独行法反対首都圏ネットワーク

香川大・香川医科大統合問題の行方(4/17四国新聞)
(2000.4.18 [he-forum 825] 四国新聞04/17)

『四国新聞』2000年4月17日付

追跡
香川大・香川医科大
統合問題の行方

学内協議 月内にも開始

 香川大(近藤浩二学長)と香川医科大(田辺正忠学長)の統合問題が急浮上している。学長間で「統合も検討課題の一つ」で一致し、その是非を含めた学内議論がこれから始まろうかという段階。結婚に例えれば、プロポーズに踏み切ったところだ。どんな背景からこの状況が生まれ、統合にはどんな段取りが必要なのか。幸い、似通った先行ケースがある。今月初め“婚約”を発表したばかりの山梨大と山梨医科大だ。早速、山梨に飛んでこれからのポイントを探るとともに、香川の当事者にも率直な思いを聞いた。

2年後の春に“結婚”
小規模では生き残れない
山梨の場合

統合への検討が始まる香川大(上)と香川医科大

 「どちらも規模が小さな大学で、連携協力を深めないとこれからの時代を乗り切るのは難しい。互いに知恵を出し合うことで新たな学問の発展、魅力を創出する環境を整える必要があった」
 二年後の春を目標に山梨大学との統合を決めた山梨医科大学の高橋勇治事務局長は、国立大同士では全国初となる試みの経緯についてこう説明した。

●統合が得
 両大学間で統合話が持ち上がったのは、政府が国立大学の独立行政法人化を打ち出した昨年一月。
 少子化の進行や運営の効率化など、国立大学を取り巻く環境が一段と厳しさを増す中、「従来の医の領域の研究だけでは、社会に存在感をアピールできない」という山梨医科大の危機感と、「既存の工学、教育人間科学の二学部に続く『第三の学部』創設により間口を広げたい」とする山梨大の思惑が合致した。
 「どちらの大学にも属さない独立大学院の設立を検討していたところ、法人化の話が出てね。国立大として統合すれば国費で面倒みてくれるが、法人になればそうはいかない。それなら早く統合したほうがいい」とは山梨大の椎貝博美学長。
 一つの大学になれば大学院設立の手続きも一度で済む。今後の共同研究などへの支援も考えたとき、両大学がはじいたそろばんは「統合が得」だったという。

●長所と短所
 両大学が挙げる統合のメリットは大きく分けて、「学際的な新しい研究領域の発展」「教養教育の充実」「学生の交流拡大」の三点。
 「単科大学では教官の数が限られている教養教育の弱さが、統合により解消できる」と期待するのは山梨医科大。学際的な研究では「医学と工学を合わせた生命科学のほか、人文系と医学による医の倫理や法律、へき地医療などを研究する社会医学などが考えられる」(山梨大)という。
 このメリットは香川のケースにも当てはまる。高橋事務局長は「香川大は山梨大より広い学問領域を持っており、農学などは遺伝子分野で医学と密接な関係がある。むしろ、山梨とは違った多様な結び付きが期待できる」と指摘する。
 一方、デメリットは、キャンパスが二つに分かれることによる、教養科目のカリキュラム編成と学生の移動の問題。山梨大と山梨医科大の間の距離は、香川大と香川医科大とほぼ同じ約十キロ。だが、両大学は「遠隔授業なども考えられ、対処する方法はある」とみる。
 「教授会では、教育効果や意思決定に手間がかかることなどを懸念する数人の反対があったが、それは個人の判断。大学としては十分議論し機関決定した」と高橋事務局長。山梨大では反対はなかったが「手続きが性急すぎる」との声に対し、学長が直接教授らの考えを聞いて回ったという。

山梨大と山梨医科大の統合の経緯

10年11月
 両大学が教育研究協力(単位互換や遠隔授業など)について懇談。定期的に懇談することを合意。

11年1月
 両大学が統合や単位互換、連合大学院について意見交換。統合については両大学で個別に検討することで合意した。

6月
 山梨医科大が山梨大との連携協力事業の推進に関するワーキンググループを設置。

9月
 山梨医科大が「統合の是非に関する検討委員会」を設置。

11月
 山梨大が「連携・統合に関する検討委員会」を設置。

12年3月
 山梨医科大の検討委員会が「統合を是」とする報告書を教授会に提出。同大教授会は賛成多数で統合推進を決議。

4月
 山梨大評議会が統合推進を決議。両大学の学長が会見し「早ければ2002年4月の統合実現を目指す」と表明。

●合理化のシナリオ
 今回の統合劇を文部省はどうみるのか。
 「大学任せでは再編は進まないとの批判が強かっただけに、内心ほっとしている」というのは合田隆史大学課長。
 「これからは税金を投入するに値しない施策はちゅうちょせず見直す時代で大学も例外ではない。統合は今後の発展を考える際の選択肢の一つ。主体的に取り組むのであれば、その条件整備や予算獲得の支援はしたい」と話す。
 だが、今回の決定で統合に向けたすべての問題がクリアされたわけではない。公務員の定数削減という流れの中で、合理化が求められる教職員の配置はまだこれからだ。
 この点について椎貝学長は「両大学は小規模な大学で、普通の大学なら持っているはずの部署がない。統合で規模が拡大すれば当然、組織の充実も必要で、重なる部署の職員は新しい所に充てれば全体として変わらない。教員も削減が必要なら非常勤講師を減らせばいい」と指摘する。
 国家公務員の一〇%削減という国の計画についても「新しい大学を立ち上げることで猶予してもらえる。何年かたてば退職による自然減で負担は軽くなるはず」というのが椎貝学長が描く合理化のシナリオだ。
 戦前の師範学校の流れをくむ山梨大。国の無医大県解消施策により昭和五十三年に開学した山梨医大。両校の生い立ちや環境、山梨医科大の開設に山梨大が深くかかわった経緯など、香川大と香川医科大の状況に重なり合うところが多い。
 ただ、香川大は学部数が多く「合理化のシナリオをこのまま香川に当てはめるのは難しい」(山梨大)、「小規模校だったから統合がやりやすかったという側面があり、香川でもスムーズに行くかは分からない」(山梨医大)というのが先行ケースの見方だ。

危機感が出発点に
香川大が先行、追う医大

経緯と現状

田辺正忠香川医科大学長
 「あの段階で報じられたのは、遺憾です」。追跡班の取材に、香川大、香川医科大の近藤、田辺両学長は、こう口をそろえた。
 両大学の統合問題が初めて報道されたのは、三月二十二日。両学長の間で「統合問題も検討課題の一つ」という認識が生まれた直後だった。学内の正式機関に諮ったわけではなく、まだ胸の内の構想だった。
 「おかげで、学内に疑心暗鬼が生まれてね」と田辺学長。言葉の裏から、「民主的手続きで決めるべき事柄なのに、トップダウンと受け取られかねない」という懸念が感じ取れた。
 が、報道した側は、両大学のトップが「統合も検討課題」の認識に至ったこと自体に着目した。それは、国立大学も安閑とはしていられない厳しい時代に突入していることを象徴する動きだったからだ。

●大学の危機感
 「例えば、農学部に建設中の遺伝子実験施設。単独では難しい時代なんです。香川大と共同ならという形で、ようやく認められた。スタッフも共同。そんな話を詰める過程で、どちらからともなく次のステージが浮かぶのは自然でしょ」
 両学長の情報交換会に同席し、この間の実情を知る香川医科大の横畑勲事務局長は、具体的な事例を挙げながら、統合問題が浮かんだ経緯を説明する。
 「独立行政法人化の動きも含め、全国九十九の国立大学がこのまま存続できる諸条件にないという認識は双方にあった」とは田辺学長。この問題に口の重い同学長も、大学を取り巻く厳しい状況への危機感が出発点だったことを率直に認める。
 「それに、教育面では大きなメリットがある。人間性豊かな倫理観に富む医師を育成するには、多様な価値観を持った幅広い層との交流が大事だから」とも。共同の研究成果が期待できる点も含め、このあたりが認識の一致点だったよう。

 これが三月段階。で、今はどういう現状なのか。

●半 歩 の 差
 香川大は今月七日、学部長らの幹部を集めた大学運営会議を開き、近藤学長がこの間の経緯を報告、大学の課題として検討を始めることを内定した。正式決定は二十一日の評議会だが、一応の機関決定。事実上、作業はスタートした。
 一方、香川医科大は新任の田辺学長が五日に開いた教授会で、「統合を前提として検討を始めたい」と所信を表明した段階。「これは一方通行、まだ議論をしたわけではないからね」。学内の微妙な雰囲気を映して田辺学長は慎重だ。
 今後は、学長補佐機関として新設する運営会議(学内各部門の代表九人で構成)で、メリット、デメリットを精査し、検討の価値ありとなれば、教授会に諮るという。
 「まだ香川大のように正式機関をパスしたわけではない。でも結婚と同じで、相手をあまり待たせても悪いから、できるだけ香川大の動きとシンクロはさせたいが」(田辺学長)という実情。香川大より半歩遅れの状態だ。
 スケジュールについては、両大学とも言葉を濁すが、先行する山梨の状況などを勘案すると、一年ほどの学内議論が必要とみられ、双方が統合で一致したとしても、具体的な協議会の設置や予算要求は、早くても来年度になる見込みだ。

独自慣行の融合が課題

インタビュー
近藤浩二香川大学長

―現状は。
 近藤 大学運営会議で、初めて公式に問題の経緯を報告、「検討を始める」ことが認められた。結論じゃなく、検討開始だから、評議会でも認められよう。今言えるのは、それだけ。内容はこれからだ。

―異論、反論は。
 近藤 構成員に知らせる前に新聞に載った点についてただす声はあったが、学長レベルで一致し、学内に提案することについての異論はなかった。

―香川医科大の学長が四月で代わった。新学長とは方向を確認したか。
 近藤 新任あいさつの際、確認した。三月の学長間の情報交換の場に、学長予定者として陪席してもらい、一応のことは承知してもらっていたから。

―変化はないか。
 近藤 ない。香川医科大も正式に検討を開始することになろう。私たちが置かれている状況について認識は一致している。

―「置かれている状況」とは、独立行政法人化か。
 近藤 それも一つ。長期的に見れば、大学の再編、統合は避けられない。大学同士の連携を強化する必要がある。既に単位互換協定を結び、遺伝子実験施設も共同で設置する。そういう状況を考えれば、統合は一つの検討課題だ。

―評議会で認められると、その後の運び方は。
 近藤 いろんな選択肢がある。例えば、評議会の下に、特別な検討委を設置する方法もある。が、今回の問題については、香川大だけのメリット、デメリットでなく、大所高所からの見方も必要だ。とりあえず、運営会議で検討を進め、それを評議会に諮る。あるいは教授会の意見を聞いて、評議会に諮る。従来の審議機関の中での検討を考えている。ただ、次の評議会によっては、特別委設置の可能性はある。

―最終的な形は。スケジュールも含めて。
 近藤 次の評議会でスケジュールまで決まるかどうか。意見は聞く。最終合意は、香川大の評議会、香川医科大の教授会で決定し、ゴーなら学長が調印、条件整備の作業に入る。その間は、互いの学内で検討を進めることになろう。

―両大学の協議は。
 近藤 互いがどう考えているかを協議しないといけない場面が出てくる。学内の検討がある程度進むと、協議機関を設置し、考え方を突き合わすことになる。

―山梨は合意までに一年ほど。その程度は必要か。
 近藤 分からない。今度の評議会で、ある程度の見通しが立つかもしれない。

―改革に批判はつきもの。学内に抵抗は。
 近藤 細かくメリット、デメリットを考えると、不安は出る。でも、長期的、大局的見地に立てば、必要性は理解してもらえる。私自身、必要性を感じたから問題提起した。ただ、どれだけ一つの大学として融合できるか、難しい。

―想定できる壁は。
 近藤 先に壁を想定はしない。ただ、両大学はかなりシステムが違う。人事一つ取っても、互いになじまない慣行がある。それを一つにしないと、一つの大学とはいえない。今は、互いの違いを顕在化させ、「こうしたらいける」を積み重ねることだと思う。

―細かな作業になる。
 近藤 最終結論を得るには、そうだ。山梨も今からが大変だ。今は「結婚を前提に付き合いましょう」という段階。結婚に至る難しい問題は、これから浮かび上がってくる。

―医大も開学から十年以上。独自の文化がある。
 近藤 ええ。医学部は独自なものがあり、さらに医科大という形で慣行ができている。

―異文化の衝突と解消の経過こそ、メリットでは。
 近藤 そうかもしれない。一番のメリットは、学生の広い意味での教育だ。単科大は、同じ集団だから、異分野の学生との交流は少ない。香川大側も専門性に触れられる。単に卒業要件の中の教養教育だけでなく、広い意味の教養教育に意義がある。

―教養部門の合理化とか、管理面のメリットは。
 近藤 組織面の話は、後でついてくる。大学として考える基本は、教育・研究面でどうか。それが地域に対して貢献できるものかどうか。それが先の検討課題だ。行政組織の面で減量化になるというのは、先にあることではない。

◇古田忠弘、山下淳二が担当しました。

(2000年4月17日四国新聞掲載)



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