独行法反対首都圏ネットワーク

「社会的共通資本」から医療とリハビリテーションを語る
(2000.4.25 [he-forum 843] 週刊医学界新聞)

『週刊医学界新聞』第2380号(2000年3月20日)
 http://www.so-net.ne.jp/medipro/igak/04nws/news/n2000dir/n2380dir/n2380_04.htm

全体に興味深い対談ですが、下記のようなやりとりを含んでいます。

〔対談〕
−Meet the Expert−
「社会的共通資本」から医療とリハビリテーションを語る
 
宇沢弘文氏 東京大学名誉教授・日本学士院会員
木村彰男氏 慶應義塾大学助教授・リハビリテーション医学

●共通一次試験の弊害と国立大学の特別法人化

宇沢 日本は共通一次試験という入試制度で選抜していますが,アメリカの医学部は4年制カレッジを終了して大学院で勉強したり,社会の経験を持ってから受験します。
 東大にいた頃,数学の問題の作成と採点をしていたのですが,共通一次以前の東大の数学の問題はよかったですね。よい数学者がたくさんいて,自分が専門としている高度な問題をやさしく出題しているので,予備校では予想できないような問題が出ました。これは医師になるためにはよい訓練にもなります。
 病気は患者さんによってすべて異なります。患者さんの症状を見て,話を聞いて,いろいろな可能性を探るわけですね。数学の問題を解くのと同じように,自分の知見に基づいて,検査をしてidentifyしていくわけです。その上で治療法を考える。治療法もある治療をしてどういう効果があるかを考えながら絶えず修正していくわけですが,共通一次試験ではこういうことがまったくなくなってしまいますね。

木村 リハビリテーションの場合,看護婦さんをはじめ,理学療法士,作業療法士など,いろいろな職種の方がおります。彼らの教育はいわゆる職業教育という面も含んでいて,病院での実習を含めて,比較的少人数で行なわれています。その中で人間的な教育もなされており,むしろ医学部より進んでいるのではないかと思います。

宇沢 先ほども言いましたが,コメディカル・スタッフの社会的,経済的な地位が低すぎると思います。アメリカでは看護婦さんの社会的地位は非常に高いですね。ヨーロッパもそうです。日本は少し低すぎるのではないでしょうか。

木村 特にリハビリテーション医療はチーム医療ですので,われわれが先導しながら地位を高め,職業にプライドを持てる状況を作るように頑張ろうと思います。

宇沢 繰り返しになりますが,医療というのは聖なる職業で,優れた若者がそういう職業を選び,一生を通じて,社会的,経済的に地位の高い生き方ができる,ということが大事なのではないでしょうか。

木村 ところで最近,国立大学の特別法人化の動きがあります。競争原理が持ち込まれ,採算のとれない大学がつぶれたり,不採算部門が廃止されたりという懸念があります。この点についてはいかがでしょうか。

宇沢 あのようなひどい制度が現実のものになりつつあるのは恐ろしいですね。世界にもこんな例はありません。社会的共通資本としての大学,病院は,そこで働いている人の職業的な判断に基づいているわけで,その結果として利益が上がらないところは公的に社会が負担するという形にしないといけなません。浪費そのものは問題ですけれども,大学や病院では浪費は必要で,一種のゆとりと考えるべきです。



目次に戻る

東職ホームページに戻る