独行法反対首都圏ネットワーク |
中村攻(なかむら・おさむ=千葉大教授)氏の論説
(2000.4.13 [he-forum 819] 中村攻氏の論説)
中村攻『子どもはどこで犯罪にあっているか―犯罪空間の実情・要因・対策』(晶文社、2000年3月)
中村攻(なかむら・おさむ) 千葉大学園芸学部緑地・環境学科教授。地域計画学担当。
あとがき(pp.233-234)
新しい世紀を前にして、日本の大学は大きい試練に立たされています。独立行政法人化から、さらには民営化へとつながる門口に立たされているのです。
大学が主として担ってきた高等教育と基礎研究にストレートに市場原理を導入することが、この国の将来に何をもたらすかということを考えると、暗澹とした思いに駆り立てられるものがあります。行財政改革の方向はもっと異なる視点から検討されなければならないし、この国の将来を考えるならば、むしろ、私立大学も含めて大学の教育・研究環境はもっと充実させるべきです。せめてヨーロッパ並みの環境を目標にすべきであります。
いま日本の大学人の多くは自己改革を模索しながら独立行政法人化に強く反対しています。国が高等教育と基礎研究の遂行に責任を放棄してはならないと考えているからです。しかし、大学人のこうした強い危惧にもかかわらず、こうした事情が広く国民に理解され支持されるという状況にはなっていません。――ここに今日、日本の大学がかかえている大きな問題が存在していると思われます。特に国民の税金に全面的に依拠している国公立大学にはきわめて重い課題が提起されていると考えるべきです。今日の状況は、大学が国民の生活からあまりにも隔絶し、彼らの日常的関心事から遠い存在になっていることを意味しています。社会性や倫理観の貧しい個人的趣味的研究が横行したり、ストレートに企業活動と直結するような研究が肥大化したり、さらには、極端な業績主義にふりまわされて、国民が大学に寄せる信頼や期待が大きく低下してきています。大学はもっと国民生活のなかに深く根を張り、そこからにじみでる悲しみや苦しみ、楽しみや喜びを体感し、その視点から研究と教育を再構築していくことが求められているのです。
都市計画や造園計画の分野とて例外ではありません。国民の住みよい生活空間をつくりだしていくために、もっと深く国民生活のなかに根を張り、そこから研究課題を発掘し、基礎的研究を積み重ねながら、得られた成果をまちづくりに生かしていくという姿勢をもっと明確にすべきであります。そのなかで大切なことは大学が行うべき研究の位置と役割をはっきりさせていくことです。
住みよいまちづくりは、大学の研究だけでもたらされるものではありません。
国や自治体の職員、企業の技術者(計画者)、一人一人の住民や住民組織といった多くの人々の連携と協同によって可能になるものです。そうしたなかで、大学人がどんな役割を期待されているかを十分に視野に入れる必要があります。
自治体などの日常業務では取り組めないこと、民間の企業活動には取り込みにくいこと、住民の日常生活のなかではなかなか見えてこないことなど、各階層がかかえている弱点をおぎなう形で、時間をかけ、基礎的で将来的で先駆的な事柄を中心にして、大学はその役割を果たさなくてはならないのです。
この研究がそうした要件を備えているとは思えませんが、そうした目標をかかげて希望をもって取り組んできました。都市計画や公園造りを専門とする大学人はどんな視点からどんな研究に取り組むべきかが、広くまちづくりに関わる人々の間で討議される一つのきっかけになればと思っています。
(後略)