独行法反対首都圏ネットワーク |
2000.8.22[he-forum 1200] しんぶん「赤旗」8月13日
「しんぶん赤旗」(8月13日付)記事より
大学人が「独立行政法人」という亡霊にとりつかれて一年が経(た)つ。「独立行政 法人」とは、中央省庁の行政改革の一環として編み出された奇妙な制度である。行財 政の減量化と効率化を目的とし、国の企画部門を切り離し、後者を「垂直的減量(ア ウトソーシング)」の名の下に中央省庁の外に出す、というのがこの制度の趣旨であ る。強力な主務省と総務省の監督下に中期目標を指示され、法人の長もまた主務大臣 によって任命されるという、「独立」はおろか、徹底して行政に従属的な制度である。 このような制度の国立大学への強制が検討されるようになったのは、国家公務員の 二五%削減という、これもまた根拠のない数字の「数合わせ」のためであった。 行政の手足 これでは、大学という存在は行政の手足となり、貧困な文教行政は行政改革の名の 下に追認されることになる。先駆的研究や基礎研究は「非効率」として切り捨てられ 、大学自治への介入とあいまって、憲法二三条に規定され「学問の自由」を侵害する ことは明らかである。 そのような状況に多くの人々が危惧(きぐ)を抱き、かつてない規模で、大学教授 会や学部長会議、学術会議と諸学会、教職員組合や諸個人が反対の声を強めた.。特に 地方国立大学において、反対の声は顕著である。 その結果、自民党と文部省は、独立行政法人化はむしろ「大学改革の一環「である 、という虚構に満ちた説明をするようになった。本年五月十一日の自民党政務調査会 の提言は「調整法」などの名称で独立行政法人通則法に一部修正を加える、「国立大 学法人」などの名称を採用する、といった弥縫(びほう)策を提示した。五月二十六 日の文部大臣説明も、この自民党提言を追認したのである。 キーワード では、その「大学改革」のねらいはいったいどこにあるのだろうか。 第一に、政府は国立大学と大学共同利用機関を「新産業の創出」という国策遂行の 機関としたいようである。自民党提言や政府の文書で、「国家戦略」や「戦略企画本 部」といった語彙(ごい)が頻繁に使われるのは、「独立行政法人化」や「大学改革 」が何を目的としているかを示している。 第二に、そのような「戦略」の実現のためには、トップダウンの運営と「効率的」 で」「機動的」な組織再編が必要となる。教授会自治や大学自治そのものが敵視され るのはそのためである。ここでは大学という組織や学問に必要な、ボトムアップやネ ットワーク型の発送は一切顧慮されていない。 第三に、そうした「戦略的」役割を担う大学を種別化し、国立大学を研究中心、高 度職業人養成、教養型などに格差付けすることが目指されている。これは、「再編統 合」「選別と淘汰」とい自民党提言のキーワードを見れば明らかであろう。こうした 「格付け」はしかも、大学が養成すべき「労働力」の格付けに対応してもいる。 この七月以降、国立大学協会の特別委員会と文部省の調査検討会議が、問題の検討を 開始している。しかし、重要なのは法人化の「条件」ではない。現在問題とすべきは 、社会における国立大学の役割の再定義である。国立大学は、国策遂行の「道具」で あっていいのかどうか、これこそが問われなければならない。 自民党提言が公立大学も独立行政法人化の対象とする意向を示し、有馬元文相が私 立大学も独立行政法人化すべき、との意見を述べているいま、問題は国立大学にとど まらず、日本の高等教育全体に関わるものとなった。高等教育に何を望むか、高等教 育の何を継承・発展させていくのか、これは大学人のみの課題ではなく、日本社会全 体の課題でもある。 (おざわ ひろあき・千葉大学助教授)