独行法反対首都圏ネットワーク

北大・辻下氏の論説「国立大学の責任」
(2000.5.28 [he-forum 946] 国立大学の責任)

国立大学のみなさまへ
北大の辻下です。(重複する場合はお許しください。)

 5月26日の文部大臣の説明の内容は、昨年9月20日の前文部大臣の説明からの実質的進展は全くありませんでした。文部省のスケジュールは8ヶ月の間、停止していたことになります。当初は「平成12年の初頭には文部省としての方向付けを行い「平成12年度のできるだけ早い時期までには、講ずべき特例措置等の具体的な方向について結論を得たい」」と表明していたのです。これにより、国立大学側の協力なしには、独立行政法人化の具体的作業を文部省は一歩も進めることができないことが見事に証明されました。

 昨年10月に、国立大学の独立行政法人化の実現を回避することは国立大学に勤務するものの歴史的義務ではないか、という私見を述べましたが、経緯を8ヶ月間見守って来て、その思いは一層強まっています。国立大学自身が望み協力しない限り国立大学の独立行政法人化は実現し得ないのです。文部省の圧力で仕方無く独立行政法人化したのだというような言い逃れの余地は全くない、と言うことができます。

 この8ヶ月の間に、国立大学内外から多数の危惧の声が上がると共に、専門家によって独立行政法人制度の多角的な分析が進みました。その結果は独立行政法人制度が大学には適合し得ないことを詳細に示しています。独立行政法人化が国立大学の構成員の総意などではないことが今や確認済みであるだけでなく、独立行政法人化が学術研究・高等教育の場に穿つ大穴は、有能な実務家が運用で埋めることができるような生易しいものではなく、国立大学を学術研究・高等教育の場から国策研究国策教育の場へと変貌させてしまうことが論証されているのです。

 国立大学内部で力を持つ実務家層は独立行政法人化の是非を理念的に論ずることはもはや無意味だとして議論に参加せず、実務的立場から独立行政法人化の準備を進めています。この8ヶ月の事態の推移が証明した「独立行政法人化は不可避ではない」ということを正視しないで、独立行政法人化を前提として走り始めている実務家層の盲目な活動にストップをかけること、それが、今緊急にすべきことだと思います。それには、独立行政法人化を白紙に戻すよう各大学で学長が意思表明するよう働きかけなければなりません。

 現制度を廃止し新たな制度に移行するような重大事については、構成員全員の意思を明確な方法により問い学内の総意を結集することは評議会の義務だと考えます。しかし、4月から施行された改正国立学校設置法によれば、最高意思決定機関であった評議会は、審議機関に格下げとなり学長の判断を拘束する権限はなくなりました。学長は総合的見地に基づいて、評議会の意見とは異なる決断を下すことが許されています。

 大学で実際に教育研究に携っているものの多くは独立行政法人化に反対しています。評議会は、独立行政法人について構成員の総意を明確な方法で確認し学長に提言することを怠ることは許されないと思います。もしも評議会提言に反する決断を学長が下すならば、その責任は学長に留まります。従って、大学に居る者は、独立行政法人化後に発生する諸問題について強い立場で対することが出来ることになります。

 国大の構成員は、評議員に学内の意思を適切な仕方で結集するよう強く働きかけなければなりません。

 以上のことは「緊急性」ゆえに、この1〜2週間、最優先されるべきことです。しかし、長期的に真に重要なことは、国公私大学が文部省からまず精神的に独立し、また種々の威勢の良いアドバイスや嵩にかかった批判などに惑わされることなく、政・財・官からの「学の独立」の実現に向けて地道な気の長い活動を開始することだと思います。どれほど理想主義的・非現実的に聞こえようと、それが大学にとって、己が使命をより良く果たすためには、一番現実的で確実な道であると私は信じています。

 社会が動揺しているときこそ、大学は信念を以て不動を保ち社会の動揺を減衰させるよう努める使命があります。守旧派・既得権益墨守・世間知らず・旧態依然等々、マスコミや財界からの罵詈雑言などに怯んではいけないのです。戦前、大学は総力戦体制の最先鋒として活躍し破滅への日本の歩みを早めました。種々の恫喝に屈したという面もあるでしょうが、社会の威勢の良い掛け声に呼応することを大学の使命と勘違いし自ら進んで参入したとも言えるのです。大学が社会の動揺につられて動揺するとき、大学の存在意義は著しく矮小化されてしまうと思います。

 マスコミの皮相的な見方とは裏腹に、5月26日の文部大臣の説明は、政官ダイナミックスだけでは国立大学の独立行政法人化は実現しえないことを告白し、国立大学に何とか協力してほしいと懇願したものになっています。教育と研究という職務を果たすものは、教育と研究の場を独立行政法人化せよという無思慮で傲慢で恣意的で無根拠な政策によって破壊されることを守ることを、憲法および教育基本法によって命じられています。ここで譲歩することは、現在および将来の国民に対して許されることのない罪を犯すことです。

 6月13/14日の国立大学協会総会では、独立行政法人化反対を保つとともに、学の独立を目指して歩みだすことが必要です。国立大学協会・公立大学協会・私立大学協会が連携して、文部省から独立した高等教育国民会議の設立の検討を始めるなども、その一例となると思います。



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