の目的を達成するために、教官人事において、主導権を発揮できる仕組みを与えることを検討することも考えられる。
4.4 事務職員の人事
・総長が任命する。
・複数の大学の連携により人事交流のできる制度を作ることが必要である。
5 中期目標・中期計画
・大学は自らが主体的に定めた教育研究等に関する長期方針に従い大学の中期目標を設定し、文部科学大臣と協議して合意を得るこが求められる。
・大学は中期目標を実現するために中期計画を策定し、文部科学大臣と協議して合意を得ることが求められる。
・中期目標・中期計画の期間は5年とする。
・中期計画に記載される事項としては以下のようなことが考えられる。
(1)期間中の毎年度の学部、大学院における教育カリキュラム、実施方法、実施体制。
(2)学生生活の支援活動等についての計画。
(3)部局ごとの研究計画、期待される成果、実施方法、実施体制。
(4)大学の社会的活動についての計画(地域貢献、国際貢献、学外の機関との連携協力活動など)。
(5)施設、設備の整備計画。
(6)大学の組織改革等の計画。
(7)その他大学の運営に必要とされる業務についての計画、特記事項等。
(8)大学の活動、計画の遂行及びその他、大学運営に必要とされる人員及び経費等。
6 評価
・大学は、中期計画期間中の毎年度末及び中期計画終了時に、中期計画において合意された教育研究活動についての実績及びその他諸業務の執行状況について第3者評価機関の評価を受け、文部科学省評価委員会に活動の成果を報告して承認を得なければならない。
・大学及び各部局は、大学全体にまたがる事項及び各部局の活動に関して評価を行い、文部科学省評価委員会への評価報告書とともに公開し、国民に対する説明責任を果たさなければならない。
・大学及び部局が自己点検評価を厳正かつ客観的に行うため、運営諮問会議や外部の専門家の検証に委ねることが考えられる。
7 施設・設備の整備方針
・施設・設備の整備の基本方針をアカデミックプランに準拠し、全学が策定する。基本方針の精神は、知的創造活動の場の建設とアカデミックな空間の創出である。
・施設・設備の整備計画を中・長期計画(キャンパスマスタープラン)と短期計画に分けて、全学委員会で検討、策定し、かつその効果的な実現のための新たなシステムを提案する。
・中・長期計画では、地域との整合性、歴史的な先見性を加味したキャンパスの増設、改廃等を含むキャンパス計画、各キャンパスの機能特化と整合性、さらには各キャンパスの再開発のあり方を立案する。短期計画においてはその具体化を内外の諸条件を重視して立案する。
・施設・設備の整備充実は、財政活動に大きく依存している。このための新たな制度や方策を国レベルで改善すべく、そのための具体的な手だてを提案する。
・施設・設備の現状、整備計画そして計画実現状況について点検、評価を行い、その結果を公表し、自助努力と社会的な支援の要請につなげる。
8 財務
・政府から独立した法人としての特性を生かし、教育研究等の大学活動の活性化に資する財務制度の構築に努める。
・そのため学内における予算配分の方法を見直すとともに、大学としての長期的な財務基盤の強化のための方策についても検討する必要がある。
8.1 会計基準
・大学における会計は企業会計原則に従う。
・大学内における予算配分は、大学全体の連携を図りつつ、各部局を単位として行うことを原則とする。
8.2 部局への予算配分
・予算の部局への配分については、研究、教育、社会的活動及びその他部局運営についての厳正な評価を反映したものにすることが必要である。
・そのため、部局に共通の基盤経費の外に、評価を反映した傾斜配分予算を検討することが求められる。
・全学的な事業への予算配分の方法について検討することが求められる。
8.3 剰余金
・中期計画の期間中にあっては、毎年度の剰余金を次年度に繰り越すことができる。この時の剰余金は、次年度において中期計画にある業務の執行のために支出することができる。
・中期計画終了時の剰余金は、全額あるいは一部を大学内に留保することが可能になる。こうした制度を有効に活用する仕組みが必要である。
8.4 基金
・大学では、現在、委任経理金等の会計的方法を利用して年度を超えた留保資金を保有し、教育研究活動等に支出している。
・法人化された大学では、大学が基金を持ち、それに対して大学が出資及び運営資金の拠出をすることができるようになる可能性がある。これは年度を超えた資金を大学に留保できるようにする新たな仕組みである。
・基金の積み立てや使途等については、中期計画の業務のための会計とは切り離して別会計とし、大学が独自に管理運営することが求められる。
・国立大学は法人化によって、従前は不可能であった地方自治体等からの援助も受けることが可能になると思われる。こうした機会を積極的に利用して財務基盤を強化することが求められる。
・受託研究費等の外部資金の受け入れにあたっては、実施される研究が大学の物的・人的資産やその他利便性を活用している事実に鑑み、拠出元にオーバーヘッドを要求することが考えられる。
・大学の共有施設の利用に当たっては、学内で定めた使用料を徴収するなど、競争環境を整備し、同時に財務基盤の強化策の一つとする。
・その他、各種の方法により財務基盤の強化に努めることが必要となる。
9 大学間連携
・各大学の自主自律を基本としつつ大学間の必要な連携を確保するため、現在の国立大学協会に対応するような連合組織を作る必要がある。
・連合組織は、各種業務に関する協議、協力、共同処理等、現在の国大協に類似した役割を担うとともに、事務職員人事の一元的運用等の業務を行う。