独行法反対首都圏ネットワーク

大阪大学設置形態検討委員会見解への批判/大阪大学教職員組合
(2000.5.23 [he-forum 916] 阪大見解批判)

 阪大教職組は、[He-forum 912]既報のとおり、全国学長会議に向けた申し入れを行いましたが、3月の本学設置形態検討委員会の「見解」についての批判をまとめ、下記のとおり学長との懇談会を申し入れています。

 阪大教職組 書記長 神代

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2000年5月16日
大阪大学学長 岸本忠三 殿

大阪大学教職員組合
中央執行委員長 城戸良弘

大阪大学の設置形態に関する見解について(申し入れ)

 大阪大学の設置形態検討委員会は、「大阪大学の設置形態に関する見解」をまとめ、3月15日に大阪大学の公式ホームページに掲載されました。

 大阪大学教職員組合は、文部省が昨年9月20日に国立大学を「独立行政法人化」する案を示して以来、大学の自治と学問の自由を守り日本の高等教育を充実・発展させる立場からこれに反対する取り組みを進めてきました。
 これらの運動は、反対署名の集約(全国で26万筆、阪大で一万筆)やシンポジウム、学習会、新聞等への意見広告、学会誌や雑誌などで特集が組まれるなど全国的に大きく発展しました。 この中で「独立行政法人通則法」による国立大学の「法人化」には大きな問題があることが次々に明らかにされると同時に、多くの大学長や教授会、学協会、教員有志などの反対や危惧の表明が出されました。(同封の全大教ビラ参照)
 この結果、文部省の「国立大学を独立行政法人化する」方針決定を遅らせ、自民党の提言でも「通則法の下での法人化は問題がある」と云わざるを得なくなっています。

 大阪大学教職員組合はこのような立場で、大阪大学の標記「見解」について検討してきましたが、評価できる部分と同時に多くの矛盾や問題点を含んでいるとの結論を得、別記の「『大阪大学の設置形態に関する見解』に対する意見」としてまとめました。
 つきましては、本件について阪大教職員組合と岸本学長との間で充分な意見交換を行うための場を設けていただくよう申し入れます。

 なお、参考資料として、全国大学高専教職員組合の機関紙「全大教」(No.131)と情宣用ビラを同封しますのでご一読ください。

以 上

(別記)
2000年5月2日
「大阪大学の設置形態に関する見解」に対する意見

大阪大学教職員組合中央執行委員会

 大阪大学の設置形態検討委員会(委員長 岸本忠三学長)は、「大阪大学の設置形態に関する見解」(以下「見解」と呼ぶ)をまとめ、3月15日に大阪大学の公式ホームページに掲載した。

 大阪大学教職員組合は、今日の大学をめぐる状況について、

 1) 大学の教育・研究に必要な定員・予算・施設などの条件整備が大きく立ち後れ、学生や研究者、広範な国民的な要求に応えきれない状況が広がっていること。

2) 9次にわたる定員削減による教育・研究支援体制の弱体化と大学関係予算の実質 的な減少による施設・設備の荒廃、さらには大学院重点化や大学院生増、機構改革などによって教職員の負担が増大していることや、教養部解体後の全学共通教育体制の混乱と弱体化など多くの解決すべき問題が大学の改革や発展の障害になっている。

 3) 国立大学の独立行政法人化問題を含めて国立大学が広範な国民の注目を集めている現時点で大学人に求められていることは、国立大学はどのような役割を果たすべきか、さらに上記のような大学が抱える問題点を克服しながら、国立大学をどのように改革をするのかという本質的な議論を大学の中でまき起こすことが求められている。 

 のような認識のもとに「国民のための大学づくり」に取り組んでいる。我々は、自主的で創造的な大学改革をすすめる立場から、今回の「見解」について評価すべき点、克服すべき問題点について我々の意見を以下に明らかにするものである。

1. 「見解」は、阪大として昨年9月20日に文部省が「検討の方向」を示して以来、初めて『基本的立場』を明らかにしたものとして評価できる。
 また、「見解」が、『@ 通則法の下での独法化は、憲法23条、文部省設置法6条に抵触すること。A 主務大臣による中期目標の指示と中期計画の認可、主務大臣による学長の任免、教育研究に対する評価』などに問題があると論じ、結論として『独立行政法人通則法の下での国立大学の独立行政法人化には極めて問題が多いと』している。
 このことは、これまで組合が声明('99年10月7日付)で文部省案、('99年9月20日、文部省の検討の方向)についてその問題点を指摘してきたことや、一万名を越える「独法化」反対署名の集約に現れているように学内外で「独法化」に対する反対や危惧の声が拡がっていることを反映したものとして評価するものである。
 また、昨年9月に発足した設置形態検討委員会の下に置かれた専門委員会が、その検討の『基本的立場』を不明確にしたままで「独法化」推進のための具体化を検討してきたこと(同専門委員会議事録・附属資料)から見れば、大きく軌道修正したものとして評価するものである。

 注)・憲法第23条 学問の自由はこれを保障する。
・文部省設置法第6条 (この条文では文部省の権限を定めており、大学等に対しては「指導と助言」に限定されている。)

2.「見解」には以下に指摘するような弱点をもっており、大阪大学教職員組合はこれらの点の再考を求めるものである。
 1) 「見解」が、今回の「独法化」を「大阪大学の設置形態」の問題として捉えており、全国的な視点に欠けていることである。今回の国立大学の「独立行政法人化」が日本の将来の高等教育のあり方を左右するものであることから、大阪大学の設置形態問題として議論を展開することは不十分である。
 「見解」で述べられている『国立大学の使命』や『阪大の責務』を果たしていくためには、日本の高等教育制度(国立大学制度)の問題として捉える必要がある。この問題は全ての国立大学を、民営化を視野において「独法化」しようとするものであることから、いまこそ、国大協をはじめ全ての国立大学と共に行動することが求められているといえる。

 2) 『個別法なり特別措置によって、そうした問題点をどのように修正すべきか』(同「見解」)と述べている点である。「見解」は、『通則法の下での国立大学の独立行政法人化には極めて問題が多いと考える。』と結論づけているにもかかわらず、あたかも個別法の『修正なり特例措置』によって、「見解」が指摘している問題が解決できるかのような幻想を持っていることを指摘しなければならない。
 大阪大学は、『修正なり特例措置』路線を断念し、国立大学の「独立行政法人化」に断固として拒否の姿勢をとることこそ、大学の自治・学問の自由を守る最大の手段であること認識すべきである。時あたかも自民党の高等教育研究グループが、通則法を前提とする『大学法人』等を内容とする「これからの国立大学の在り方について」提言をまとめたことから、上記のような弱点を持つ「見解」ではこの『提言』に引きずり込まれる危険性があることを指摘しておかなければならない。

 3) 中期目標・中期計画について「見解」は、『日本国憲法23条と文部省設置法6条に抵触する可能性があると考えられる。』と論じながら、『中期目標の指示と中期計画の認可事項から、教育研究に関する事項を除外して、行政的・財務的事項に限定すべきであろう。』としている点である。
 これは、「人」や「予算」の裏付けがなくても教育研究を進められると云っているのと同じである。『教育研究に関する事項』と『行政的・財務的事項』は密接に関連しており切り離して論じられるものではない。
 これまで9次にわたる定員削減によって、教員に対する事務職員や技術職員の比率が半減していること、シーリングで校費等の大学関係予算が実質的に減少していることなどの結果として、大学の教育研究環境を悪化させていることを直視すれば自明のことである。 また、「見解」が指摘しているとおり、今回の『国立大学の独立行政法人化問題が出てきた直接の契機は行財政改革である。』ことから、中期目標・中期計画の本質的な内容は如何に「効率化・スリム化」を推進するかということである。「見解」が教育研究と行財政を無理やり切り離し、後者を「行革」の対象にしてもかまわないかのような認識は大学の貧困化を招くものであり、我々は断固として受け入れることはできない。
 これまで大阪大学が、定員削減について「大学も行政機関だ。(学長交渉での定員削減問題に対する当局の回答)」として唯々諾々と受け入れてきた。この結果として大阪大学では定員削減数に匹敵する定員外職員が劣悪な労働条件のもとで雇用され大阪大学の教育研究を支えるに至っている。大阪大学はこのことに責任を感じるべきである。今後の大学改革にとって定員外職員問題(定員問題)の解決(一斉定員化)が避けて通れないことを付言しておく。

 4) 今後の検討の方向として、『@現状のままの国立大学、A上記三点の問題の解決を含むような独立行政法人特例法の制定、B独立行政法人とは発想を異にする大学法人法の制定』の三点をあげていることについても言及しておく。上記で述べたとおり、今後の検討の方向としてAの「特例法」路線は排除された。また、Bの「大学法人」については、少なくとも今回の独法化のスケジュールの範囲内で欧米のように政府から独立し、財政等の自立的基盤が保障されるような土壌が醸成されるとは考えられない。「見解」の立場は、自民党の研究グループの提言にあるような「通則法」の範囲内での「大学法人」に限りなく接近する弱点を持っていると言える。これらのことから、今後の検討の方向として、現状の国立大学を改革する方向以外にないことを認識しなければならない。

 5) 評価問題について、「見解」が『評価結果を資源配分と直接的に関連づけることには慎重であるべきである』と述べ、『真に教育研究に相応しい評価基準、評価方法の実現に努めるべきであろう』としている。我々としても「真に教育研究に相応しい評価基準、評価方法」が実現しその評価が民主的に行われ、学問の自由と個々の大学や研究機関の発展に寄与するものであればあえて反対するものではない。しかし、いま言われている外部評価の最大の目標は「大学審答申」(98年10月)や「通則法」でも述べられているように、外部評価と資源配分をリンクさせるものであることを認識しなければならない。このようなスキームのもとで、大学評価機関によって5年周期の外部評価が実施されるなら、やはり長期的視野にたつ教育研究が阻害される危険があることを指摘しなければならない。

3.最後に、大阪大学は、「通則法」の修正や特例で、『通則法の下での独法化の問題点』が取り払われるかのような幻想を捨て、日本の高等教育の根幹を支えている「国立大学制度」の下で所要の改革を全構成員とともにすすめる立場に立つべきであることを指摘するものである。
 同時に、現在進められている国立大学の「独立行政法人化」に断固とした反対の意思表示を全国に向けて発信すべきである。

以 上



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