独行法反対首都圏ネットワーク

2000.8.17 [he-forum 1187] 河北新報8/16
河北新報 00.08.16 社説

学力低下/大学全入時代への警告だ

 大学生の学力低下が著しいという。特に理工系学生の基礎学力が問題になっている。
 ある国立大では、中学生レベルの問題の正答率が、6割以下だったという。東京大に
も、高校レベルの微分積分計算ができない学生がいる。「このままでは日本の将来は危
うい」との声がある。
 原因は何か。「ゆとり」教育を指摘する人が多い。子供の負担を軽くしようと、選択
学習の幅を広げたりしたのが、学力低下につながったという。
 2年後には新指導要領が実施される。小中学校の教育内容は3割削減され、完全週5
日制にもなる。「ますます学力が低下するのではないか」。危機感を強める人も少なく
ない。
 しかし、かつての詰め込み教育は、授業について行けない“落ちこぼれ”を生み、学
校の荒廃を招いた。その反省から生まれたのが「ゆとり」教育だ。Uターンするわけに
はいかない。
 「ゆとり」教育に問題があるとすれば、学習意欲の低下を招いていないかということ
だ。教科書が薄くなった分、学習への関心や興味も薄くなりかねない。
 とすれば大事なのは、どうやって学習意欲を刺激するかだろう。それには、教育現場
でのきめ細かな指導が欠かせない。少人数学級導入などの条件整備が必要になる。求め
られるのは「ゆとり」教育の方向転換ではない。むしろその充実だ。
 では、学力低下の原因として他に何が考えられるだろう。少子化の影響で、大学に入
りやすくなったことが大きいのではないか。
 文部省の試算では9年後、大学・短大の定員と志願者数が同じになるという。学生を
選別していた大学が、受験生に選択される時代が到来する。
 既に前兆が現れている。今春の入試だ。私立大の約3割、短大の約6割が定員割れに
なった。
 学生を確保するため、大学は入試の負担を軽くする傾向を強めている。必死に勉強し
なくても大学に入れるとなれば、簡単な計算ができない学生が増えてもおかしくない。
 学力が低下しているとすれば、大学にも責任があるのではないか。例えば入試の工夫
だ。
 大学は「物理学の基礎となる数学を、高校できちんと教えてもらいたい」と注文する
。おかしな言い方だ。学ばなければ合格できない入試問題を作ればいいではないか。大
学の特色づくりにもなるはずだ。
 どのような学生がほしいかを明確にせず、入試問題の作成を予備校に打診する大学さ
えある。高校までの教育の在り方に問題がないとは言わないが、大学にも反省材料は多
いはずだ。
 理工系の学生の学力だけが問題視されている。文科系はどうか。古典の理解力や国語
力は低下していないか。それが考える力の減退を招いていないか。学力を総合的に考え
る視点もほしい。
 京都大の森毅名誉教授は「分数ができなくても大学では困らない。学生の質はむしろ
上がっている」と語る。必要な学力は何かという問題提起だろう。
 大学全入時代が近い。学力低下問題は「新しい教育体系を考えなさい」との警告では
ないか。 

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