独行法反対首都圏ネットワーク

2000.8.22[he-forum 1203] 岩手日報08/20
『岩手日報』2000年8月20日付

企画「冬の時代の大学改革」〜「法人」岩手大(下)

知的営み、社会に還元


  岩手大と県の人事交流が始まった。第1号は小山康文さん(47)。県立大

事務局から7月14日付で岩手大地域共同研究センター(CCRD)助教授に

就いた。今秋には大学から県への派遣も検討されている。



 全国に99ある国立大で、岩手大を軸とした産学官の共同研究は、工学分野

をはじめ農業、食品など産業系を中心に全国トップクラスの実績を誇る。その

中核がCCRDであり、同センターと車の両輪に例えられる岩手ネットワーク

システム(INS)だ。



 CCRDの森誠之センター長(工学部教授)は「今後は産業系だけでなく、

例えば街づくりや法律関係、商店街活性化など人文系でも地域との連携を一層

深めたい」と語る。底流には独立行政法人化を見据えた改革機運の高まりがあ

る。CCRDが今春まとめた「21世紀に向けたINSの新たな展開に関する

研究」には「地域住民の真に豊かな生活の創造にどのように貢献するかが、大

学の生き残りにかかわってくるものと思われる」と記されている。





 小山さんに期待されているのは、大学の知的蓄積を社会に還元し、そのニー

ズを大学の研究に生かすための「橋渡し」だ。その分野の先達として、産業振

興の面からコーディネーターの役割を全国に先駆けて機能させている組織が県

内にある。北上川テクノポリス構想を源流に、花巻市が平成8年に開設した起

業化支援センターだ。



 同センター主任研究員の佐藤利雄さん(44)は「岩手大の先生なら、50―

60人はパッと顔と名前が浮かぶ」と豪語する。「起業家に対して単に先生を

紹介するだけでなく、ある程度のテーマ設定まで手掛ける」という親身の世話

が評判を呼び、同センターには県内外から意欲的な起業家が集まり、8つの研

究室、13の貸し工場はほぼ満杯だ。



 水質浄化装置などを開発する浮所正男さん(54)は、9年に名古屋市から

家族とともに花巻市に移住した。ベンチャーの壁に悩んでいた時、支援センター

を介してINSの会合に参加。初対面の海妻矩彦岩手大学長から「親せきもな

いだろう。困ったらいつでも(大学に)いらっしゃい」と言われた。



 「あの一言で、ここで頑張ろうと思った。中小企業に対する岩手大の間口の

広さは、他の国立大の比ではない」と浮所さんは語る。



 しかし、岩手大で7月開かれた学外有識者による運営諮問会議の初会合で、

代表になった船越昭治県教育委員長は「地域との連携と言うが、地域の未来に

ついて大学自身がビジョンを描かないと真の大学づくりはできない」と述べ、

総体としての方向性が見えない不満を示すとともに、地域貢献面での個性化も

発展途上であることを指摘した。



 地域や世界に向けて真に「開かれた大学」をどう構築するか。その取り組み

自体が、大学への評価を左右することになりそうだ。(報道部 遠藤泉記者)



<メモ> INSは、地域共同研究センターの設置を当初の目標として平成4

年に正式発足。翌年に同センター開設後は支援組織として産学官に民を加えた

人材交流と情報交換の場となっている。「産」約340人、「官」約190人、

「学」約150人の合わせて700人近い会員が集う。一時は法人化も検討し

たが「自由度を失う」との会員の総意で任意組織にとどまった経緯がある。



 他大学の産学官交流支援が、多くは財政支援にとどまるのに対し、INSは

大学が主導的役割を担いつつ、人的つながりというソフト面に主眼を置き、特

色ある取り組みとして全国から視察に訪れる人が多い。



【写真=花巻市起業化支援センターで起業家と歓談する同センターの佐藤利雄

さん(左)と県から岩手大地域共同研究センターに派遣の小山康文さん(右後方)。

産学官連携は人的交流に拡大】




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