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国立大法人化/改革による利害得失示せ(6/3河北新報社説)
(2000.6.3 [he-forum 973] 河北新報社説06/03)

『河北新報』2000年6月3日付社説

国立大法人化/改革による利害得失示せ
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 99の国立大すべてが、10年後ぐらいには国から独立した行政法人になりそうだ。今月中にも、関係者や識者による検討会議が設置される。
 国立大にとっては戦後最大の改革だが、法人化という結論が先にあって、どんな利害得失があるのかが具体的でない。早急に示す努力が必要だろう。
 国立大には、確かに多くの課題がある。教員から学生への一方通行的講義、安易な進級や卒業、個性の乏しさなどだ。
 「このままでは、欧米の大学に取り残される」との指摘もある。活性化のために、何らかの改革が必要なのは明らかだ。
 しかし法人化は、活性化を第一の目的として持ち出されたわけではない。出発点にあったのは、中央省庁再編に伴う国家公務員の定数削減計画だ。
 国立大の教職員は、約12万5000人。この人たちを減らさなければ、来年度から10年間で公務員定数25%削減という目標の達成は難しい。
 法人化論議は、そこから始まった。「数合わせが目的」との批判は、必ずしも的外れではない。
 法人化そのものへの疑問もある。「効率性を求める法人化は、大学に適さない」「競争原理にさらされ、弱肉強食による統廃合が進む」「学問や研究の質的低下を招く」などだ。
 しかし法人化しなければ、まともに定数削減の対象になる。文部省は「やむを得ない」と法人化を容認、中曽根弘文文相が先月、国立大学長会議で事実上の決定を通知した。
 ただし、大学が持つ特性を考慮し、現行の独立行政法人通則法をそのまま適用しないことも明らかにした。大学の自治を尊重するための「調整法」か「特例法」を設けるという。
 例えば、人事や事業評価。通則法では主務大臣の権限が強いが、大学の主体性をある程度認めることなどが考えられている。
 ともあれ法人化は、既定事実化したと言えよう。だが、将来の具体像は見えない。法人化という結論だけが先にあり、多くの問題が先送りされている。
 その1つに、教職員の身分がある。文部省は「公務員型」とする方針だが、公務員とどう違うのかが明確でない。
 公務員の身分が保証されるならリストラの心配はないが、保証すれば定数削減の抜け道にもなりかねない。基本的な問題なのに具体像を示さず「まず法人化」だけが独り歩きしている形だ。
 授業料がどうなるのか、競争激化で地方の国立大は生き残れるのか、欧米諸国の半分にも満たない国立大の予算はどうなるのか、なども不透明なままだ。
 法人化には、多くの利点もある。優れた教授の引き抜きや、大学の判断での学科や専攻の設置ができることなどだ。活性化につながるだろう。
 大事なのは、それらの利害得失を、損得対照表のようにして国民に示すことだ。結論が先で、後はのつじつま合わせでは、理解を得られない。
 国立大の在り方は、21世紀の日本の科学技術や文化の発展を左右する。何よりも関係者は、その視点を忘れてはならない。



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