独行法反対首都圏ネットワーク |
独法化問題週報抄
(2000.6.29 [he-forum 1066] 独法化問題週報抄)
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/wr/wr-15-00628.html
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【選挙結果】
与党がかなり弱体化しただけでなく文部大臣歴任者が3名落選した[15-1]。文部省の教育政策が国民から積極的に支持されているとは言えない状況になったと言えるだろう。国立大学は、やや有利になった政治的状況をどのように活かしていくかを真剣に考えなければなるまい。
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【国立大学協会6月総会続報】
6月13/14の国立大学協会総会についての詳しい情報が少しずつわかってきた。
6/24の毎日新聞速報[15-2]は5月以降の流れを詳細に報道している。その中で驚いた経緯は、6月9日に調査検討会議の構成や人員の案[15-3]が文部省から蓮見会長に通知があったにもかかわらず、総会13日まで伏せておいたことだ。
総会で学長達は調査検討会議の詳細が決まっていることを知って衝撃を受け、参加の是非の議論から参加後の戦略の議論に変わったという。参加合意を得るための「不意打ち作戦」と言えなくもない。
一方、各大学で学長の報告が行われているようだ。北大でも6月26日の部局長会議で詳しい報告があった[15-4]。北大学長によれば、調査検討会議は審議会のようなものにはならず、なし崩し的に検討を終了させるのではなく、13年度中には一度、国大協の会議が必要になるだろうと述べている。しかし、これは、北大学長個人の希望的観測という性格の発言と推測される。
調査検討会議は文部大臣の私的諮問機関である「賢人会議」[15-6]の下に設置される。文部省は当該会議での議論を参考にして法案を作り上げることが予想されるが、法案の是非を議論するのは最早国立大学協会ではなく国会であることを考えると、最終案への国立大学協会の拒否権は幻想である懸念が大きい。
とすれば、調査検討会議での議論に入る前に、当該会議の性格について文部省と覚書を交わさねばなるまいが、国立大学協会の戦略は明確ではない。この点について国立大学協会に共同要望書や共同意見書を出す動きが複数ある。
国立大学協会にできる設置形態検討特別委員会の委員の顔触れがわかった[15-5]。第一回の特別委員会は7月5日に開かれる。
調査検討会議の形骸化を防ぐことは大学側の文部省相手の努力だけでは困難であり、日本の大学の直面している様々な問題についての世論の関心と理解が高まることが不可欠であることは前号でも述べた。国立大学教員はそれぞれの立場でそれぞれの方法で学外に働きかけていくことが必要である。
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【豊島耕一氏の主張】「国大協と教員」[15-13]より
「国大協がもし『次善の策』を取らざるを得ない事態になれば,われわれとしてもその線で国大協を”バックアップ”して,一致してがんばらなければならない」というタイプの考え方を批判し「国大協追従のイデオロギーは,国大協へのメンタルな殉死とでも言うべきものだ.どのような個人やグループ(教授会,個別大学,組合など)も,名実ともに原則的な立場をとり続けるべきだし,またそのことによる何の不都合もない.そしてこのことは「最後の審判」の日まで「公論」を続ける基盤を持つことであり,また,かりに行政法人化が国会で決まるとしても,いくつかの大学が国立大学として残る可能性につながるだろう...そして,来るべき真に独立した地位を得るであろう日に備えるべきなのだ.」...「国大協は大学の自由を守る砦の一つになりうる可能性はあるが,もしその障害物に変わったときは批判の対象にしなければならないというだけである.国大協は組織の形態の面でも,総会メンバーを学長とし,一般構成員の実効的な意見反映の制度的保障を持たない家父長的な性格のものである.自由を守る砦は他にもあるし,また作らなければならない.」...
「「茹でガエル」という話を聞かれた方は多いだろう.カエルを熱い湯に入れると飛び出して逃げるが,水から少しずつ温度を上げると逃げずにそのまま死んでしまうという実験である....行政法人化は数年前まではとんでもないこと,大学にとって致死的なものだったはずだが,文部省の妥協,国大協の玉虫色化というように少しずつ徐々に「温度」を上げられると,みんななかなか暴れて飛び出そうとはしない.むしろ苦しみもだえている人間が風変わりに見えるようだ....「大勢」がそうなった以上,もはやこの流れに乗るしかない,と考えて,何となくぬるま湯に浸かろうとする人も増えるだろうが,問題は温度感覚が麻痺してしまわないかということだ.この話の一般的な教訓は,体感温度に頼ってはならず,絶対温度計をいつも見ていなければならないということだろう.その温度計の重要な目盛りは憲法23条と教育基本法10条のはずだ.」
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【国立大学の光熱費カット】
99の国立大学は今年度、総計53億円がカットされたという[15-10]。問いあわせに対し、文部省は「光熱費の財源確保については、各大学に配分された(目)校費の予算内で各大学の判断に委ねられている」と答え、他の経費の中から節約等の努力で光熱費を捻出することを強いられたと言える。理由としては「平成12年度予算編成においては、厳しい財政状況の中、限られた財源の中で経費の一層の合理化・効率化・重点化を徹底することとして、各種の経費を節減したものである。」と述べ、「各大学において大学全体で既定経費の徹底した見直しを行うなど、教育研究に支障を生じることがないよう促している」そうだ。要するに53億円くらいの光熱費なら無駄を省けば浮くだろう、という議論だ。大蔵省の段階で減らされたとのことであるが、今年度の国立大学関係の予算が大幅に減ったとは聞かないので、53億円がどこに回ったのかを調べる必要がある。
【研究効率の追求は研究の創造性を下げる】
大蔵省・文部省は、大学の基盤的研究費をなくし競争的研究費に一元化しようとしているらしい。基盤的研究費がある限り、大学は競争的環境に置かれないため研究成果が上がらないとでも思っているのだろうか。しかし、研究は効率を求めると効率が下がるという法則があることが科学技術白書97のデータからわかると渡辺勇一氏が指摘した[15-8]。国立試験研究機関の中核的研究者を対象に行なったアンケート調査結果が記載されているが、最大成果を上げた研究についての促進的・阻害的要因という項目では、成果に促進的に働いた因子は高いものから順に、
P1)自分の関心・意欲が生かされた
P2)自分の知識・技術・経験
P3)研究者に許されたテーマ運営の自律性
P4)所外研究者との研究交流
P5)学会参加・発表の自由度
P6)研究に注力できる個人生活・研究所生活
研究に阻害的に働いた因子は低いものから順に
M1)研究雑務の処理体制(不備)
M2)研究資金使用期間の制約(予算年度などの)
M3)研究者の処遇システム
M4)研究所を対象とした評価制度
M5)研究資金用途の制約(費目間の流用制約など)
となっている。独立行政法人化後は阻害因子が多少は弱まる(M1・M2・M5)が、M3・M4は強まるだけでなく、促進因子P1・P3・P6は明らか損なわれる。マイナスを減らしてもプラスが減っては余り意味がないと言える。さらに、最大成果をあげた研究資金の性格としては
第一位)研究所の経常的研究費(均等配分)50.2%
第二位)国の助成費・政府出資金 43.8%
第三位)研究所の重点配分 26.3%
第四位)官民の共同・受託研究費 11.5%
第五位)その他の研究費 11.8%
となっている、経常的研究費の削減が研究を阻害することが如実にわかる。
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【4月施行の改正国立大学設置法について】
12号[wr-12-00529]で「4月に施行された改正国立学校設置法によれば、評議会は反対表明をしても学長は総合的に判断して独立行政法人化を受け入れてもよいことになっている。」と述べたが、これは政府側の解釈であった。全大教資料No.98-10,1999.6.25[15-7]
の「(評議会は)審議機関か意思決定機関か」という項目にこう書いてある。「国会審議のなかでも度々とりあげられた問題ですが、この問題をめぐる質疑と答弁は終始かみあいませんでした。この問題については、むしろ「審議機関」か「意思決定機関」かという二分法に引き摺られて、「改正」法は教授会・評議会から「議決=決定」の権能を奪ったという誤った理解が横行することを危惧します。..文部大臣が「評議会が、学部など各部局との関係において、各部局の意見を全学的な観点から調整しつつまとめるという権能を持っている、そこがやっぱり最高の機関」(5/13林議員の質問に対して)と国会答弁で述べていることからしても、慣行通り評議会を最高の「審議機関」=「意思決定機関」と解し、その立場での運営をはからせることが重要です。」
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【「国立大学は英国のエージェンシーそっくり」】
英国の政治制度に詳しい小堀眞裕氏によると[15-11]、皮肉なことに「国から自律性をもちつつ、独立の法人ではなく、構成員も国家公務員で、長も自ら選挙して選んでいるという英国のエージェンシーとそっくりな組織は、日本では国立大学」。
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【発行者の論説:国立大学立行政法人化で得をするものは誰か】
得をする者は誰かという視点で国立大学独立行政法人化を論じた小論[15-9]より。「5月26日、文部省は臨時国立大学長会議を召集し国立大学の独立行政法人(以下、独法)化の詳細を詰める作業に協力要請し国立大学協会は6月14日、その要請を受けた。このような根本的制度変更は世紀に何度もできることではない。誰にとって得か、長期的に得か、得は幻想ではないのか、損得で考えてよいか、等の吟味は省けない。
文相は学長会議で、独法化により法人格を得て、文相の干渉から大学は解放され「運営の自由」を得るメリットを言葉を尽くして説いているが、大学にとってのデメリットは大きい。昨年11月の大蔵省財政制度審議会制度改革・歳出合理化特別部会の議論によれば、科学技術立国の資金は国立大学のスクラップアンドビルドから捻出される。大学は残存数が予め決められたサバイバルゲームを強いられるのである。より根本的デメリットは、生き残る大学も学問の自由の法的保障を失うことだ。学問・教育の基盤整備を目的とする運営の自由のために学問・教育自身の自由を失うのは馬鹿げた主客転倒だ。」
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【本の紹介】[15-12]
日本科学者会議大学問題委員会編「21世紀の大学像を求めて」
競争・管理から共同・自治の大学づくりの提言「刊行の趣旨」「21世紀の大学像の原理は、競争・管理ではなく共同・自治であろう。しかし、政府の大学改造戦略は、国立大学の独立行政法人化や私立大学の18歳人口急減を背景とする生き残りを賭けたサバイバルなど、まさに大学の競争・管理の強化にほかならない。
大学は、長い歴史のなかで幾多の試練のもとに生成発展し、学問研究や教育の拠点として、人類史上、かけがえのない固有の役割を果たしてきた。21世紀は「知の世紀」ともいわれ、その創造・継承の中心である大学の存在意義はますます大きくなろう。
時代の転換、社会の変化などに応じ、今日、大学のあり方や責任が問われるのは当然であるが、それは大学の本質や理念を踏まえ、人々への責任を負う立場から、長期的・総合的視野のもとに検討されなければならない。
しかし、現に進行しつつある大学改造は、そのような展望や視野からではなく、「行政改革」「財政構造改革」「科学技術創造立国」などの政治経済戦略への大学の従属化である。これにたいする大学・学部の即時的・個別的・競争的対応では、それぞれが分断支配され、大学の変質・解体は免れない。
いま必要なことは、大学や大学関係者が、人々や社会への奉仕の立場、未来への展望に立って、大学の使命や役割を問い直し、その創造的改革の方向を明確にすることである。また、それを基礎に、大学間の連帯を強め、財政支出の飛躍的増加や大学自治の尊重など、真の大学改革のための基本的政策を国や社会に積極的に提起することである。その過程で大学の共同や自治が強化され、大学危機克服の力量が形成、蓄積されよう。」
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バックナンバー:
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/wr/backnumber.html
発行者: 辻下 徹
**この週報は発行者の個人的な意思で行っています**
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