独行法反対首都圏ネットワーク

福井大学教育地域科学部教授会の見解
(2000.5.17 [reform:02790] 福井大学教育地域科学部教授会の見解)

 福井大学の森です。
 昨日は教育地域科学部の教授会見解をうまく送れなくて申し訳ございませんでした。改めて送らせていただきます。2月から学内でシンポジウムを2回行い、「有志の会」が中心となって5月12日に教授会提案を行いました。50頁程度の資料集も作成し学部構成員全員に配布しました。5月12日の教授会では議論のすえ採決なしで一部修正の上全員の合意で承認されました。内容のポイントは「通則法」への反対で合意したことです。5月9日に出された自民党の提言には時間的な関係で触れていません。15日に学部長を中心に教員7人で記者会見を行い、16日の新聞各紙で大きく報じられています。今後の情勢も予断を許しませんが、機敏に対応していきたいと考えています。



独立行政法人化問題に対する福井大学教育地域科学部教授会の見解

 福井大学教育地域科学部教授会において、独立行政法人化問題(以下、独法化問題と略す)に対する見解を以下のように表明する。見解の柱は、第1に今回の独法化問題の背景、第2に「独立行政法人通則法」にもとづく独法化の問題点、第3に今後の国立大学の在り方、の3点とする。

1、独法化問題の背景
 周知のように、今回の独法化問題は、背景として大学審議会の答申『21世紀の大学像と今後の改革方策について−競争的環境の中で個性が輝く大学−(答申)』(1998.10)等で、市場原理・競争原理を大学改革の柱とし教育の公共性を否定する方向が出されている状況があり、直接的にはその市場原理の考えに基づいた政府の行政改革での議論が出発点である。この行政改革によって、国家公務員の25%定員削減が現実の日程にのぼっている。今回の行政改革は橋本内閣の行政改革会議の最終報告(1997.12.3)によって基本方向が定められ、その後小渕内閣へと引きつがれた。1998年6月の「中央省庁等改革基本法」の「第4章 国の行政組織等の減量、効率化等」の「第3節 独立行政法人制度の創設等」では独立行政法人の制度が規定され(第36条)、1999年4月の中央省庁等改革推進本
部「中央省庁等改革の推進に関する方針」では、国立大学の独法化について、「大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環として検討し、平成15年度までに結論を得る。」(「1−第2 独立行政法人化関連」)とある。しかしながら現在、2003年度ではなく2000年度の早い段階での方向性が決められようとしているのである。

 前述の大学審議会答申(98.10)でさえ、独法化については、「独立行政法人化をはじめとする国立大学の設置形態の在り方については、これらの改革の進捗状況を見極めつつ、今後さらに長期的な視野に立って検討することが適当」(答申書 p.37)と述べられているように、早い段階での結論には慎重である。また同答申では、国立大学の在り方についても、「国立大学については、国費により支えられているという安定性や国の判断で定員管理が可能であるなどの特性を踏まえ、その社会的責任として、計画的な人材養成の実施など政策目標の実現、社会的な需要は少ないが重要な学問分野の継承、先導的・実験的な教育研究の実施、各地域特有の課題に応じた教育研究とその解決への貢献などの機能を果たすべきことが期待されている。」(p.19)と述べられ、さらに高等教育を受ける機会の均等についても「都市圏のみでなく全国的に均衡のとれた大学配置による教育の機会均等の確保への貢献」「学生が経済状況に左右されることなく自己の関心・適性に応じて高等教育を受ける機会を確保することへの貢献」(p.20)との指摘もある。大学審議会は、このような国立大学の機能を果たしていない大学に対しては厳しい評価をすべきであるという立場であるが、答申の中で国立大学の意義にふれていることは確認しておく必要がある。この間、鹿児島大学の田中学長が中心となり本学の児嶋学長も協力体制をとった地方国立大学の連携の動きは非常に重要な取組みであり、地方国立大学の地域における貢献や役割は、ますます重要となる。

2、「独立行政法人通則法」にもとづく国立大学の独法化の問題点
 「独立行政法人通則法」(以下「通則法」と略す)は、1999年7月16日に公布されたが、「通則法」の基本的な構造のもつ問題点について指摘しておきたい。

 (1)主務大臣が独立行政法人に対して、3〜5年の中期目標を定め、指示する(第29条)。独立行政法人は、それに基づいて中期計画を作成し、文部大臣の認可を受けなければならない(第30条)。さらに、その中期計画に基づいて年度計画を定める(第31条)。したがって、独立行政法人は、主務大臣が定めた目標を達成するべく、年度ごとの業務運営を行うという構造になっている。そして、主務大臣は「中期目標の期間の終了時において、当該独立行政法人の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、所要の措置を講ずる」(第35条)こととなっている。以上の条文から、主務大臣の指示の下におかれる独立行政法人という構造を国立大学に適用することによって、大学の自治や学問の自由の侵害が危惧される。

 (2)中期目標でいう目標とは、3〜5年間での業務運営の効率化、国民サービス等の質の向上、財務内容の改善等を意味し、中期計画とは、中期目標の達成のための措置や予算、収支計画及び資金計画などである。このような目標・計画設定によって、3年から5年という短期間における「効率性」が求められることは、大学の教育・研究にはなじまないと考えられる。とくに基礎的な学問研究や長期にわたる研究の阻害が危惧される。

 (3)主務省におかれる独立行政法人評価委員会(第12条)については、主務大臣は、中期目標の設定・中期計画の認可・中期目標期間終了時の検討の際に、評価委員会の意見を聴かなければならず、また、各事業年度および中期目標期間における業務実績の評価は、評価委員会が行うこととされている(第12条・第32条・第35条)。よって、評価委員会は主務大臣と並んで、独立行政法人の将来を決める権限をもつ存在である。この評価委員会が正しく機能することの保障と委員の選任については、不明な点が多い。

 (4)独立行政法人の財政については、「政府は、予算の範囲内において、独立行政法人に対し、その業務の財源に充てるために必要な金額の全部又は一部に相当する金額を交付することができる」(第46条)とあるが、毎年度、3〜5年の事業評価・見直しごとに予算を通じての統制が行われることが予想され、また、授業料の高騰化によって高等教育の機会均等が保障されないという懸念がある。

 (5)独立行政法人の長は、主務大臣が任命するが、「事業及び事業に関して高度な知識及び経験を有する者」のほか、「事業及び事業を適正かつ効率的に運営することのできる者」(第20条)も任命することができる。大学の使命である研究と教育の自由を尊重するよりも、「効率性」を重視する長が生まれる懸念がある。

 以上のほかに、独立行政法人は、企画立案機能と実施機能を分離し、その実施機能を担当するという考え方があるが、これについても大学のように両者の機能を合わせもっている機関にとっては根本的になじまない考え方である。

 文部省は「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」(1999年9月20日)において、「特例措置」について提案している。同日の文部大臣の挨拶では、「大学という教育研究機関に必要かつ相当な特例措置等」が不可欠としている。しかしながら、前述した(1)の主務大臣による目標設定・指示という構造は基本的に維持されており、「特例措置」と「通則法」との関係が明らかではない。

 また、今年の3月30日に「提言 これからの国立大学の在り方について」(自民党文教部会・文教制度調査会 教育改革実施本部 高等教育研究グループ)が公表された。この「提言」の基本的な立場は、「独立行政法人制度の下で、通則法の基本的な枠組みを踏まえつつ、相当程度の特例を加えた特例法を定めて、これにより移行するなどの方法を検討すべき」とあるように、「通則法」の基本的な構造にもとづく立場を維持している。この「提言」には、部分的に全国の国立大学教職員の声が一定程度反映している側面があるが(地方国立大学の果たす役割、機能の重視の文言は、前述したように3月18日に44の地方国立大学学長が集まり、鹿児島大学の田中学長のリーダーシップのもと自民党に申し入れを行った反映) 、一方で「護送船団方式からの脱却」や「国立大学間の再編統合の推進」等を強調する「提言」が、どこまで本格的に地方国立大学の意義や役割を重視しているのかは非常に危惧されるところである。

 以上述べてきたように、「通則法」を国立大学に適用し独法化を行うことの問題点は明らかであり、本教授会としては、この「通則法」による国立大学独法化に反対の立場を表明する。

3、今後の国立大学の在り方
 これからの国立大学の在り方は、21世紀の高等教育の将来像として、真理の探究や学問研究の発展、さらには地球規模での人類の福祉や共生という普遍的な価値や理念を実現する大学の使命と課題を描くことであろう。と同時に、その地域に基盤を持ち、地域の市民に開かれた大学をもめざすべきであろう。そのためには大学の内部における自己改革と、外部に対する説明責任(アカウンタビリティ)が非常に重要となる。憲法・教育基本法にうたわれている教育を受ける権利を保障し、高等教育を受ける機会を広く提供していくためには、地方国立大学の存在や相対的に低額な授業料は大きな意味をもっている。今回の独法化を意図した市場原理による行政改革の流れは、これらの国立大学のもつ教育の公共性を否定するという懸念がある。国民に開かれた大学をめざすということは、まさしく高等教育の公共性を維持・発展させることであり、国民からの意見・要望を積極的に受け止め自己改革を行うという、大学と国民との双方向の関係を構築していくことでもあるだろう。このような営みが今後ますます重要となると考える。独法化によって、地方国立大学の統廃合がすすみ、授業料の高騰化による国民の高等教育の機会均等の制約に大きな懸念を抱かざるを得ない。また、日本の高等教育予算が諸外国と比較して低率に抑えられている現状をみるとき、高等教育予算の大幅な増額を政府や関係機関に強く要望したい。

 福井大学教育地域科学部教授会は、福井大学が今まで福井県に存在する国立大学として、真理の探究や学問研究の発展をめざし、さらには人類の福祉の向上をめざして努力してきたと考えている。同時に、地域にねざし地域の課題にこたえ得る研究と教育を微力ながら進めてきたと考えている。昨年1999年4月、学部名称を教育学部から教育地域科学部に変更し大幅な改革を行ったが、3つの課程(学校教育課程・地域文化課程・地域社会課程)のめざすところは、地域にねざし、地域に貢献できる有能な人材の育成であるとともに、国立大学として人類にとっての普遍的価値の実現という理想をもめざしている。そのためには、今後ますます自己改革を怠らず、地域にねざし、開かれた大学をめざすべく、研究と教育に力をそそぐことを、ここに表明したい。

2000年5月12日
福井大学教育地域科学部教授会



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