独行法反対首都圏ネットワーク |
2000.8.22[he-forum 1202] 岩手日報08/19
『岩手日報』2000年8月19日付
「独法化だけを論議するのでは、大学改革をあまりにわい小化することに なると思う」。岩手大の海妻矩彦学長は、国立大改革の現状をそう評価した。 新制大学誕生から半世紀。同学長は「地域に高等教育の火をともし、高度な 教育研究を行ってきた」とする一方で「本質的に専門学校や師範学校などの流 れをくむ各学部の『寄り合い所帯』。文部省の付属機関として、独自の指針を つくる必要もなくここまできた」と、学長の立場にあって言外に無力感を示唆 した。 「通則法だけでは問題だが、大学としての存在価値を問い直すためには法人 化も有効な手段となり得る」と、法人化を論じる意味を強調した。 これに対し、学内から反対論も根強い。教育学部の望月善次学部長は「学部 教授会の機能を過小評価し、トップダウン性だけを強めようとする方向は納得 し難い」と問題提起する。 岩手大を構成する人文社会、教育、工、農4学部のうち、教育学部は唯1、 2度にわたり学長あてに独法化反対の意見書を提出した。 少子化の進行は教育系学部を直撃している。文部省は、全国の教育学部生を 5000人削減する計画。岩手大教育学部も、今春入試で定員を100人減員 した。 望月学部長は「学費を独自で設定する結果、財政事情によって値上がりする 可能性もある。経済的弱者から高等教育を受ける権利を奪うことにならないか」 と懸念する。 5月の文相発言を受けた申し入れでは、独法化の流れを意識しつつ▽効率性 重視の外部評価への懸念▽学長を含む教員人事の透明性と公平性▽財政的裏付 けの明確化―など、あらためて課題を提示した。 教職員934人の約36%が加盟(6月現在)する同大教職員組合(委員長・ 中沢広工学部教授)は、反対の急先ぽう。前委員長の志賀瓏郎農学部教授は 「昨年6月就任から独法化問題に追われっ放しの1年。組合結成50周年の記 念企画も手つかずじまい」と苦笑いした。 志賀教授は、独法化に特例措置を表明した5月の文相発言を「反対運動の1 つの成果」とみる。あくまで反対が基本路線だが、今後は「組合も大学改革の 関係者として、当局に要求を入れていく取り組みも必要だろう」と現実的な対 応も視野に入れている。 「国の在り方、財政状況、少子化…。問題が1大学の話であれば今のままで いいのかもしれないが、全体として変わらなければならない時代」と海妻学長 は語る。 国による規制の1方で保護も受けながら、同学長が言うように、大学が各学 部前身の「寄り合い」に甘んじて総体としての個性化を怠ってきたのだとすれ ば、独法化論議は国立大の近未来的使命をあらためて問い直す好機ともいえる だろう。 <メモ> 国立大の法人化をめぐっては、昭和d年の中央教育審議会答申 (46答申)で自主、自律的な運営へ「公的な性格を持つ新しい形態の法人」 への移行が提言された経緯がある。同答申を背景に、昭和q年に始まった臨時 教育審議会で具体化を検討したが、最終的には「中長期的な課題」と位置づけ られるにとどまった。 今回の独法化案も源流は46答申とされるが、直接的には行革の枠組みの中 から議論がスタート。昨年4月の閣議決定で「国の行政機関の職員を平成C年 から@年間で@%削減、さらに独法化により国家公務員をO%削減する」との 方針が決まり、国立大独法化については「E年までに結論を得る」とされた。 【写真=岩手大で初開催された独法化の全学説明会。国の方針を説明する海妻 矩彦学長(中央)に対し「現体制の中でも改革可能」など異論、反論も相次 いだ=6月8日】