独行法反対首都圏ネットワーク

国立大法人化 将来像を見据えつつ(5/31信濃毎日新聞社説)
(2000.6.1 [he-forum 961] 信濃毎日新聞社説05/31)

『信濃毎日新聞』2000年5月31日付社説

社説=国立大法人化 将来像を見据えつつ

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 国立大学の大きな転機といえる。国の組織から切り離し、独立した法人にする方針である。中曽根文相が進めることを正式に表明した。具体化するため、文部省が近く検討会議を設ける。

 研究が効率一辺倒に流れないか、地方大学への影響は…。心配は依然、消えていない。高等教育の将来に禍根を残すものであってはならない。

 大学が変革を迫られているのは確かだ。勉強しない学生を安易に卒業させる状況が続いてきた。研究の水準を高める課題も重い。国際競争が激化するなか、教育や研究の質向上が急務である。

 文相は、法人化により弾力的に学科を編成したり、教職員を配置できるようになると指摘した。国の組織から離れることで規制が緩み、大学の自主性や自立性が高まるなら、それは悪くない。

 気掛かりな一つは、国立大の法人化が行政改革の流れで出てきたことだ。政府は独立行政法人化も含め、国家公務員を十年で二五%削減する方針を示している。大学をどうするかではなく、行政スリム化の狙いで始まった論議である。

 独立行政法人はコスト削減に努めたり、効率化の計画を管轄する大臣に報告して評価を受ける。必ずしも大学の活動になじむ仕組みではない。すぐには成果の出ない研究分野やテーマが扱いにくくなるようだと、ひずみを生じる。

 文部省は、独立行政法人の制度をそのままは当てはめず、「大学の自治」を尊重する「調整法」か「特例法」を設け、特例措置を盛り込むとしている。ただ、まだ具体的に詰めてあるわけではない。財政や人事、教育研究体制などの制度について、来年度中に結論を出す。

 これからの大学像をどう描くかという観点から、文部省は論議を尽くす必要がある。文相は「公的投資の拡充を進める」と大学教育の予算拡大に取り組む姿勢も示した。日本の高等教育への財政支出は欧米に比べ、見劣りする。実現に向け、突っ込んだ検討を期待する。

 大学の側も、いよいよ手をこまぬいていられない。自己改革に一段と力を注ぐときだ。複数の国立大が連携し、互いに単位を認め合うといった取り組みが現に各地で模索されている。

 信州大学はカリキュラムの見直しなどが活発だ。例えば、医学部は臓器移植などの研究を専門に行う独立専攻を大学院に設けた。工学部は学部から大学院修士課程まで六年間の一貫教育を検討している。それぞれに工夫を凝らし、個性化や魅力アップを図ってもらいたい。

 存在感を確かにする一つのカギは、地域とのつながりにある。この点でも、地域の人たちを対象にした教育学部の「出前講座」など、試みは始まっている。地道な活動を積み上げ、開かれた大学づくりを一層進めてほしい。

 信大の将来は地域の産業や活力にかかわる重要な問題である。この機会にあらためて関心を向け、ともにもり立てていく方策を探ることが大切だ。



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