独行法反対首都圏ネットワーク |
世耕弘成氏の論説
(2000.4.12 [he-forum 814] 世耕弘成氏の論説)
JOIN No.35
2000年1.2.3月号
国立大学独立行政法人化の是非を問う
我が国の高等教育改革の起爆剤となれ
世耕弘成 参議院議員
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せこう・ひろしげ 1962年生まれ。NTT本社広報部報道担当課長を経て、98年参議院議員当選。文教・科学委員、決算委員、金融対策及び経済活性化特別委員。自由民主党国会対策委員、青年局次長、情報通信関係団体副委員長。
2001年から中央省庁を1府12省庁体制に移行することを柱とする中央省庁等改革関連法と、地方自治体の権限強化を図るための地方分権一括法が去る7月8日の参議院本会議で可決・成立しました。この2つの法案成立により、21世紀に向けた新しい行政制度の骨格が整ったことになります。成立した中央省庁等改革関連法では、1.内閣機能の強化を目的とした国家行政組織法の一部を改正する法律(閣議で首相が発言した場合の政策発議権の明確化や内閣の政策立案機能を補佐する内閣府の設置などにより内閣機能の強化を図る)、2.現行の1府21省庁体制を、内閣府を中心とする1府12省庁に再編する法律や各省設置法(文部省は科学技術庁と合併し、文部科学省となる)、3.企画立案と実施機能を分離して、効率化を目的とする独立行政法人通則法など17項目の法律が含まれています。
そこで、国立大学の独立行政法人化を論じる前に、その前提となる2001年からの国家行政システムの変化の内容と、また、何故このような中央省庁再編(改革)が必要だったかを確認しておく必要があります。
中央省庁改革の一環として
中央省庁改革の原点には、民間セクターでの市場経済原理の徹底や経済のグローバル化の急激な進展という環境変化の中で、行政、公的機関といえども、いままでの運営手法や意思決定のプロセス、言いかえれば、行政・政府の仕事のやり方そのものが既に限界点に達していて、その見直しが強く求められていたことにあります。
これまでの行政は官僚の裁量判断に負うところが多く、意思決定過程が不透明であったり、そもそも官僚は選挙というものを経験せず、国家公務員としての地位も保証されているわけですから、結果についての責任を明確に問われることがないという問題点がありました。一方民間企業では株主に選ばれた経営者の意思が企業行動に反映され、その結果について株主に対して経営者は責任を取らなくてはならない仕組みになっています。
今回の改革では、行政の世界にも民間企業では当たり前のリーダシップを導入し、指導者の説明責任や最終責任を明確にしていくことが主眼であるということができます。そのための手段として、国民の選挙により選ばれ、その行為結果について選挙の場で責任を問われることになる政治家に行政の主導権を持たせよう、「政治主導」を確立しようということになりました。
具体的には首相の発言権を明確化することや副大臣制の導入により、国民から選ばれた政治家がリーダーシップを取れる環境が整備されました。従来型の官僚という国民の選挙を経ない専門家集団による裁量行政を排除し、政治主導の政策決定を行なっていくことになりました。そして、新しい制度では政府委員制度が廃止され副大臣と政務官が各省庁に配置されることにより、政治家が国会の場で自らの行政行為について説明責任も負うようになったわけです。官僚はあくまでも政治家の決定に基づいて行政を執行することが仕事であり、いままでのように、官僚が国会に対し行っていた法案の説明なども、政治家対政治家という形で行うことになり、国民主権という観点から極めて正常な形態が実現することになります。とはいうものの、このような形式だけで真の行政改革が完成するわけではなく、政治家自身の意識と資質によって、成否が左右されることになります。
今回の行政改革のもう一つの狙いとして重要なのは、縦割り行政から脱皮することです。「省益あって国益なし」という言葉がありますが、個々の政策の必要性、期待される効果に対する国益を前提とした検討や評価を行うシステムが、いままでほとんど存在しなかったことが、無駄で非効率な行政を助長する要因であったことは否定できません。現在の22省庁はそれぞれ独立した22の政府という感覚を排除し、2001年には、省内の各部局や地方の出先機関の統合を進めることによって縦割りのシステムを是正し、内閣府のもとで12省の政策の1元化を図らなくてはなりません。
さらに、中央省庁等の改革で重要なことは、肥大化している行政機能をスリム化・効率化して、必要最小限の機能に集約することです。
法人化と特別措置
国立大学の独立行政法人化は、こういった国全体の行政改革の流れの中で大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環として検討されているもので、極言すれば国立大学は国全体の行政改革のミニチュア版ということができるかもしれません。また国民にとって国立大学は最も身近な国の機関であり、国民が今回の行政改革の成果を直接知る場になるともいえます。そういう意味で国立大学の独立行政法人化の成否は大変注目に値するものだと言えます。
国立大学の独立行政法人化は、文部省に属していた一部業務を分離・独立させて法人化することで実施されます。今年9月20日には、文部省が全国の国立大学学長などを集めた会議を開催し、国立大学の独立行政法人化の検討を行う際の基本的な方向を表明しました。
独立行政法人化された国立大学で行なわれる業務は研究、教育という一般行政とは異なった特質を持つものです。現在の独立行政法人通則法だけでは、このような特性を踏まえた対応はできないため、特例措置等を講じることが必要となってきました。具体的な特例措置として、1.独立行政法人制度における主務大臣による法人の中期目標の指示、計画の認定において、大学の自主性・自律性を確保すること。2.独立行政法人制度における法人の業績評価は、教育研究に関しては、国によるものではなく、大学関係者等により構成された第三者機関が行う。3.法人の役員(学長を含む教員)人事は、大学の自主性・自律性を確保する。今後、特例措置等の具体的な方向については、国立大学協会をはじめ関係者の意見を聞きながら検討を進め、平成12年度のできるだけ早い時期までに結論を出す方向で調整が進められます。また、制度の詳細部分についても十分に時間をかけて慎重に検討されることが望まれています。
独立行政法人制度の特徴は、従来の国の機関全般が持っていた構造的欠陥ともいうべき、予算と人事管理の硬直化を解決するために、民間組織的な弾力的運営、自主的経営が可能となっている点です。
運営費については、独立行政法人が弾力的・効果的に使用することができます。また、中期計画中の経営努力により生じた余剰金については、評価委員会の認定を受けることを前提に一定の範囲内での取り崩し使用ができます。
組織・人事管理に関しては法令で定める基本的枠組みの範囲内で独立行政法人が独自に決定でき、従来の組織管理手法や事前定員管理の対象外となります。要するに各大学に見合った組織編成や人員構成をとることができるようになります。
給与制度では、法人および職員の業績が反映される給与等の仕組みを導入することができます。給与の基準となる法人の業績評価に関しては、所管大臣が3〜5年の期間を定め、経営上の達成目標を設定して、独立行政法人がこの目標を達成するための中期計画を作成し、最終的には、各府省および総務省の評価委員会が定期的に達成度を評価します。透明性確保のために、業務、財務諸表、中期計画・年度計画、評価委員会の評価結果、監査結果、給与等に関する事項などの項目はすべて情報公開されます。
こういう手法が独立行政法人化で、国立大学に導入されることにより、組織編成、教職員の配置、給与・報酬の決定などをはじめ、予算執行等の面での国からの規制が緩和され、各大学の自主性が大幅に拡大されます。更には、教育研究や教職員配置等の大学運営全般にわたり、より自由な制度設計が可能となり、大学の個性化の促進、競争的環境の創出が期待されます。
独立行政法人制度は、国による運営費や固定的投資経費の交付があるため、完全な独立採算とはいえませんが、経営目標の達成度について客観的な評価が下されるわけですから、学長をはじめとする大学の経営陣の責任が問われるようになってきます。そのため、学長のリーダーシップと、経営の視点なども踏まえて適宜適切な意思決定ができる機関の整備が重要となり、学長の選考方法や副学長・運営諮問会議の構成なども含めて検討する必要があります。
地域性と公益性の確保
現在のように、全国に国立大学が存在することの意義は大きく、地方の風土や文化と密接に結びついて個性ある大学を形成しているところも多く見うけられます。また、希望する地域で希望する教育を受けられるという公益性も持ち合わせています。独立行政法人化が行なわれたとしても、このような地域性や公益性は確保されなくてはなりません。教職員についても国家公務員としての安定した基盤がなければ、自由で継続した研究・教育ができないという考えから今回の独立行政法人制度では、身分は保証されて公務員を続けることが出来る制度となっています。
今回のような大掛かりな独立行政法人化はわが国の教育界にとってはじめて体験することであり、それに伴う困難な場面に直面することも十分想定されます。しかし、その時には恐れず、勇気と自信を持って事態に対処していくべきであり、前向きで柔軟な姿勢をとることにより、必ずや問題を克服できることでしょう。何も実施前から悲観論に立つ必要はありません。そもそも昔から独立した法人が設置する私立大学などでも、教育・研究の成果を十分に挙げ、発展していることを忘れてはなりません。逆に国立大学が独立行政法人になるこ
とによって、国の組織の一部であるための様々な規制・抑制から開放され、国立大学自身にとってむしろ未来へ向けた変革のために与えられた絶好の機会であるとして捉えるべきではないでしょうか。かつて電電公社や国鉄が民営化される際に、公益性が損なわれるのではないかと様々な悲観論が飛び交いましたが、逆に両社は経営の自由度を活かして活発なサービス展開を行ない、ユーザー、株主、従業員に大きなメリットをもたらしました。
今回の国立大学の独立行政法人化は、限りない可能性を秘めた一大改革の最初の一歩にすぎません。いかにして目標を達成し、自己責任においての効率的な経営感覚を十分にもった組織となるか。そして国民にとって透明で公正で信頼性の高い有用なサービスを提供する機関に変身しなければなりません。それが21世紀を見据えた日本の高等教育の改革・発展につながっていく起爆剤となることは間違いありません。