独行法反対首都圏ネットワーク

[he-forum 1132] 東京大学新聞07/18
『東京大学新聞』2000年7月18日付

国立大法人化 公務員型前提とせず
学内研究会が中間報告  学長選挙見直し案も


 国立大の法人化のあり方について検討している「国立大学制度研究会」(総

長の諮問機関、座長・青山善充副学長)は10日、中間報告をまとめた。独立

行政法人通則法を大学に適用することは否定したが、事前規制から事後評価に

重点を移すという「通則法のスキームの骨格」は大学にも応用可能と判断。大

学の自主性を踏まえた目標設定や評価のシステムを提案している。また、大学

が使命を果たしていく上で、教職員の身分設計が「きわめて大きな意味を持つ」

との認識を示し、国家公務員型を前提とせずに多面的に検討することを求めた。

学長の選考に学外者を関与させる案を示すなど、社会の大学への批判に対する

配慮もにじませている。報告は文部省や国立大学協会での検討にも影響を与え

そうだ。(4面に中間報告の要旨)



 国立大の法人化について東大では、法人格の取得自体は肯定しているが、独

立行政法人通則法を直接大学に適用することには反対している。それを踏まえ、

研究会では大学にふさわしい法人制度を検討してきた。



 中間報告は、法人化後の大学の運営について国による一定の関与の必要性は

認めたものの、通則法とは異なる枠組みが必要と指摘。目標や計画は大学が自

ら決めることとし、評価も効率性ではなく、教育研究の達成度を判断するもの

であるべきとした。



 学長選考については、現行の全学投票への批判が多いことに触れ、見直しの

方法に言及。主務大臣による一方的な任命や、学外者を含めた選考委員会のみ

による選考には反対したが、「評議会が複数選考した候補者の中から主務大臣

が任命する」などの案を挙げ、その上で「大学構成員の信任を欠いては、どの

ような『適任者』でも的確な管理運営は不可能」と指摘している。また、全学

的な事項は学長などの権限と責任の下に置き、部局長も参加する運営機関で管

理運営を行うことを提案した。



 文部省は、教職員の身分を国家公務員とする方針を打ち出しているが、報告

は「国家公務員とすることは必ずしも必然的ではない」と述べ、大学の特性を

踏まえた身分設計が必要と強調している。



 具体的には、教官について、能力や成果を反映した給与体系や任期制の活用

を検討課題としたほか、公務員とする場合にも兼業の制限などで特則を設ける

ことを求めた。一方、事務官については、「職務が安定的に実施されることの

重要性」などを挙げて「国家公務員とする合理的理由がある」とした。



 財務面では、個別大学では難しい債権発行などの処理のために、国立学校特

別会計の一部機能を引き継ぐ共同財務処理機関の設立が必要としている。



 同研究会は中間報告に対する各部局の意見を募っでおり、それをもとに秋ま

でに最終報告を作成する。中間報告は、学長選考の方法をはじめ、大学の自治

の根幹に関わる事項や結論を明確に打ち出していない部分も多く、さまざまな

意見が寄せられそうだ。





国立大学制度研究会中間報告(要旨)



2000年7月18日 東京大学新聞



 国立大学制度研究会の中間報告「国立大学の法人化について」の要旨は次の

通り。(1面参照)



【はじめに】=略 



【I 国立大学の法人化の理念と基本問題】 



 (1)大学の使命 知的資産を創造し、優秀な人材を育成すること。この使命

は人類と社会から負託されたもの。



 (2)国立大学の存在意義 研究者養成の主力を担い、教員・医師の育成等の

政策的要請に積極的に応えているのが特徴。

▽学術全般の水準向上

▽地域の学術研究の拠点

▽高等教育の機会均等の保障―といった機能を果たしている。新たな大学シス

テムが直ちに考えられない現状では、その存在意義が認められる。



 (3)国立大学における改革の必要性と法人化



 東京大学がさらなる改革を求めるなら、遠からず国家行政組織の内部にある

ことが阻害要因となる。法人化は改革にとって必要な一つのステッブ。



 (4)法人化の目的と国立大学の責務



 目的は、真の自主性・自律性を獲得し、社会から求められる課題の実現を容

易にすること。しかし、制度設計によっては規制の強化に終わる可能性もなく

はない。文部省の護送船団方式から離れることを意味し、各大学は自已責任を

引き受け、説明責任を果たさねばならない。



 (5)「大学の自治」の新たなる位置づけ



 法人制度の構想にあたっては「大学の自治」への特段の配慮が必要。しかし、

現在「教授会の自治」は批判を浴びており、各教官や部局自治の範囲と全学の

トップマネージメントの範囲について組織原理を明確に示すことが必要。それ

により、大学自治を「抵抗する自治」でなく「貢献する自治」へと昇華させら

れる。 



 (6)国の財政的責務と国立大学の経営の効率性 経費は設置者である国が負

担するのが原則。その根拠はAの特徴と機能に求めるべき。「与えられた資源

を有効に活用する」という効率性を国立大学も追求すべきことは当然だが、教

育研究活動は定量的評価にそぐわないことに注意する必要がある。



 (7)長期的高等教育政策を論ずる場の設定=略



【II 制度設計の前提条件】



 (1)法人化の単位 1大学1法人が望ましく現実的。



 (2)法人格取得の意味



 大学組織と法人組織を分離せず、大学イコール法人とする。法人化後の国立

大学は「国が設置し、経費を負担するが、管理は国立大学自身が行う大学」と

なり、文部科学省との関係は、指示監督関係から、協議契約関係に変わるべき。



 (3)国立大学に法人格を付与する法律



 すべての国立大学の法人化を単一の法律によって実現する。法律の名称は

「国立大学基本法」か「国立大学法人法」とする。



 瑣末な事前規制をやめ、法人が自由に活動できるように運営費交付金の財源

措置をし、行政の関与は事後評価にとどめるという独立行政法人通則法のスキー

ムは、その限りで国立大学に応用できる。一方、通則法には国立大学に適用で

きない部分が多々あり、相当に換骨奪胎しなければ適用しがたい。



 (4)国立大学法人の連合組織=略



【III 法人の名称、目的および組織】



 (1)法人の名称 「国立大学法人○○大学」とする。



 (2)目的



 国立大学法人に共通の目的を法律で定める。各大学は沿革や地理的条件をふ

まえ、教育研究の基本方針や長期的目標等を合む「大学の基本的なあり方」を

定める。



 (3)組織



 学長を中心とする執行部門の権限を強化することは、部局の自治を基礎とし

て形成されている現行の体制と距離があり、慎重な検討と工夫が必要。特に大

規模大学では、現状のまま管理運営機能を学長・大学本部に集中させても効率

的な運営は期待できない。部局の果たすべき役割を明確にする一方で、対外的・

全学的な事項は学長の権限と責任の下に置き、部局長も参加する運営機関を管

理運営の中核に据える制度等の創設が検討されるべき。



 内部組織の編成は各大学の裁量に委ねられるべき。ただし、管理運営の基本

組織は法令に位置づける。



 (4)学長の選考



 全学選挙により行われている学長の選考を見直すとすれば、大学の自治に基

づく学長選考の民主的手続の確保に加えて、「真に大学運営に見識を有する適

任者」の確実な選考という要素を考慮する必要がある。主務大臣による一方的

な任命制は論外としても、多様な方法が考えられる。まず▽評議会が選考する

▽学外者を加えた選考委員会等で選考する方法が考えられるが、後者は大学と

して到底容認できない。さらに▽評議会が複数候補者を選考し、その中から主

務大臣が任命する▽学外者を加えた選考委員会等で複数選考し、その中から全

学投票か評議会等で選考する−−方法も考えられる。しかし、大学構成員の信

任を欠いた学長の下では、柔軟な教育研究や効率的な運営という、法人化の目

的が達成できないことを忘れてはならない。



【IV 教職員の身分および事務機構】



 A教職員の身分



 (1)制度設計の前提



 大学が教官の任免を決定する原則は維持されるべき。



 (2)公務員か非公務員かという選択肢



 教職員を国家公務員とすることは必ずしも必然的ではない。公共性・公益性

を国立大学法人について肯定することは可能だが、一般的観点からのみ決定す

るのは短絡的。公務員とするかどうかの選択さえすればよいという発想をとる

べきではなく、国立大学法人の特性に応じた制度設計がなされるべき。



 (3)教官の身分



 一般行政機関の職員と同じ法制度を適用することには問題がある。モラール

とインセンティブを高めるために、能力・成果を反映するように給与体系を再

検討するなど多様な方法が検討されるべき。任期制も制度的な工夫の一つ。服

務規範について、勤務時間は裁量労働制を導入する必要がある。兼務・兼職の

制限については、規制緩和を図っていくべき。



 (4)事務官等の身分



 事務官等の身分は教官の身分と切り離して、選択することも十分考えられる。

職務の遂行が安定的に実施されることの重要性に照らせば、国家公務員に適用

される法令で規律することが合理的。国家公務員の身分を維持することが法人

の制度設計を容易にし、人事管理上の負担を増大させないことにもなる。ただ、

教官を国家公務員としない場合には、一法人内において異なる身分の職員が混

在する新たな制度となることに留意する必要がある。



 B事務機構



 (1)事務機構のあり方



 企画立案機能と管理執行機能をある程度分離することと、本部事務部と部局

事務部という現在の二元的な体制を改めることを機軸とした、組織の大幅な見

直しが急務。



 (2)事務官の人事異動のあり方



 法人間で協議の上、人事交流を行う仕組みが必要。



 【X 活動と評価】



 (1)活動(事業)の範囲



 独立行政法人通則法の枠組に従い、教育研究の細部まで規制するのではなく、

独自の法制的枠組を工夫すべき。



 (2)活動目標、活動計画および評価



 国立大学は、長期的な目標・方針を踏まえ、一定期間内におけ教育、研究、

経営に関する基本的な方針を活動目標として設定。その実現のための具体的な

方策を活動計画として提示する。期間は5年とすることに一応合理性がある。

目標の設定は主務大臣との合意に基づくべき。計画は、大学が主務大臣に届け

るものとし、大臣は計画が著しく不合理な場合に是正を求めることがきる。計

画は期間内であっても変更できることが不可欠。



 国立大学法人の評価には、通則法とは別の評価システムを構築することが必

要。評価は

▽活動目標・計画で目指された教育研究の改善の達成度を評価する

▽教育と研究の評価には効率性は馴染まず、量の面を取り込みつつも、質の面

からの評価軸を設定する

▽大学評価・学位授与機構の評価を尊重することは妥当だが、本来複数の機関

の評価結果を反映させるべき

▽結果は公財政資金の削減だけでなく、教育研究が改善されるように活用する

などの条件を満たすべき。



【VI 財政・財務制度】



 (1)制度設計の基本的考え方



 運営・財務に関する大学自らの厳しい内部評価とともに、国民への情報公開

と説明責任を基礎とした外部評価が求められる。



 (2)厳しい財務状況下での財源確保の方策=略



 (3)共同財務処理の機関



 国からの交付金の確保と大学への配分、長期低利資金の借入(債権発行)、長

期債務の返済、大規模施設整備の効率的な財務処理という観点から、国立学校

特別会計を一部継承する機関が必要。



 (4)運営費交付金のあり方



 運営費は

▽使途と年度繰越に大学の裁量を認める

▽交付金措置の中期的な確実性・安定性を保証する

▽自己収入は各大学の収入に直接計上

▽競争的資金は交付金算定のための収入要素から除外

▽剰余金・積立金の使途に大学の裁量を認める

▽高度・先端的な教育研究経費に充当される交付金の算定・配分には大学内部での学術研究評価を導入―といった条件を備えるべき。



 (5)その他の財源措置のあり方



 基本財産については

▽土地建物は国が現物出資し、困難なら大学が無償使用できるようにする

▽重要な財産の処分は可能な限り大学の自主性・自律性を尊重

▽大学への寄付金は特定公益法人並みの扱いとする

▽地方公共団体による大学への寄付を可能とする―といった条件整備が望まれ

る。

施設整備費についても

▽経常補助金とは別に、国が交付する

▽大学が長期借入金と債権発行が行えるようにする―ことを望む。



 (6)これまでの財政・財務制度案の検討=略



【おわりに】=略 


目次に戻る

東職ホームページに戻る